ヒロアカanother story


▼ 2



5歳になったとある日、お父さんに連れられて来たのは日本家屋の家

「お父さん、ここは?」

「父さんの親友の家だよ」

親友、つまり仲がいい友達という意味だったはず
突然連れてこられた理由はわからないけどお父さんが嬉しそうなので私もつられて頬が緩む

インターホンを押して門をくぐれば立派な庭が見える
水鞠のお屋敷は大きすぎるけど、この家もかなり大きい

「(お父さんの親友…どんな人なんだろう)」

お屋敷の外に出るのは幼稚園の時くらいだからそわそわしていると、玄関が開いた

「久しいな流人」

そこにいたのは大柄な男の人
お父さんと違って何というか…ごつい

「やあ炎司」

にこにこしているお父さんと違って親友さんは顔が怖い
それに何だかやつれているようにも見える

「(どこかで見たことある気がする…)」

誰かに似ている気がするけど思い出せない
テレビで見たことがあるのは間違いないはずなんだけど

すると考え事をしている私を親友さんが見下ろした
そのことに慌てて背筋を伸ばして一礼する

「はじめまして、雫です」

「ああ…ようこそ」

挨拶をして目を見れば、親友さんは目を逸らした
何だか変な人だなと思うけれど、失礼なことを言ってはいけないので様子を見守る

通されたのは応接間
そこでお父さんと親友さんは何か大切な話があるとかで途中で私は追い出されてしまった

庭で遊んでいいと言われたので広い庭を散策していると、鯉の泳ぐ池を見つけた

「わ…お魚だ」

水の中ですいすい泳ぐ鯉は私が覗きこんだことに気がついたのかわらわらと集まってくる
口をぱくぱくさせて餌を強請る姿を眺めていると、後ろで足音が聞こえた

「誰、お前」

聞こえた声に振り返ると、そこにいたのは私よりもいくつか年上の男の子
真っ白な髪に青い瞳の男の子は無表情で私を見下ろしている

「私は雫、あなたは?」

「…燈矢」

「燈矢くんだね、この家に住んでるの?」

その問いかけに燈矢くんは答えない
訝しげに私を見ては冷たい目で見下ろす

「ああ…水鞠のおっちゃんの子か」

どうやらお父さんと面識があるのか燈矢くんの疑いの眼差しが幾分かマシになる
さっきこの家の門に"轟"って書かれてたから轟燈矢くんなんだろう

「ねえねえ、燈矢くんって何歳なの?」

私の質問には答えず燈矢くんは屋内へ向かって歩いて行ってしまう
そのことにムッとした私は燈矢くんの前に水の壁を作り出して歩みを止めた

「なっ」

「無視しちゃだめなんだよ、燈矢くん失礼!」

「お前…っ」

私を振り返った燈矢くんは驚いたような顔でこっちを見ている
その目はさっきよりも私をちゃんと捉えていて、首を傾げた

「これお前の個性か?」

「うん、水を操れるんだ」

「発現してからどれぐらいだ?」

「んー…1年ちょっとかなぁ」

4歳に発現してから毎日訓練していたから簡単な造形くらいはできるようになったけど、お父さんや水鞠の人達に比べたらまだまだ稚拙な出来栄えだ

「…1年でここまで…そっか…やっぱりウチの女連中がダメなだけで…」

「え?」

何か言ったように聞こえたけれどその言葉が聞き取れず問い返す
それでも燈矢くんはやっぱり答えてくれない
でも先ほどよりもすっきりしたような表情で私を見ている

「雫…ね、覚えといてやるよ」

そう告げた燈矢くんは今度こそ家へ向かって行ってしまう
残された私は不思議な子だったなと思いつつも再び鯉に目を向けた








prev / next



- ナノ -