ヒロアカanother story


▼ アンケート2位記念



※当HP内アンケートで2位人気だった記念小説
※英傑if




ユウエイ王国
とても広いこの国を取り巻くように広がる海
その海の深海に存在する王国、アクアリウス

「姫様、どこですか?!」

「シズク姫がいないとなれば大騒ぎだ!急いで探せ!!」

大人たちがざわざわと慌てる中、物陰に隠れていた私はくすくすと笑う
人目を盗みアクアリウスにそびえる城から抜け出し向かうは陸の世界
私は人魚族が暮らすアクアリウス国の姫、こんなことをすれば大人が困るだろうが好奇心は止められない

水面から顔を出せば太陽が姿を見せた
深海にはないその存在はとても明るく、眩しい

「わ、また来たの?」

「今頃王が大慌てだよ」

呆れたように私に話しかけるのは魚たち

「ふふ、私が来たことは内緒にしててね」

人魚の国では陸の世界に行くことは禁忌とされている
でも私はどうしても陸への憧れを捨てられなかった
海が嫌いんわけじゃないけれど自分が知らないことを知りたいと思うのはみんな同じなはずだ
まだ10歳の私は特にそれが顕著なだけに他ならない

海岸近くに行ってみようと泳いでいれば、なにやらばちゃばちゃと音が聞こえる

「(何だろう)」

鳥が水浴びでもしているのかなと岩陰から覗けば、そこには一人の男の子が溺れていた

「大変!」

すぐに潜って男の子を助けるも水を飲んでしまったのか意識がない
海岸へ連れて行き鳥に手伝ってもらってなんとか陸に彼を引き上げた

「人間?」

「人間の男の子だ」

人魚であるせいか生き物と会話ができる私の耳には鳥や魚たちの不思議そうな声が聞こえてくる
陸に上がった途端に乾き始めた鱗に痛みを覚えつつも男の子に触れ目を閉じた

人魚族は魔法が使える
それも水魔法を得意とするため男の子の体に入ってしまった海水を魔法で取り除いた

「けほっけほっ!」

空気が取り込めるようになったおかげで呼吸をする男の子にホッとする
赤と白の髪は真ん中で色が分かれている
顔の左側には大きな痣もあるようだが別に気にはならない

人魚は魚と人間の中間のような風貌なのだ
どちらかというとこっちの方が気味悪がられる風貌をしているだろう

うっすらと目を開けた男の子の目がこちらに向けられる

「…人…魚…?」

「うん、君は人間だね」

初めて人間と会話をした
人魚のようにエラもない、鱗もない、ヒレもない
早く泳げるわけでもないが代わりに足というものを持っている
陸には草木が生い茂り、海の世界よりも多くの生き物が暮らしている
人間に憧れた私にとって彼との遭遇は胸が高鳴った

「助けてくれたのか…?」

「みんなも一緒にね、溺れてたからびっくりしちゃった」

周りにいる鳥や魚を見てから男の子は私に頭を下げる
どうして溺れていたのかは聞かないけれど浮かない顔をしているところからして何かあったんだろう

「俺はショート、助かった」

「私はシズクだよ」

よろしくと握手すれば人魚とは全く違う体温にびっくりした
と、流石に鱗が痛いので海に浸からせてもらう

「…人魚って本当にいるんだな、初めて見た」

「それはこっちも同じだよ」

ショートくんという男の子は多分同じくらいの年齢だろう
彼の足と靴をまじまじと見つめていると、不思議そうに首を傾げられた

「気になるのか?」

「うん、陸の世界に興味があるの…こんな体じゃ上がれないけれどね」

鱗が乾けば痛みがある
半魚人なのである程度は持つものの呼吸もままならない
憧れても私には手の届かない世界なのだ

「姫、王が気づいたみたい」

「早く戻らないと」

魚たちがアクアリウスの状況を報告するのでため息を吐く
お父様が陸嫌いなのは知ってるけれどそれを娘や国民にまで強要しないでほしい

「私もう戻らなきゃ」

「戻るって?」

「アクアリウス、人魚の国だよ」

ショートくんが驚いている様子からしてアクアリウスも御伽話のように伝わっているのかもしれない
深海には人間はやってこれないので仕方ないかもだけれど

「また会えるか?」

どんな気持ちでそう告げたのかは知らないが、ショートくんの言葉に私は嬉しくなった
気味が悪いと思わないところも素直に嬉しい

「うん、また来るね!」

約束、そう言って小指を突き出せば人間も同じように約束をするのか小指が絡められた
初めて出来た人間の友達に胸を高鳴らせながらアクアリウスへと向かい泳ぐ

戻れば案の定みんながどこに行っていたんだと問い詰めてくるが絶対に教えない
陸の世界に行った人魚は泡になるなんて噂もあるが大嘘だ
私は今もこうやって人魚の形を保っている

「シズク様、魔法のお勉強の時間ですよ」

魔法、それはたくさんの種類がある
水魔法を得意とする人魚族だけれど私は全般が得意だった
お父様はこの力をアクアリウスの民のために使うように言っているけれど私は私のために使いたい

「(変身魔法がもっと上達したら私も…)」

人間のように陸を歩けるだろうか
ショートくんのように靴が履けるだろうか

私の目論見も知らないで授業を行う先生
お父様には悪いけれど私はこの国を継ぐつもりはない
憧れたのは陸の世界、ユウエイ王国だ

「(絶対に手に入れてみせる)」

足も靴も自由も
私は私のために生きるんだ







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