ヒロアカanother story


▼ 2



カツキと出会ってから彼を連れて村に戻るとそれはそれはかなり驚かれた
でも彼は命の恩人なので経緯を説明し、誤解を解いてもらう
長老様に結界の異変のことを話すと難しそうな顔をして考え込んでいた

「カツキ殿と言ったの、結界はなかったと?」

「だからそう言ってンだろーが、一回で理解しろや」

「長老様になんて口を…!!」

わなわなと震える私を無視してカツキは長老様にも不遜でいる
長老様はそんなカツキに怒るわけでもなく笑った

「そうかそうか、ならばお告げが本当だったということか」

「お告げ…?」

首を傾げれば長老様がお告げについて話し始める
勇者がこの地を救いすぐの頃、結界が解かれることを予言した者がいたという
妖精族には定期的に神のお告げみたいなものが聞こえる者が生まれるらしい

「ハッ、嘘くせ」

話を聞き終え小馬鹿にしたように笑うカツキにいい加減にしなよと怒るも、彼はふざけた態度を改めようとしない

「つかお前命令すんなや!」

「っ、あのねえ!」

言い争う私たちを眺めていた長老様がにっこりと微笑む

「ウタ、その若者と共に結界を復活させる旅に出なさい」

にこにこと人の良さそうな笑みでとんでもないことを告げた長老に私はぽかんとしてしまった
結界を復活させる旅?私が?カツキと??

「はァ?!何勝手なこと言ってンだヨボヨボ!!」

長老様への悪口もスルーしてしまうほどに呆気に取られていた私の下へフード付きのマントやら何やらが手早く準備されていく
どうやら長老様は予言が実現した時に備えていたらしい

「カツキ殿がいればウタを快く送り出せる」

「いやいやいや!どうして私なんです?!」

「そんなの決まっておる、予言には続きがあっての
結界解かれし時、一人の人間と出会う妖精が旅に出る…と」

まさに今の私とカツキのことを示す予言に顔が引き攣る
外の世界への憧れがあったのは事実だけれどこんな突然、しかもこの森を救うため旅に出るだなんて荷が重すぎる

「俺には関係ねェ」

「そうはいきませんぞ、ほれ」

長老様が何かの魔法をカツキに施す
妖精族は本来魔法を使えない、これは長老様の力だ
ガチャンのカツキの首に首輪のようなものがつけられた

「それはウタと一定以上離れると強く絞まるものじゃ、死にたくないなら受け入れるが良い」

相変わらずの笑みでとんでもない極悪なことをする長老様
だから言ったのだ、長老様に不遜なことは許されないと
彼は他種族を最も嫌っている、にこにこしているが怖い方なのだ

首輪を嵌められたことに顔を引き攣らせたカツキが怒ろうとするも、魔法は強固なようで人間の力ではどうにもならないらしい
しばらく抵抗していたカツキだったが、私と離れた時に思いの外首輪が絞まったため観念したようでこちらをキッと睨みつけた

「俺から離れたらコロス!!!」

何だそれはと呆れつつ私は自分の体のサイズを小さくした
妖精らしい手のひらサイズまで縮んでカツキの肩に座る
これで離れる心配はないだろう、元の大きさでいるよりは彼の首が絞まる心配は少ないはずだ

「結界を復活させてくれたならば我ら妖精族がそなたの願いを一つ叶えよう」

「うっせェ!!お前ら全員ブチのめしてやっから覚悟しとけやァ!!」

人間は妖精には勝てないというのに何ともバカな宣言をしたカツキが森の外へ向かっていく
彼の肩で私は初めて踏み出した外の世界に目を輝かせた

「ここが…森の外…!」

喜んでいることに気がついたのかカツキが舌打ちをする
なんだかんだ私を肩から振り払わないのは彼の優しさだろう

「お前その姿でヘーキなんかよ」

「うん、むしろこっちの方がコスパいいかも食事も最低限で済むし」

「ほー、んじゃあせいぜいしがみついてろ」

そう告げたカツキが指笛を吹くとどこからかドラゴンがやってくる
真っ赤な色をしたその姿にぎょっとした

「ちょ!何々!!??」

森から出てすぐにこんなのと遭遇するなんて早くも心が折れそうだ
叫ぶ私を他所にカツキはドラゴンに話しかける

「余計なモン拾った、とりあえず住処に帰ンぞ」

人間とドラゴンが会話できるなんて聞いたことがない
でもカツキを背に乗せたドラゴンは彼の言葉を理解しているようで大きな翼を羽ばたかせた

空高く舞い上がったことで生まれ育った森が眼下に見える
この広い世界で自分がどれだけ小さなところに住んでいたのかが視覚的に伝わってきた

「カツキ」

「あ?」

「世界って広いんだね」

知らなかったやと感嘆する私にカツキが鼻で笑う
このユウエイ王国はもっと広いぞと教えてくれた

「俺は強ェ奴と戦うために生きてる、お前の目的はついでだ
足引っ張ったら許さねェぞクソ羽が!」

悪態づくカツキの言葉を他所に私はこれから始まる冒険に心が弾む
知らない種族、知らない景色、知らない生き物
この旅は一族のためにも真面目にやらなきゃいけないのに高揚の方が大きい








prev / next



- ナノ -