ヒロアカanother story


▼ アンケート2位記念



※当HP内アンケートで2位人気だった記念小説
※英傑if




ユウエイ王国
豊かな自然が芽吹くこの大地で私は妖精族として生まれた
背中の羽は生まれつき生えており羽ばたけば空を飛ぶことはお手のものだ

「ねえねえお母さん、どうして森の外に出ちゃいけないの?」

昔から言い聞かされてきた森の外へ出てはいけないという掟
私の問いに料理をしていたお母さんが優しく微笑んだ

「外には妖精の力を狙ってる悪い人間がたくさんいるからよ」

「力?」

「そう、私たちには癒しの力があるでしょう?それを欲しがる人間がいるの」

癒しの力は妖精族にしかない特別なものだってこの前長老様が言っていた
なるほどと納得した私は少し森を散策してくると告げてから飛んでいく

この森は昔勇者様が魔物から救ってくれたとかで神聖な場所として崇められているらしい、そのため滅多に人が踏み入ってくることはない
だから私はいつものように安心しきっていた

森の中にある背の高い木
上の方に寝転んだりできる空間があって私の秘密基地だったりする
私たちはこの森を出ることを許されていない、でもここからなら外の景色が見れる
隠していた果実を食べながら今日も外を眺めようかと思っていた私が着地すると、目に映ったのはいつもの特等席を陣取っている先客

「え」

「あ?」

私の声に反応したその子は赤い瞳をこちらに向ける
その手には私が隠していた果実…嘘でしょ、全部食べられたの?
いや、それよりも一番驚いたのは妖精族以外の種族だということ

「だっ、だだだだっ誰!!!?」

「お前こそ誰だよ」

「わ、私はウタ…って、あなたもしかして人間?!」

お母さんの話によると人間は耳は尖っていないらしい、羽もなければ特別な力もない非力な種族
目の前の男の子は耳は丸いし羽もない、非力…には見えないほど鍛えている体つきだけれど人間だと察する

「だったら文句あっか?あ?」

「(ガラ悪っっ!!!)」

お母さんの言った通りだ、人間は悪い人ばっかりなんだ
そう思い離れた木の影に隠れて様子を伺う
ツンツンした髪の毛、鋭い赤い瞳、何だか蛮行そうな格好
見た目で判断してはいけないが多分この子はいい人じゃない気がする

「ここ…人間は入れないって聞いてるんだけど」

結界はどうした、神聖な場所はどうした

「ハッ、普通に入れたぜ」

ニヤリと笑うその子に黙り込む
神聖な場所という話はもしかして嘘だったのかもしれない、もしくはこの森に異変が起きているのだろうか
色々不安になった私が口を開こうとした時、急に視界に網のようなものが現れた

「わっ!」

その網に絡め取られてうまく飛べずどさりと地上に落ちる
膝を打ったようで痛みが走ったが、顔を上げれば目の前には数人の人間がいた

「…また人間」

さっきの男の子の仲間か?と疑問に思った瞬間、目の前の人間たちが下品に笑う

「おいおい本当にいたぜ妖精族!」

「こいつを売り捌きゃ金になるなぁ」

「しかもまだガキだ、変態貴族が喜ぶだろうよ」

売るという言葉にゾッとする
さっきの男の子なんかよりずっと怖い人間たちに青ざめた
このままだと連れていかれる、逃げなきゃ
そう思うのに網が絡まって抜け出せない

「ギャハハ、天下の妖精様が情けねえ」

「もがいて傷でもつけられちゃ敵わねえ、大人しくさせろ」

「おう」

じりじりと歩み寄ってくる人間たちに体が震える

「っ…やめ…」

自分の口から出る声はとても情けない

「(怖い、誰か助けて…誰か…!!)」

「弱えーくせに群れんなザコが」

その言葉が聞こえたと同時に目の前にいた人間たちが一掃される
あまりにも一瞬のことすぎて呆然としていると、私を拘束していた網が解かれた

「オメーものこのこ捕まってんじゃねェ、ちったぁ危機感持てやァ!」

荒っぽく告げたのは先ほどの男の子だった
地面にへたり込んでいる私を見下ろすその赤い瞳は先ほどと違って怖さはない

「…ありがとう」

戸惑いながら言葉にするものの、ふと男の子の腕に深い傷があることに気がついた

「その傷」

「…勘違いすンな、ここに来る前のもんだ」

ということはここに来たのは休息を取るためだったのかもしれない
ここは神聖な場所と言われ人があまり近寄らない、何かに襲われることもない
それに隠していた果実を食べたのも体力回復に必要なことだったのだろう
色んなことに合点がいった私は立ち上がって男の子の腕に触れた

「何して…!」

「ちょっとだけおとなしくしててね」

意識を手のひらに集中させれば光が集まってくる
妖精族はこの大地のエネルギーを使い治癒能力を使っているらしい
仕組みはなんとなくは理解できるけど説明するとなると別問題だ

みるみる傷口が治っていくことに驚いた様子の男の子は少し目を丸くしている
目つきは良い方ではないのでそこまで変化はないように見えたがちょっと可愛いところもあるんだと笑いそうになった

「ね、あなたの名前を教えて」

「…カツキ」

名前を聞いて何故か嬉しいと感じた
こんな気持ちは初めてだ、ちょっとわくわくもする

「カツキ、助けてくれてありがとう!」

この出会いに何の意味があるのかはわからない
でも特別な意味があると信じたいとそう願ったのは秘密だ







prev / next



- ナノ -