「好きです。藤堂さん。」





「付き合って下さい。」






青々しいまでの愛で囁いて
















京都出張での任務は思っていたよりも本当に軽く終わってしまい、それこそ悟の言葉を借りるなら「余裕で」というやつだった。それなのに二泊しっかり泊まることが出来たのでただただ二人だけだったけど修学旅行の様な気分を味わい、特級である悟はリッチなのでたくさんみんなにお土産を買って無事帰宅した。それが十二月の頭のお話。


十二月というのはなんでかしらないけど、まぁ昔の人が師走ってつけたくらいだから、バタバタと過ぎていくのが毎年のことで、今年も気がつけば年末年始になるのかと思っていた私に大事件が起こったのだ。




学校の授業も、学年の後半になってくると合同授業というより任務も増えて、他学年と顔を合わせる機会は減っていた。それでもたまに顔を会わせる後輩二人に京都の土産を渡すため寮を訪ねた時に、終業式の放課後に時間を作って欲しいと七海に頼まれたのがことの発端だ。


生真面目で、几帳面で、無愛想だけど実は優しい後輩は、また自主練にでも付き合ってほしいのかと思い(私以外のメンバーにそういうのは頼みにくいだろうし)深く考えないで了承をした。終業式といっても何か式典をやる訳でもなく、今学期もお疲れ様でした!的な日というだけなのだが、今年の終業式はクリスマスイブで、放課後みんなでクリスマスパーティーをしようと盛り上がっていたので、そのパーティーの前に二人で会うことになったのだ。







京都で買った、よくわからないご当地キャラのキーホルダーを持って、待ち合わせ場所である校舎裏の自動販売機の前に行くと、やはり律儀な七海はもう来ていた。












「お待たせ、ごめんね。」
「いえ。さっききたばかりです。」
「灰原は?もう傑たちと一緒?」
「えぇ、多分。夏油さんと買い出しに行ったので。」
「楽しみだね、一年二年合同クリスマスパーティー!」
「それでも六人しかいませんけどね」
「そっ、それ言っちゃう?」
「事実ですから。」
「あっ!これ!約束のキーホルダー」
「...約束?」
「出張のお土産!京都のご当地キャラのキーホルダー!」
「......」
「えっ、ダメ?案外可愛くない?」
「なんですか、これ。」
「深草うずらの吉兆くん。」
「....なるほど。」
「可愛いでしょ、ほっぺがピンクの茶色い鳥」
「....ありがとうございます。」
「いえいえ!」


実に迷惑そうな顔をしていたけど、吉兆くんをなんだかんだで受け取ってくれる七海はやはり優しい。受け取りながらも眉間に皺を寄せたままそれを見て、鞄にしまっていた。私は荷物はパーティーに使う大きい応接間に置いてきてしまったけど、七海は荷物は持ったまま来た様だ。その鞄から小さな白い封筒を取り出すと黙って私に差し出すので、それを受け取る。






「私からも、どうぞ。」
「えっ、なに?」
「出張のお土産です。」
白い封筒の中を取り出すと、美しい海のような絵画のポストカードが出てきて、思わず「綺麗!」と声をあげてしまった。



「出張先に美術館があって、中には入らなかったんですがお土産売り場で見つけたので。」
「....覚えてたんだ」
「藤堂さんにしか買ってませんから、お土産。」
「あははっ、ありがとう!大切にする」

ちょうど制服のポッケにそれが入ったので折れない様に気をつけながらしまった。美しい海が描かれたのであろう青いポストカードは、部屋の何処に飾ろうかなと頭の何処かで考えていると、七海に名前を呼ばれる。







「ん?」
「すいません、話があって呼び出したんです。」
「あっ!お土産交換じゃなかった?」
「...違いますよ。」
「そうなのね、あ!わかった!自主練に付き合ってほしいって話?明日から休みだもんね、いつでもいいよ」
「自主練はまた付き合っていただけるなら助かりますが、それが用事じゃないです。」
「え、じゃあなに?」

















「藤堂さんのことが、好きです。」

あまりに表情を変えず、淡々と紡がれる言葉がうまく頭に入ってこなくて、私はきっと目を何度もパチクリさせて彼を見ていたと思う。




「付き合って下さい。」

七海が私を見る目はあまりにまっすぐで、真剣で、すぐに冗談とかそういうのではないとわかって(もちろん七海の性格的にそんな事はあり得ないんだけども)、目を逸らさずに一度深呼吸をした。












「えっ、本当に?」
「はい。」
「えっ、いつから?」
「わかりませんが、結構前から。」
「おお、、」
「もし、今私のことを好きじゃなくても可能性があるなら、付き合って頂けたら嬉しいです。」
「....好きじゃなくても?」
「だんだん好きになって頂けたら、それで。」




少しだけいつもより早口になる七海は、表情こそ変わらないが少しだけ顔が赤いような気もするし、普段よりも饒舌だ。






「ありがと、七海。」
「...いえ。」
「私さ、すごいわがままだよ?」
「そうですか?」
「わがままだし、頑固だし、眠いと多分不機嫌になるし、お腹空いてると元気なくなるし、連絡とかマメじゃないよ?」
「それは、ネガティブキャンペーンですか?」
「いや!そーいうことじゃなくて、」
「はぁ、」
「七海がきっと思ってくれてるほど、私はいい人ではないと言うか、なんていうか。」
「それは、私が決める事なので問題ないです。」
「へ?」
「藤堂さんのこと、先輩として尊敬していますし、今藤堂さんが言ったことが真実だったとしても、私が惹かれた事は変わりありませんから。」

「お、、大人、、」
「知らない事が多いと思うんです。お互いに。

だから、もっと私のことを知っていってくれたら嬉しいですし、私ももっと藤堂さんのことを知りたいと思います。」







いつもよりやっぱり早口で饒舌な七海が丁寧に紡ぐ言葉はどれも優しくて、真っ直ぐだった。きっと恥ずかしいんだろうけどこっちをちゃんと見て話してくれる姿は、普段の比較的淡々として、熱いところをあまり見せない七海からは想像がつきにくい姿で。ちゃんと真っ直ぐに向き合わないと失礼だと思った。











「たしかに、知らないことたくさんあるもんね、」
「....はい。」
「七海が私の知らないこともっと知ったら嫌になるパターンもあるけど、私が七海の知らないことをたくさん知って、好きになるパターンもあるよね。」
「....嫌いにはならないと思いますよ」
「えー、わかんないじゃない!なにがあるか!」
「.....むしろそこまでのは何があるんですか」
「いや、私的にもそこまでの地雷はないことを祈りたいけども」
「私もそう思います。」









「私ね、知らないことを知っていくの嫌いじゃないんだ。だからね、」




















「私でよければ、よろしくお願いします。」
















緊張していたのか、私の言葉にどことなく七海の表情が緩むのがわかって、なんだか嬉しくなる。七海は小さく「こちらこそ」と頭を下げるから、私は仕事みたいだと思って笑ってしまった。










「握手でも、する?」
そう言って差し出してみた手を、七海が握る。男の子にしては華奢だと思っていた手は意外にもしっかりとしていて、使い込まれているけどケアされたその手の温もりは心地よかった。











「.....可憐さん。」
「....へ?」
「そう呼んでもいいですか?」
「ふふっ...もちろん。」












小さな小さな日常の変化
貴方の隣が定位置になる、













あの時、ちゃんと七海に話しておけばよかったのかもしれない。
私はあなたを忘れるかもしれないって。
私は私であることをいつか忘れてしまうのかもしれないって。
私は、記憶をどんどん無くしていくんだって。


仮に繋いだ手を離されることになったとしても、伝えなくてはいけなかったのかもしれない。




でも何故か、あの時の私も、名古屋出張の時も、七海にはどうしても言えなかった。どうしてかはわからない。先輩としての意地だったのか、変なプライドだったのか、単に言いたくなかったのか、わからないけど何度も言えるタイミングはあったのにずっと話せなかった。



今思えば、七海が気持ちを伝えてくれたあの日にきちんと全部話すべきだったんだ。










そんな後悔すらも、私はもしかしたら忘れてしまうのかもしれないけれど。























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「で、どーなの?」
「えっなにが?」
「クリスマスイブに突然付き合ってからその後。」
「その後も何もまだ一週間だよ。」
「でもまさかの展開だったな」
「あの時一旦タイムもらって硝子のところに行きたかったなぁ」
「なにそれ、ウケる。すーぐ全員にバレたじゃん。」
「隠すつもり無かったからいいんだけどさ、私は。」
「七海は?」
「なんも言ってないけど、そもそも人数少ないんだから隠すの無理って思ってそうじゃない?」
「まー、バレるよね。だって一緒に戻ってくるんだもん」
「ははっ!たしかに!」


終業式から一週間。所謂大晦日の昼下がり。唯一炬燵を置いている夏油の部屋で二年生全員で集まることになっているのだが、男子二人は買い出しに行っていたので、女子二人で炬燵に潜り込み彼らを待っていた。





「...で、好きだったの?七海のこと」
「んー。私さ、好きってくくりでいえば、硝子も悟も傑も七海も灰原も、好きなの。みんなおんなじ感じ。」
「あんたは人が好きだもんね。
それはいいことだと思うけど、こんな世界に生きていくんじゃ苦労しそうっていつも言ってるのに治らないよね、こればっかりは。」
「えへへ、分かってくれてる硝子がいてくれて嬉しい」
「任せとけ。

で、七海はどうなの?みんなと同じ?」
「うん、今のところは多分おなじ。でも七海は多分それを分かってて、知らないことが多いから知っていってほしいって言ってくれたの」

「あーー、なるほどね」
「だったら、知ってみてから特別な好きになるか考えてみてもいいかなって。」
「それは、五条や夏油じゃ出来ないやつだな」
「え?」
「あの二人のことはもうかなり知ってるから、今から好きの種類は変わらないって話。」
「あー、そゆこと?でもそもそもあの二人が私に告白しないでしょ。友達友達!」
「なんかもう、すごいわ、可憐。」




家入が笑いながら溜息を吐くと、部屋のドアが開いて五条と夏油が戻ってきた。二人とも手にはお菓子やらジュースやら、大晦日を楽しむ気満々のアイテムがたくさん入ったビニール袋を持っている。




「おかえりー!」
「うげ、クリスマスカップルの片割れがいるよ」
「何その言い方」
「べっつにー!」
「八つ当たりはやめな、悟」
「ガキだな、五条」
「七海と過ごさなくていいのかい、可憐」
「うん、灰原とテレビ見るって言ってた」
「あの二人仲良いからな」
「おい可憐、お前のジュースねぇかんな!」
「はー?」
「あるよあるある。」
「悟の嘘つきー」
「うっせ!」



適当にジュースとコップ、それからお菓子を炬燵の上に並べて五条と夏油も温かい炬燵に入り込む。女子同士、男子同士がそれぞれ向かい合う様に座ると、可憐は何処か楽しそうにコップにそれぞれ飲み物を注ぐ。









「じゃあ、可憐の初めての彼氏にかんぱーい」
「ちげーだろ!」
「はは、いいじゃないか。」
「やめてやめて、はい、ほら!


今年もお世話になりましたーー!!」
















なんてことのない日常を噛み締める様に、
いつ誰かがいなくなるかもしれない現実から目を逸らしながら、
それでもこの世界で生きると決めて、
肩を並べて共に歩く仲間たちは、
仲間なんて言葉じゃ薄っぺらい。
明日、貴方がいなくなっても、後悔しない選択をしていきたいから、

大好きな人たちと生きていく、



















イメージとしては、ここで前半戦終了な感じです。お話としてはまだ高専時代が続きますが七海くんと付き合ったこのお話で前半戦です◎

まだ好きというかお友達からよろしくお願いします的な感じが、私はなんかすごく好きな感じです。((特殊


五条くんと夏油くんの気持ちがなんだか切ないけど優しくてって感じも好きです((突然
個人的に家入さんがいい仕事をしてくれます。笑


後半戦も楽しんでいただけます様に。



ちなみにご当地キャラで出てきた吉兆くんは京都の深草地域のキャラクターです、実在しますので調べてみてください。笑



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