▼ とある少年の独り言
※モブ視点
僕はどこにでもいる普通の男子中学生の山田
成績も個性も並だ
変わり映えのない毎日だけれど、最近気になっている女の子がいる
今日もいつも通り登校し、下駄箱のところで出会したのは隣のクラスの舞羽さん
金色の髪と目、それに真っ白な羽を持つまさに天使のような女の子
「あ、おはよう山田くん」
去年一緒のクラスだったおかげで名前を覚えてもらているらしく、にこりと微笑む彼女に頬が緩む
「おはよう舞羽さん」
舞羽さんはこの折寺中学でも一際目立つ存在だ
成績は常に10位以内には入っているし、個性も派手
明るく誰にでも分け隔てなく接するまさに太陽のような彼女へ好意を抱いている生徒は多い
「あ、唄じゃんおはよー」
「おはよう、今日は宿題やってきた?」
「やば、忘れた!見せて」
「やだ」
友達と仲良さそうに会話している姿に癒されていると背後でバンッ!とすごい音がした
何事だと思いながら振り返るとそこには腰パンをしている爆豪が不機嫌そうな顔でこっちを睨みつけている
「何見てんだ、クソモブ!」
おまけにこの口の悪さ
こんな奴が成績トップなんてどうかしている
爆豪の怒りを買わないようにサッと目を逸らして自分の教室へ向かった
昼休み
購買でパンを買って友達と昼食を取っていると爆発音が聞こえた
グラウンドの方を見ればそこには体操服を着ている舞羽さんと爆豪が個性を使って戦っている
「出た、折寺名物の"個性合戦"」
そう、折寺中学ではグラウンドでの個性の使用は認められている
休憩時間や放課後はこうやって誰かが個性を使っているのを見ることが日常茶飯事なんだけど、最近はあの2人の戦闘が多い気がする
「爆豪ってほんと野蛮だよな」
舞羽さんになんて事をしてるんだと不快に思ってそう吐き捨てると友達はケラケラと笑った
「まあでもアイツ成績いいしなー、それに幼馴染なんだろ?遊びの延長線上なんじゃねーの?」
「あんな至近距離で爆破して…怪我でもしたら大変だ」
「怪我ねえ…まあ流石に舞羽相手に本気は出さねーだろ」
「え?」
友達の言葉に問い直すとそいつはグラウンドの爆豪を眺めながらパンを食している
「だってさ、爆豪って舞羽のこと好きだろ?」
衝撃を受けるとはまさにこのことだろう
全身が雷にでも打たれたかのような感覚になって友達を凝視していると、そいつが僕を見てギョッとする
「え…まさか知らねえ?」
「何が」
「舞羽に告る奴みんな爆豪に邪魔されてる話」
知らなかった
確かにあんなに可愛いのに彼氏がいないなんて不思議だとは思っていたけれどそういうことだったのか
その時ふと思い出したのは今朝の下駄箱での出来事
舞羽さんに鼻の下を伸ばしていた僕を睨みつけてきた爆豪のことを思い出しサアッと青ざめる
もしかして僕が彼女に好意を抱いてることがバレてるんじゃないだろうか
「あとあの2人雄英受けるらしいぜ」
「え?!あの雄英!!!?」
雄英と言えばヒーローを目指す者なら誰もが一度は憧れる超名門校
全国各地から強力な個性の持ち主が集まって行われる入試の倍率は毎年300を超えるとも言われている
最早雄英の生徒っていうだけで芸能人と同格のように扱われるんだからその人気も知名度も凄まじい
「爆豪はあの頭の良さであの強い個性、それに舞羽も頭いい方だし爆豪と渡り合ってんだから多分アイツら受かるんだろうなー…今の内にサインもらっとこうぜ」
しれっとそう告げた友達と対照的に僕は二度目の衝撃を受けていた
舞羽さんに告白しようにも爆豪に邪魔をされ、卒業しても尚あの2人は一緒にいる可能性が高いなんて勝ち目がない
それに爆豪と戦っている舞羽さんは迷惑そうにしながらもどこか楽しんでいる様子で悔しいけれど爆豪にだけ見せる表情なんだろう
「結局モブはモブのままだよな…」
「何の話?」
「いや、独り言」
どうやら僕の恋心は跡形もなく打ち砕かれたらしい
そして格の差を思い知ってしまった
漫画のようにモブでも活躍できる展開はやってこない
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