いっそのことすべてを包み込んでしまって甘く、とろけるような「フルーツトマトって本当に甘いんですね」
「生でお塩で食べるともっと甘いの、」
可憐が見つけたレシピで七海が作ったそのパスタは二人の口にとても合うらしくパスタを口運ぶペースは割と早い。
パスタにはトマトの他に魚を入れたことから、可憐はポテトサラダに焼いた厚切りのベーコンを入れていてそれがとても七海は気に入ったらしく、一度小鉢を空にすると冷蔵庫に残っていたそれをまた小鉢に入れた。
「よかった、ポテトサラダ気に入ってくれて。」「とても美味しいです。」
「明日もまた食べれるよ」とわらう彼女は七海が作ったスープを静かに啜る。
なんてことのない高専時代の話や、おかしな呪霊の話、最近働き詰めの共通の後輩である伊地知の話など、様々な話をしながら食事をするとあっという間に食べ終わってしまった。
「ごちそうさま。私、洗うよ」
「いえ、私が洗いますよ。」「そしたら、私拭くね。どれ使えばいい?」
一人でゆっくりしているのがあまり出来ない性格なのか、空になった皿をシンクに運び入れ腕まくりをした彼女は七海から食器を拭くタオルを受け取る。
「テーブル拭くのは、あそこに置いてあるやつで平気?」「はい。」
カウンターにちょこんと置かれた濡れタオルを指差すと皿がなくなったテーブルをテキパキと拭きあげて洗い物をする七海の隣に戻ってきた。
「五条さんとはよく食事していたんですか?」
唐突な質問に可憐は一瞬驚いた顔をしてから、嫌な顔をするわけでもなく首を傾げた。
「私の家ではあんまりないかなぁ。そもそも悟はそんなにご飯食べないしね、甘いものばっかりで。」苦笑する彼女の横顔は、どこか懐かしむような表情を見せる。
「クレープ屋さんとかに一緒に行くことが多かったよ、学生みたいでしょ?」
「それは、最早すごいですね。」
彼女の手料理をあまり食べたことがないような様子が見えて少しだけ七海は笑った。
(これは嫉妬なのか優越感なのか、)
自分も案外子供だと、彼は心の中で苦笑する。
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片付けが終わると七海が入れた珈琲とココアをゆっくりダイニングテーブルに座り飲む。何か会話をする訳でもなく、少しだけ沈黙が流れた。それでもその沈黙は重々しい訳でもなく気まずいものという訳でもない。ただただ一緒の時間が二人の間を過ぎていくような不思議な感覚。
「ココア、ありがとう」
と先に飲み終えた可憐は七海に声をかけると自分の使ったマグカップを軽く洗って、濡れた食器を置く場所に静かにそれを置いた。
それから、彼女はソファに体操座りで座り、七海の方を見るとふふっと肩をすくめて笑う。
七海も珈琲を飲み終え、マグカップを洗い彼女のマグカップの隣にそれを置くと、可憐の隣に腰を下ろした。
体操座りをしてソファに横向きで座る彼女に対して身体だけをそちらに向けるような体制に七海はなる。
「可憐さん。」「ん?」
「私は遠回しに何かを伝えるのが苦手な人間です。なので、単刀直入に伝えさせて下さい。
私は可憐さんが好きです。
お付き合いして頂けないでしょうか。」
真っ直ぐに彼女を見つめて、ゆっくりと淡々と、でも優しい温度の声で七海は言葉を紡ぐ。彼のまっすぐな言葉を可憐は聞いて暫くそのまま何も言わずに彼を見つめていたが、右目に涙が溢れてしまい、それが零れ落ちる前に膝に顔を埋めてしまった。
(こころの何処かでわかっていたはずなのに、)自惚れかもしれないと見ないふりをしていた気持ちが、透明にして蓋をした気持ちが、彼を送り出すときに自然と消えると思っていた気持ちが、可憐の中でぐるぐると七海の言葉をきっかけに回り始めて、何故か右目から涙が溢れる。
そんな彼女の頭を七海は優しく撫でて、小さく「ゆっくりで大丈夫ですよ」と声をかけた。
少しだけ呼吸を整えて、静かに深呼吸をしてから可憐は顔を上げると同時に膝立ちになって隣に座る七海の首に腕を回し抱きつく。顔は見られないように彼の首元に顔を埋めるようにして。
「ちょっとだけ、あと....少しだけ待って」
震える可憐の声を聞き、七海は何も言わず片手を彼女の背中に回すと、子供をあやすように一定のリズムで背中を優しく叩く。
どれくらいそうしていたかわからないが、少し可憐が落ち着いたのを見計らって、七海は彼女をゆっくりと抱き上げた。
突然浮いた自分の体に七海の首に腕を回し、少し驚いたように身体をすくめた彼女をしっかり抱き締めて、何も言わずに寝室へ向かい、優しくベッドの真ん中に寝かせると電気がついていた寝室の照明を相手の顔が見えるか見えないかの暗さまで落とす。
表情を見られたくなさそうな彼女への配慮だろう、照明を落としてから七海は仰向けで横になる可憐の顔の横に手をつく。
「....っ、こんなにっ、顔近いなら、暗くしても意味ないじゃない....」
顔も目も赤くして目の前の七海から顔を背けようとする彼女の顎を優しく持つと自分の方へそれを向かせる。
「お返事、聞かせていただけますか。」
「....待てない男は、モテないよ」
「可憐さんにだけモテれば問題ありません。」
暗がりでもわかる余裕のある笑顔に彼女は余計に顔を赤くした。
「......馬鹿...っ、」
七海のパジャマの襟を引き寄せて、触れるだけの口付けをする。
「........っ、好き.......大好き、」
(やっと、届いたずっとずっと前から色付いた気持ち。苦しくてもどうにか呼吸をして、精一杯に相手を見つめた。)
七海は可憐の後頭部に手を添えて、抱き寄せると触れるだけではない、深いキスをしして、片手の指は深く絡ませて、ベッドに組み敷いた。
「愛しています。可憐さん。」
「ん、、私も。」
このまま溶けてしまいたいぬくもりの中で呼吸をしたあとがき(はじめてのあとがき。笑)
やっと、、やっとです。長いよ、、あなたたちキスするまで、、笑
読んでくださって感謝です。まだおわりませんので暫くお付き合いくださいませ。