ヒロアカanother story


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カツキの住処は火山の麓だった
育った森とは異なり緑が全くないこの場所に来て早一週間
カツキは全然旅に出ようとしない

「ねえいつになったら旅に出るの?」

「あぁ?うっせーな」

むっとして彼の眼前で睨みつければ、面倒くせーと私を手のひらで追い払われてしまった
近くで寝ていたドラゴンの口の上に着地すれば、くあっと欠伸された

ドラゴンの彼、エイジロウが実は人間とのハーフだと知った時は驚いた
種族を超えた存在というのもいるなんて随分と多様化が進んでいるらしい

と、その時何かに気がついたカツキとエイジロウの空気が変わる

「誰か来やがった」

こんなところに誰が来るというのか
エイジロウに跨ったカツキが私を掴んで肩に乗せる
空からその侵入者のところへ向かえば複数人の姿が見えた

「誰だ!このカツキ様の住処に入り込んできた命知らずどもは!?」

見たところ同年代の人間たちのようだ
緑色のモジャモジャ髪の男の子、魔法使いのような格好の女の子、騎士のような格好の男の子、どこかの貴族の男の子、そして銀色の髪の女の子というラインナップだ

「ここを通りたけりゃ俺様を倒して行けや!」

「ドラゴンを従えてるなんて…あかん!引き返そう!」

「引き返すだぁ!?」

カツキが合図をすればエイジロウが御一行の前に立ち塞がった
みすみす帰すわけないだろうということらしい

「俺様を倒してから行けや!」

「もー、また面倒ごとを…」

これじゃあまた旅に出る日が遠のいてしまう
苦言を呈すればカツキが私を睨みつけた

「っせぇ!オメェは黙ぁってろ!!」

むすっと頬を膨らませれば、銀髪の女の子がぎょっとして私を見る

「え、妖精族!?」

どうやら博識のようで妖精族が普通人前に現れないことを知っているらしい
何でこんなところにと思っていそうな顔だ

「どうやっても戦いてぇみたいだな」

好戦的なカツキに御一行の中の赤白髪の子がそう呟いた
カツキのこの戦闘狂なところはどうにかならないかと呆れるもこうなってしまっては私にはどうしようもない

「もしかして…昔隣に住んでたカッチャン!?」

突如驚いたような声を上げたのは緑色のモジャモジャの髪の男の子
知り合い?とカツキを見上げると不機嫌そうに顔を歪めている

「あぁ?…てめェ…デクか!」

「うわあ懐かしいな!おばさんたち元気?」

「二人でよろしくやっとるわ!クソが!」

知り合いにしては嫌悪感がありそうな顔色に首を傾げる

「それではイズクくんの幼馴染ということで道を譲ってもらえるだろうか」

「誰が譲るかデク!いい機会だ…てめェはいつかぶちのめしてやりてぇと思ってたんだよ!」

「そんな…どうしてカッチャン…!」

「てめェ、自分がしたこと忘れたとは言わさねえぞ…?!」

わなわなと震えるカツキはどうやら怒っているらしい
でもデクと呼ばれた男の子は不思議そうに唸っている、身に覚えがなさそうだ

「もしかしてカッチャンがおねしょしたの僕のせいにしようとしたことをカッチャンのお母さんにバラしたこと?それとも洞窟に探検に行ったとき腰抜かしたのを見ちゃったこと?それとも引っ越しの時くれた宝物うっかり落として壊しちゃったこと?」

思わぬ暴露に笑ってしまった
慌てて口を押さえるも聞こえていたようでカツキが更に苛立っている

「全部だわクソやろうが!!コイツとタイマンだ!誰も手ェ出すなよ!!」

ブチギレるカツキに呆れつつも邪魔をしないかつ、首輪が絞まらない距離に避難する
二人の戦いは白熱したものの、結局カツキが勝利を掴んだ

「ハッ、俺の勝ちだな!これでてめェらは俺の奴隷だ!」

高らかな勝利宣言に一同の表情が変わる

「はぁ!?そんなこと一言も言ってないやん!」

「勝ったもんの言ったもん勝ちなんだよ丸顔!」

「確かに勝負は君の勝ちだ、だがしかし俺たちはトアル地方にオールマイトを…勇者を探しにいかなければいけないんだ!」

「あ?どういうことだ」

御一行の事情を聞いたカツキと私
魔物から世界を救った勇者が行方不明、彼を探すため御一行は旅をしているらしい
話を聞いて考え込んでいたカツキがきっぱりと告げた

「俺も行く、勇者が消えるってよっぽど強えヤツがいるってことだろが、そいつと戦って俺は勝つ!」

「えええ!?」

「いや、行くのは構わないがこのドラゴンも一緒なのはちょっと…」

ぎょっとする御一行
話を聞いていたエイジロウがぽんっと人間の姿に変わった

「俺ドラゴンと人間のハーフでエイジロウっつーんだ、この姿なら問題ないだろ?これからよろしくな!」

にかっと笑ったエイジロウに驚く一同に私も姿を一度元に戻す
久々に元の大きさに戻ったけれど小さい方が何かと便利だ

「私は妖精族のウタ、訳あってカツキと一緒にいるの」

よろしくねと挨拶をすればレアな妖精族に御一行がまじまじと見てくる
やっぱり人間にとって妖精は珍しいらしい

「それにてめェの件も解決すっかもしれねー」

「うん、そうだね」

カツキの言う通り勇者が消えたことを追いかければあの森の結界も戻せるかもしれない
一気に仲間が増えたことで何だかいよいよ本格的に冒険っぽくなってきた
これからどんなことが待っているのだろうか、冒険はまだまだ始まったばかりだ








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