ヒロアカanother story


▼ 空想に思いを馳せる



本を読むことが好きだ
自分の知らない世界に行ったり、新しいことを知れるからわくわくする

初めに読んだのはお父さんが買ってくれたファンタジー小説
個性のようなものを持った人が悪い人から世界を救うために戦うというありがちな話だった

次に読んだのは少女漫画
恋愛とは何だかわからない私にとって新鮮ですごくドキドキしたのを覚えている

その後もミステリーやサスペンスなど色んなジャンルの本を読んでは高揚する日々
今日も今日とて本を読む私に近づいてきたのはクラスの友達

「雫、また本読んでるの?」

「だって自習中だし」

「そうだけど、周りがこんなにうるさいのによく集中できるね」

自習と聞いてテンションが上がったクラスメイトたちは友達と話し込んだりとわいわい盛り上がっている
もう夏目前、すぐに受験がやってくるというのに危機感のない光景で先生が見たら落ち込むかもしれない

「で?今回は何の本?」

「この前出た短編小説だよ」

「あー、これ本屋で推してるやつだ」

表紙を見たことがあるのか納得したような顔をした友達は私が読んでいるページを覗いて顔を歪める

「げ…文字だらけ…」

「小説だからね、読んでみる?」

「いやいや、私そういうの読むと頭痛がするタイプだから」

「なにそれ、聞いたことないよ」

凝山中学もそこそこ進学校だというのにそれでよく合格できたなと呆れていると、友達はスマホをいじり始めた
その様子を見てから私も手元の本に視線を落とす

確かに文字だらけで挿絵なんて何もない
人によっては苦手だと思えるのかもしれないけれど、一文字一文字目を通して頭の中で光景を思い浮かべていくのは面白い
文字から読み取る情報が自分の頭に世界を創り上げていくのは素晴らしいことだとさえ感じる

「(そういえば焦凍くんもあまり本を読まないって言ってたっけ)」

自分の許嫁であり、許嫁破棄同盟を結んでいる友達の轟焦凍くん
時々会うので話したりするけど、確か本は読まないって言ってた気がする

というか、読めないのかもしれない
エンデヴァーが彼に執着しているせいでほぼ自由なんてないんだろう
言われてみれば焦凍くんと趣味の話なんかしたことがない

「(…自分の子供を道具のように扱うなんて信じられない)」

道具のように扱われているのは彼だけじゃない
焦凍くんの子供を産むためだけに許嫁にされた私もまた道具なのかもしれない
それにエンデヴァーに逆らえない両親も同じだ

強い者が全てを支配する
いくら足掻こうが支配から逃れることはできない
それを学んだのは中学の入学式の日
両親のためだけに生きてきたのに、あの日から未来すら諦めるようになった

私が努力したところで何も変わらない
だったら自分の本音なんか言わない方がいい
言ったところで誰かを困らせるだけなのだから

そう思うようになってからは本の中の世界が尚更輝いて見えるようになった
私が欲しくても手に入らないものを手にする登場人物たちを羨ましく思う

「(もし私が物語の世界に生きられたなら…)」

もしもなんて馬鹿馬鹿しい
想像すればするほど現状が程遠いと思い知るだけなのに

ここまで考えてから本を閉じると、友達が不思議そうにこっちを見てくる

「あれ、読まないの?」

「うん、続きは帰ってからにしようかなって」

こんな気分のまま話を読みたくないだけなんだけど、友達は嬉しそうに調べていたであろうコスメを見せてきた
「これ可愛くない?今日帰りに買いにいこーよ」と話す彼女にも素の自分を出せないなんて酷い奴だ

酷い自分は嫌いだ
本当はもっと素直なままで生きたい
たまにはわがままだって言ってみたい

でもそれは叶わないってわかっているから
だから私は今日も嘘つきの、いい顔しいの海色雫の皮を被る

「ごめんね、今日も個性の訓練しなきゃだから」

「えー」

不満げな表情の友達に眉を下げて謝る
本当は一緒に遊びに行きたいけどそれは出来ない

真面目でいい子として生きるのが一番いいと知っているから

「(私の物語はどこにあるんだろう…)」

いつか見つけられる日が来ればいいのに
そう思って本をカバンにしまった







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