140SS *01 Feb 2017 : other* 地球に行っても無駄ですよ、人類は滅びましたから。不老不死の術を見つけたのになぜ滅んだかって? Ace Kが――合成甘味料ですがね、それが約三百年後に効いてくる毒って彼らは知らなかったんです。気づいたら生殖能力のある人類は残ってなかったってわけ。生きてると何があるか分かりませんねえ。 ―じわじわ効いてくる *01 Feb 2017 : other* 「将来の夢は綺麗な花嫁さん」 と笑った娘に、難病で十歳までの命でしょうと診断が下った。延命の方法はただ一つ。コールドスリープで未来に治療を託すこと。それには莫大な費用がかかる。僕が一生かかって漸く賄えるほどの。 娘に最後のおやすみを言いながら、涙を堪えた。ごめんな。これは僕のエゴだ。 ―眠りから醒めたら君は *23 Jan 2017 : other* ついに完成だ。刀身に強力な排魔の術式を纏わせた、僕渾身の聖剣。これならどんな非力な者でも一薙ぎで魔王を斃せる。この剣を駆け出しの冒険者に渡して――そこで工房にどやどやと黒服の一団がなだれ込んできた。 「剣を押収します。我々には――この世界には、物語が必要なのです」 そんな、ご無体な。 ―弱い敵からこつこつと *23 Jan 2017 : other* 数を数えれば数えるほど、僕のまわりにあるものたちは0に近づいてゆく。0に等しくなることは無いけれど、僕が一心に数を大きくすれば、それだけ目に映らなくなる。 僕を呑みこむくらいにふくらんだ数字がやさしく僕を包んで、そうして僕は数字とだけ寄り添って、あたたかい眠りに落ちることができる。 ―無限に囲まれて *17 Jan 2017 : other* 大学の飲み会で、およげ!たいやきくんの自己同一性を滔々と語る先輩がいた。 「毎日焼かれてるってことは、昨日と今日のたいやきの自己認識は同一だよね。でも一匹一匹は別の自己なんだよ。面白いよね」 初対面の私ははあ、と答える他なかった。名前も所属も忘れたが、その話だけが妙に焼き付いている。 ―たい焼きの自己認識の同一性について(この論文はフィクションです) *15 Jan 2017 : other* 疲れて帰ったら、愛猫のライラの肉球をふにふにする。すると数十分経っていたりする。 「肉球って癒されるなあ、人を堕落させる最終兵器に違いない」 呟くとライラがすっくと立ち上がった。 「気づいたか、生かしておけぬ」 ライラが立った!感動する僕の顔面に強烈な猫パンチが直撃して、意識が途絶えた。 ―リーサルウェポン *15 Jan 2017 : other* さあ今日こそ決着を。 「出て行きなさいよ幸子!ここは私の場所なの、後から来たくせに生意気よ!」 「はあ?花子こそどっか行ったら、いつまで旧制の制服着てるわけ?ダサいのよ」 そこでドアが開いたので、私達は急いで便器の中に隠れた。一時休戦だ。私達はこのトイレで、果てもない闘いを続けている。 ―トイレの花子さんと幸子さん *15 Jan 2017 : other* 歯磨きが好きだ。歯が綺麗になると気持ちがいい。 歯に肉片が挟まっているのは具合が悪い。咥内が血でぬめぬめしているのは気持ちが悪い。食べた後の歯磨きは重要だ――殊に、人肉を食べた後は。 人間の肉は美味しいけれど、脂身がたっぷりで血の気が多いことが難点だ。だから僕は、歯を磨くのが好きだ。 ―歯磨きは大切です *08 Jan 2017 : other* 深夜、静まり返った路上で、先を急ぐ人の前に姿を見せるのがマイブームだ。俺のこと見えるんだ、と言いながら。これがまた物の見事に皆怯えてくれる。 今夜も都合よさげな人を探していると、急に路地裏から少年が現れた。薄らと笑んでいる。 「僕のこと見えるんだ」 ああ、参ったな。こっちは本物らしい。 ―エンカウント *06 Jan 2017 : other* 娘が乳児の頃。電車内でぐずる娘をあやす私の隣に、いつも優しげなお婆さんがいた。元気ね、泣くのが仕事だもの、との言葉で、刺さる視線が和らぐのを感じた。 それ妖怪なんだってと後に友人は言った。 「座敷童子的な。子供をあやす妖怪」 そういえば、彼女らは顔は違えど、微笑み方は皆同じだったっけ。 ―妖怪子守りおばば ▲ back ▼ |