ヒロアカanother story


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ショートくんと出会って数年
私は週に何度か彼と海岸で語らう

「え、それじゃあお父さんがまたクズモチの実を食べた人を死刑に?」

「ああ…アイツはいつもそうやって横暴に振る舞うんだ」

この数年で知ったのは彼のお父さん、つまりここの領主がかなりのろくでなしということ
そしてショートくんは父親を嫌っているということ

「私もお父様に国を継げって言われてるんだ」

「そういえばお前姫だったな」

思い出したかのようなショートくんに頷く
アクアリウス以外にも人魚の国はあるが一番の大国だと言い聞かせられてきた

「お父様もね、昔は優しかったんだ…でもお母様が亡くなってからは頑固になっちゃったの」

お母様は陸のことを好んでいた
亡くなったのは病によるものだが、お父様は必要以上に陸に上がったせいだと言っていた
だから陸に上がるのを禁忌としてまで私を海に縛ったのだ
まあ現に破っているわけだけど

「お互い厄介だな」

「だね」

自分たちのことを父親に決められる似た者同士
きっと彼と友達になれたのはこういう背景もあったせいだろう

と、その時いつものように友達の魚が慌てたように顔を出した

「姫!大変!!国王が君を探してるよ!」

「え」

お父様が直々に私を探すなんてありえない
よほどのことがあったに違いないと思いショートくんに別れを告げて城へ戻ると、お父様が冷たい声で告げた

「シズク、お前の婚姻が決まった」

耳を疑った
お父様は私の方を見ようともしないで淡々と告げている

「え…待ってください…だって…それは成人まで待ってもらえるって…」

人魚の成人は18
それまでは待ってもらえるから好きにしていいと言われていた
今年で16なのであと2年は好きにできるはずなのにどうしてこんなことになるのか理解できない

「お前が陸に行っているのは知っている、そんな馬鹿なことをしている暇があるのなら一刻も早く国を継ぎなさい」

お父さんはお母さんを失ってからずっとこうだ
私のことを見ようとしないで物のように扱う

「人間は心が汚い、人魚を喰らった者もいると聞く
強欲で浅ましい愚かな種族だ、そんなものと関わる必要はない」

「っ…いい加減にしてください!私は好きなように生きたいと何度も」

「シズク、お前はアクアリウスの姫だ
我儘を言っていい人物ではないと分かっているだろう」

お父様の言葉にぞっとする
ここにいても私は絶対に幸せになれない
この先も一国の姫として正しく生きるように強いられる

だから私は兵士の目を盗み城を飛び出した
向かうは陸の世界、ユウエイ王国

水面から顔を出し急いで海岸げ向かって砂浜に上がる
今は夜なので太陽の光はない
だがやはり鱗が渇くせいで痛みはある
手を掲げ集中し魔法をかけると人間の姿へと変身した

人間へと変わってもこれは魔法、乾きや日光に弱いことに変わりない
それに何度か練習はしたものの人間の足はまだ違和感はある
立ちあがろうとしていると「シズク?」と声が聞こえた

「ショートくん…何で」

今は夜、ここにいるはずのない彼に驚いていると慌てて駆け寄ってきた彼が持っていたマントで私の下半身を隠してくれた
どうやら人間は衣類というものを纏わないといけないらしい

「何でお前が…それにその足…」

ショートくんに経緯を話し逃げてきたことを伝える
このまま自分が父親の言いなりになるのが嫌だと告げれば彼は自分に重ねたのか私を抱えた

「まだ歩くのも難しいだろ、掴まってろ」

確かに私はまだ上手く歩けない
こうやって彼に触れられることに恥ずかしさがないわけじゃないが、大人しく言うことをきくことにする
こうして私は見事国を捨てた裏切り者となり、陸へ上がった禁忌の人魚となった

彼の家について匿ってもらうことにした私はこっそりと生活させてもらった
まずは歩行練習から行い数日かけて自然と歩けるようになる

もうアクアリウスからの追手がきているだろうか
陸に上がってまで捜索しているようならきっとすぐに見つかってしまう

「どうした、顔色悪いぞ」

心配して私を覗き込むショートくんの手が頬に触れる
人間へ変身しているせいか今は体温が近いようだ

「ごめんね迷惑かけて」

厄介者を匿ってもらってありがたいと同時に申し訳ない
だがショートくんは不思議そうに首を傾げる

「何言ってんだ、先に迷惑をかけたのは俺だろ」

何のことだと不思議に思っていると彼は10歳の頃の話をした
あの日溺れていたところを助けたことを言っているらしい

「何年前のことを言ってるの?それにあれは私がそうしたくてやったんだから気にしないで」

「そうはいかねぇよ、俺はお前に借りがある」

そんなつもりで助けたわけじゃないので困っていると、ショートくんの指が私の頭を撫でる

「ショートくん?」

「それに…俺はお前が」

彼の眼差しはなんだか熱っぽい
その視線にどきどきと胸が高鳴り視線が逸らせなくなる
種族は違えど誰かを想う気持ちが一緒なのだとしたら

「(私はきっと彼のことが…)」

ちょうどその時、ショートくんのお付きの方がやってきたので離れる
私を匿っていることはショートくんとこのお付きの方しか知らない極秘事項らしい

「シズク様に食事をお持ちしました」

にこりと微笑んだその方に私もつられて微笑む
人間にも親切な人はいる、お父様はやっぱり間違っているようだ








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