大きなサイズのポップコーンは、甘い味としょっぱい味の二つが半分ずつ入っている。それをとても大事そうに抱きかかえる可憐の横に飲み物を二つ持った夏油が並び目当てのスクリーンを探した。






「えっとスクリーンは三番で、席は一番後ろだったよね」
「ごめんね、私背が高いから後ろの方が足が楽で」
「脚が長いって言っていいよ」
「はは!冗談だよ」


楽しげに話す二人がいる映画館は、平日の昼間だというのに人が多い。公開されてから日が浅いせいなのか、目当ての映画が同じ人も多いのかもしれない。

制服ではなく私服姿の二人は側から見たらデートをしている恋人同士に見える事だろう。

同素材で黒いワイドパンツと開襟シャツのセットアップに身を包んだ夏油はいつもまとめている髪を低い位置で一つに束ねていて、可憐は焦茶色で肩よりも長いストレートの髪は下ろし、シンプルなデニムに合わした真っ白のブラウスは彼女が動けばふわりと風に揺れる。








「休みの日にほんとにありがとね、このあと近くのお蕎麦屋さん予約しておいたから奢らせて!」
「そんな映画も奢ってくれてるんだから、ご飯は割り勘だよ」
「えっ...じゃあじゃあ!帰りにコーヒーとか奢らせて!」
「ん、わかったよ。ありがとう」





目当ての席を見つけ、ドリンクホルダーに飲み物を入れると二人で並んで腰掛ける。肩が触れそうな距離は何処となくこそばゆい。

劇場が少しずつ暗くなると、可憐は何処となくそわそわしながら座り直すと真っ直ぐスクリーンの方へ目を向ける。








「たのしみ!」
隣に座る夏油に小さな声でそう言った可憐はいつものように無邪気に笑っていた。











ちっぽけなしあわせを、
当たり前のたのしさを、
当たり前にあると思っていたものを、いつかひとはわすれていってしまうのだろうか。













何かのアニメに出てくるらしい白猫の大きなぬいぐるみを抱き締めて可憐は高専入り口へと続く階段を登る。

鼻歌まじりで上機嫌な彼女の後ろを夏油がついていき「転ばないようにしてね」なんて子供に言うような注意をするほど、可憐の足取りは弾んでいた。





「映画も楽しかったし、お蕎麦もおいしかったし、ゲームセンターで傑がこんな大きいぬいぐるみ取ってくれるし、帰りに寄った珈琲屋さんのお兄さんもかっこよかったし!

いいことばっかりで、明日から任務も勉強も頑張れる気がする」


夏油より数段上の階段で振り返りそう言うと、軽やかな足取りで可憐は残りの階段を登っていく。

夏油も数段飛ばしながら階段を上がればあっという間に高専の入り口に到着し、二人揃って中へと足を踏み込んだ。






「夕飯、悟も帰ってくるかな」
「まだ四時だからね、六時ごろには戻ってくるんじゃないか?」
「じゃあ、硝子も誘ってみんなでご飯食べようよ」
「ん、了解。食堂でいい?」
「傑の部屋で集まるでもいいよ!」
「じゃあ買い出しいくかい?」
「あり!先に行っちゃう?」
「そうだね、食材余っても取っておけばいいし」
「わかった!じゃあ、わたし荷物置いてくるから待ってて!」
「私も一旦寮戻るから、三十分後位に自販機の所で落ち合おうか」
「了ー解!」





歩きながら話していた二人がちょうど男女の寮それぞれへの別れ道に行き着く。
「じゃあ、あとでね」と男子寮へ足を向けた夏油に手を振り自分も女子寮へ身体を向けたはずなのに可憐はまたくるりと身体を反転させて夏油の名前を呼んだ。







「今日は、ほんとにありがと!すっごく楽しかった!」


夏油の返事を聞く前に可憐は足取り軽やかに女子寮へと向かう。









「...んー、これはなかなか大変そうだ」

夏油の苦笑いまじりの呟きは、夕暮れに向けて少しずつ冷たくなる風に連れて行かれてしまった。




























夏油との約束の時間まで十分ほどあるが、待ち合わせ場所に可憐はすでについていた。

白いブラウスを動きやすいようにかグレーのパーカーに着替えて、小さな財布だけ持った可憐は財布をパーカーのポッケに入れると右手につけていたヘアゴムで髪の毛を簡単に束ねる。





可憐が目的もなく自動販売機を眺めていると、不意に足音が聞こえて振り返えれば、そこには制服姿でズボンのポケットに両手を入れて歩く五条の姿があった。







「あ!おかえりー!」
「..おう」
「早かったね、傑が六時くらいじゃないかって言ってたの」
「なめんな、余裕だったっつーの」
「そ、ならよかった。あ、なんか飲む?」
「いらね、てかなにしてんの?」




自動販売機の近くにあるベンチに可憐が座ると五条は隣に座るでもなく自動販売機を眺めたまま尋ねる。







「さっき帰ってきて、夕飯みんなで食べようと思って傑と先に買い出しいこうかなって」
「傑いねぇじゃん」
「待ち合わせしてるの、ちょっと早くきたから」
「ふーん。」
「悟も行く?買い出し」
「とりあえずシャワー浴びて着替えてぇからパス」
「そうだよね、今日意外と暑かったもんね」






あぁ、と短く返事をする五条がいつもと何処か違うような気がして可憐は僅かに眉間に皺を寄せるが何かを聞くわけでもなく立ち上がると財布から小銭を取り出して自販機に入れる。

五条の隣に立った彼女は迷う事なく、彼が好きないちごミルクのボタンを押した。

ガコン、という音を立てて出てきたそれを取り出して五条の首元に押し付けると「冷てっ!」」と自分の方をやっとみた彼に可憐は悪戯っ子のように笑いながら「おつかれさま」と声をかける。







「ん」
「疲れてる時はあまいもの!」
「疲れてねぇっての」
「それでもいいからそれはあげる」
「なに、デートして機嫌いいとかウケんだけど」
「...デート?」




ピンクと白色のパッケージの紙パックにストローを挿しながら五条が「傑と」と続けても、彼の隣にいる可憐の頭の上からクエスチョンマークが消えることはなかった。


そんな彼女の反応に五条は何処か不機嫌そうな顔をしたまま何かをいうわけでも無く、ストローを口に運ぶ。






「今日、傑と出掛けたけどデートではなくない?だって、付き合ってるわけじゃないんだし」
「まー、俺はどうでもいいけど」
「何その言い方、へんなの」
「お前も傑のことあんま振り回すなよ」
「別に振り回してなんか、」
「好きでもねぇドラマの続編の映画なんか地獄でしかねぇじゃん」




ベンチに座り足を投げ出し五条は可憐の方を見て何処か馬鹿にするように笑う。そんな彼に可憐は眉間に皺を寄せてから、少しだけ申し訳なさそうに眉を下げた。






「でも、ちゃんとドラマの話もしたし楽しかったって言ってくれたよ」
「そりゃ言うだろ」
「なんで?」
「傑はお前のこと好きだからじゃね?」
「...なにそれ、友達だよ」
「どーだか」
「変なことばっか言うね、悟」
「趣味悪いよな、傑も」
「...何でそんなこと言うの」






「だって、お前のこと好きなるとかなくね?」








五条の言葉に、可憐は一瞬時が止まった様に目を大きく開けて彼の方をまっすぐに見る。


すると、きっと彼女も気が付かないうちに頬を涙が伝った。



その涙に先に気が付いたのは可憐本人ではなく五条の方で、彼が驚いた顔をしたことで可憐はやっと自分の頬を伝う涙に気が付いたようだ。












「...ごめん、傑が来たら先に買い物行っててって言っておいて。」

パーカーの裾で涙をぐいっと拭いてその場から足早に立ち去ろうとした彼女の腕を掴んで、五条はそれを制す。



可憐の腕を掴んだその手はきっと無意識に出たもので、振り返った彼女と目が合った五条はすぐに何かを言うことが出来なかった。








「...わたしは幼馴染だから」
「..は?」
「わたしは幼馴染だからいいけど、そんな言葉ほかの女の子に言ったらだめだよ」




涙ぐんだ目のまま、可憐は五条のことを真っ直ぐに見つめる。五条は何も言わなかったが、彼女の腕を離すこともしない。

可憐は困ったように小さく息を吐いてから「離して」と、いつもの声よりも少し低い声で言った。







「...やだ」
「やだとかじゃないじゃん、」
「..言わねぇよ」
「なにが?」
「お前以外に、言わねぇ」
「..そう?ならいいけど、」
「でも、」
「なに?」
「...泣かせる気は無かった。悪ぃ。」



自分の腕を掴んだまま、目を伏せて小さな声で謝る五条の顔を可憐は困った様な顔で覗き込むと小さく笑う。





「というか、わたしにも言わないでよ?」
「..悪ぃ」
「わたしだって、いつか誰かに恋するかもしれないんだし好きになるわけないとか言われたらさすがに傷つく!」


明るく笑った可憐と五条の目がやっと合う。五条は少し罰が悪そうな顔で彼女の腕を離した。






「だれかを、好きになんの?」
「んー、映画とかドラマとか小説の中だけじゃなくて、恋愛してみたいじゃん」
「...ふーん」
「悟だって、可愛い彼女作ってデートとかしたいでしょ」
「知らね」
「じゃあ!
わたしも彼氏が出来たらすぐ悟に紹介するから悟も彼女が出来たら教えてね!」
「一人で外出も出来ねぇ癖にどうやって作るんだか」
「えーじゃあやっぱり呪術師かなぁ」
「傑でいーじゃん。」
「だーかーら、傑は友達でしょ。
てかそもそも傑がわたしを好きだったら趣味悪いとか言ったの誰よ」





バーカ、と笑いながら可憐は背伸びをして五条の頬を軽くつねる。少し驚いた顔をしたが彼も今回ばかりはそれを受け入れて「悪ぃ、それも冗談」と素直に謝罪すれば「よし!」と笑って彼女は頬から手を離した。






「女心がわかんない悟には、彼女ができるなんていつのことやら」
「別にいらねぇし」
「強がっちゃって」
「うっせ!お前もどうせ出来ねーっての」
「そうやって強がらないの」
「強がってねぇっての」
「まぁまぁ、いいからさ。

ほらシャワー浴びて着替えたいって言ってたじゃん。そろそろ傑も来るから、わたしたち買い出ししてくるよ」
「おう」






寮の方へ身体を向けた五条に可憐は「あとでね」と手を振った。歩き出した五条の背中に何かを思い出した様に彼女は声をかける。









「なに?」
「今度、映画の話聞いて!おもしろかったから、いっしょにもう一回観ようね!」




嬉しそうに笑う可憐を見て振り返った五条は何度か瞬きをしてから短く「おう」とだけ答えると再び寮へと歩き始めた。



ほんの僅かな、自分の心の中の変化になんて気が付きもせずに、踏み出した一歩が少しだけ軽やかなことなんて、今彼が知る由はないだろう。





二人の関係に、幼馴染以上の名前がつくのがあと少しだけ先のお話であることも。
















知らなかった感情に名前をつけるのは難しい。だから、教えてくれたらいいのになんて、あの時言えたらどんなに楽だったか。知らない感情に戸惑いながら、その名前を必死に探してみるから後少しだけ、まっていて。

















「うーわ、懐かしー。」



高専の教員室で、何やら様々なものが詰め込まれている段ボールを開けていたのは、悟だった。

年末年始関係なく湧き出る呪霊のせいで連勤続きだったため高専に立ち寄ったのは久しぶりだ。

そこで教員という役職の筈なのに段ボールから色々な物を取り出して物色している悟を見ていると学生時代から何ら変わっていない様な錯覚に陥る。






「何してるんだい、授業は?」
「あれ、傑じゃん。珍しいね」
「溜まりに溜まった報告書を出しに来たんだよ。悟こそ何、その段ボール」
「あーなんかさ学生達から没収したやつが詰め込んであんの、僕らの時のもあったから中見てた」
「特級がそんな事してたら伊地知が泣くよ」
「だって暇だったんだもーん。悠仁達は二年にくっついて任務行っちゃったし」
「暇だったもーんじゃないよ」






私が言った事なんて真剣に聞いている筈がないのは知っているし、悟の自由さというより自分勝手さは今更咎める様な事でもない。

周りがどんなに小言を言おうと、この男に通じるはずがないのだから。









「あ、見てこれ。覚えてる?」

悟が段ボールの中身を広げている机の近くにある椅子に適当に腰掛けると、手元に若者達が写っているパッケージのDVDを投げられる。

そのDVDは昔、可憐と見に行った映画のものでその後も何度か見た記憶があった。悟と可憐が好きだった学園ドラマの続編のもので、当時人気だった若手俳優が多く出演している。






「今度、持っていこうかな。」
「可憐のとこ?」
「僕だけでこれ病室で見てたら怒られっかな」
「んー、イヤホンつけてたら大丈夫なんじゃない?」
「なるほどね、それあり」



私の隣に座り自分が投げてよこしたDVDを取ると裏面を見たりして「懐かし」と笑う悟の心中は私にも読みきれない。特に、彼女のこととなれば尚更だ。







「どう?可憐」
「変わんないよ、よーく寝てる」
「...そう」
「この前のクリスマスイブに行ってさ、年内にもう一回行けるかなと思ってたけど無理だったんだよね。」
「誕生日に行ったのか。
だったら、そんな段ボールひっくり返してないで今行っちゃえばよかったのに」
「まっ、そうなんだけどさ」





本心を隠すのが上手い悟は小さく笑いながら、DVD以外の細々としたものを適当に段ボールに戻す。







「もう僕らも立派なアラサーとか信じらんないね」

私の隣にあった椅子に腰掛け、机に足を投げ出した悟の言葉の意味をきちんと理解できる人間はきっと、私と硝子くらいのものだろう。軽く投げられた言葉に隠れている意味は、何処までも重いのに。









「あっという間に高専を卒業して十年くらい経ってしまうな..どう?順調かい」
「...僕を誰だと思ってんの、余裕に決まってんじゃん」







悟が、可憐の病室に通う様になってもうどの位経つだろうか。会いに行っても、会話が出来なくなってからどれ位だろうか。


眠り続ける彼女と、またかつての様に話せるように悟が一人で動いている事を知っているのも私と硝子だけ。

同期だからと言って、何でも手助けをできる訳ではない。残酷なまでに未熟さを感じる事だってある。



悟にとって可憐が特別な存在である様に、私にとっても硝子にとっても彼女は大切な存在で。けれど、彼女を助ける事が出来るのは悟だけ。その歯痒さをどうにかできる筈もなく、ただ見守る事しか出来ないのは何とも苦しい。














『僕は、可憐の事が何より一番大切なんだ。

だから、自分が納得できなくても構わない。可憐が一番望む事をしたいと思うんだよね。』



いつだったか、悟に言われた言葉が不意に頭の中に流れる。世界に均衡さえも掌の上にある男の言葉としてはあまりに不相応だったのに、可憐の隣にいる悟の事を知っている私にはあまりに自然な言葉だったのを覚えている。








「ねぇ、悟」
「んー」
「悟が可憐に会いに行くのにもちょっと気が張ったりしてるのに、可憐の為にずっと一人で動いてるって知ったら、可憐は驚くだろうね」



少し揶揄うように言えば、目隠しのせいで表情はよくわからなくても悟が不満げなのはすぐにわかる。




「学生の頃の悟はなかなかだったしね」
「はいはい。どうせ、子供だったとでも言いたいんでしょ」
「あはは、自覚あったのかい?」
「忘れたよ、そんな前の話。」
「さすが五条悟、過去は振り返らないんだ」
「あーやだやだ、傑が実は腹黒いって可憐が知ったら引かれるよ」
「やだなぁ、引かれたりしないよ」
「何その自信、ウケんね」
「可憐は、関わりのある誰かの事を穿ってみたりしないで受け止める子だしね」
「..まぁ、確かに。傑の腹黒もちゃんと受け入れるか」
「ちなみに腹黒に関してはちゃんと否定させてもらうけど」





悟が目隠しを人差し指で首元に下ろすと、椅子に身体を預けて両腕を伸ばす。それから深く深呼吸をして、天井を見上げたまま私の名前を呼んだ。







「あと少しなんだ。本当にあと少し」
「..そう。」
「合ってると思う?」
「最強の癖に私に意見を聞くのかい」
「それこそ、俺たちで、でしょ」
「...たまに恥ずかしい事を真っ直ぐ言うところは可憐と悟は似てるよね」
「何の話?」
「..まぁいいけどさ。で何が合ってるって?」
「本当に、可憐の為になるかどうか」
「悟が合ってると思うなら大丈夫だよ」






微かに欠けた彼の自信をきちんと埋め込む為にはっきりと伝える。悟はこちらを一度見てからまた天井に目線を戻すと「まぁねぇ」と呟いた。



呪術界最強の男を、きっとここまで悩ませるのは世界中を探しでも可憐しかいないだろうなんて思ったら不意に表情が緩む。それを悟に気が付かれる前にもう一言だけ助言をする事にした。











「私は、悟以外にこんなに可憐の事を考えている人間知らないよ」





だから合っているよ、と付け加える。
"最強"の片割れとしての、一番近くで悟を見てきた私の正直な意見はきっと何処かで欠けてしまった完全無欠な彼の自信を補う事くらいは出来るだろう。



その証拠に、ようやく身体を起こし立ち上がった悟の表情は少し前よりも晴れやかだった。







「傑はあれだね、昔からエスパーみたいに人の気持ちがわかんだね。」

「悟も可憐も、ただわかりやすいだけだろう」
「マジ?」
「マジ。」


立ったままこちらを見て何度か瞬きをしてから悟は目隠しを付け直す。それからDVDだけを持って教員室の出入り口へと足を向けた。








「やっぱ会いに行ってくるからさ、伊地知巻くのと、生徒達よろしくー」

「はいはい」






ヒラヒラと手を振って教員室を出て行く悟に「貸しひとつだよ」と声をかけようとして飲み込む。
ごく稀に、完全無欠に思える男からただの男に戻る親友の為に一役買うくらいしてもいいだろう。












「可憐、きみは幸せだね」


本人に届く筈もない呟きは私しかいない教員室の空気にすぐに溶ける。私も立ち上がり、机と椅子を整えてから教員室を後にした。






空気の冷たい高専の廊下は私達が学生の頃から何も変わらない。この廊下を、私達が何も考えずに歩いていた時からもう随分と時が経っているのに。






今の現実を知ってからあの頃に戻れるなら、悟も私も、硝子も可憐も、何か違う選択をするのだろうか。


その選択を変えると、今の現実は変わるのだろうか。


出来もしない事を考えても仕方がないが、一つだけ今の私が過去に戻れるなら、悟に助言したい事がある。







「意地を張るのは辞めた方がいい」

そんな助言をした所で、自分が中心に世界が回っていたあの頃の悟が受け入れる筈もないのだけれど。





少しでも二人の幸せな時間が長くなるなら、伝えたいと思うけれどそれもまた叶う筈もないのだから現実逃避とも取れる自分の思考に打ち止めをして、あの頃と変わらない廊下を歩く事にした。
















変わらぬものと変わりゆくもの、はじめから全部わかっていればよかったのに。














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