どうしてあなたはいつも、不意に私に隙を見せるのか、
どこにもない心臓の行き先





寝室へ戻ると、意識があるのかわからないが仰向けに寝かせたはずの彼女は左目を下にして横向きで少し体を丸めて寝転んでいた。

「可憐さん、家入さんに連絡しました。おそらく原因は義眼で、明日高専で治療したら問題ないとのことです。

冷やすと楽になるそうなのですが、眼帯の上からでもいいですし、額に置いても構いません。もし、嫌でなければ、眼帯を外すのが一番いいかと。」



立ち入り過ぎただろうか、わざわざ家入さんに電話までして。しかしそんなことよりまずは目の前の彼女の痛みが少しでも和らぐのが最優先だ。




「ん、とって....へーき、」
顔を上に向けて、額に片手を乗せながら辛そうに答えた可憐さん。すぐに、後頭部のアジャスターを調整して出来るだけ痛みがないように慎重に眼帯を外す。


閉じられた左目の瞼は、痛々しい痣になっていて、闘いの深刻さが見て取れた。身体が一瞬強張ったのを気取られないように、すぐ左目を濡れタオルで覆う。
少し身体を抱き抱えて、枕にきちんと頭が乗るように位置を整えて、薄手のブランケットを腰辺りに掛ける。




ベッドの近くにある椅子を引き寄せて、静かに腰掛ける。彼女はまた仰向けになって左目に乗せられたタオルの上に手を乗せた。



「んん、」
「ここにいますから、何かあれば言ってください。」
普段は死角になってしまう彼女の左目側に座り、行き場をなくした自分の手を濡れタオルに伸ばすと、華奢な手が私の手を軽く握る。



「手、繋いでて、」
一瞬驚いて身体動いたのがわかったのか、可憐さんはすぐに手を離すと、右手をタオルにのせて、左手でもぞもぞと私の手を探した。迷子のようなその手を両手で握る。



華奢だが、使い込みケアされた左手。無骨な自分の手が壊してしまいそうで、なるべく優しく握った。


暫くすると、規則正しい寝息が聞こえてきて私はしばらくそれを聞く。握った彼女の手はそれから少し時間が経ってから力が抜けた。それでもその手を離さずに、眠る可憐さんを見ていた。静かすぎるその部屋に、早くなる自分の鼓動の音が聞こえてしまうのではないかと少し怯えながら。






--------






どのくらい時間が経っただろうか、何度か手を離してタオルを冷たいものに変えた。


熱を持った左目はすぐにタオルの冷たさを奪ってしまう。またタオルを新しくして寝室に入ったら、上半身を起こす可憐さんが見えて暗めにしていた間接照明を少しだけ明るくして、彼女に歩み寄った。




「目が覚めましたか?」
「手、繋いでてって言ったのに、」
悪戯に笑いながら手を振る彼女を見て、声に元気はないものの大丈夫そうだとすぐにわかる。

「すいません、タオルを新しくしてきていました。」「反応が真面目すぎ。」


「まだ、冷やしますか?」
「んー、うん。冷やしておく。ありがとう。何回も変えてくれたんでしょう?」
タオルを受け取りながら礼を伝える彼女に短く「いえ」とだけ答えてベッドサイドの椅子にまた腰掛けた。



「ななみんらしい部屋だね、必要以上にものがない部屋。」
ダブルベッドに小さなテーブルと1人掛けの椅子。それからクローゼットに、間接照明。

「女の子にモテそうな部屋。」
「誰も呼んだことありませんよ。

掃除が得意ではないのであまりものは置かないんですよ。」




ふーんと、笑う彼女の顔色はだいぶ良くなったように思えた。
「気分はどうですか?」
「だいぶ、よくなった、かな。今何時?」
「0時を回ったところかと。」
「えっ?!」

あまりに驚いた声を出すから「どうしましたか」と尋ねると



「そんな時間までごめん、ななみんまだお風呂も入ってないでしょ。


帰る、タクシー呼ぶね。あれ、スマホ。あれ?」
「ジャケットとカバンはあちらですが、今日は泊まって行ってください。」

「え、」「シャワー浴びますか?辛ければ顔を洗うだけでも。」




目をぱちくりさせて私を見る彼女に軽くため息をついて、向き合った。



「放っておけません。今日は泊まって、明日一緒に高専に行きましょう。

私は今日の任務の報告をしに元々高専にいく予定がありますし。明日、家入さんの治療を受けるのでしたら可憐さんはそのままお休みになるでしょう。

私も報告のみで、その後は休みなので家まで送ります。あぁ、それから、私はリビングのソファで寝るので可憐さんはこちらのベッドで寝てください。」

我ながら早口で話してしまった、子供のようだと思い、思わず彼女から目を背けてしまった。




「あははっ、もー、わかったよ。

シャワー借りても良い?それとパジャマも。ななみんのでいいから、貸して。


それから、ソファで寝ないで。一緒にベッドで寝よ。」「え。」
「任務の疲れが取れないよ。ソファで寝たら、身体も痛いし」











「ふふ、一緒に寝よ。寂しいから」










あぁ、全くこの人は
少しずつ近づくこころ





自惚れてもいいのだろうか、











prev | next

TOP


- ナノ -