Mrs. Velvet Doll
- ナノ -
clockwork fate
アンナがゴールドソーサーを出て、ミッドガルに戻るためにコスタ・デル・ソルに向かっている間。
ケット・シーの密告を受けて、タークスはツォンを除いたメンバー全員でクラウド達が立ち寄る予定だったゴンガガへと先回りしていた。
周囲を見回りするイリーナと、村に近い森の中で待機するレノとルードはリーブ経由で情報をツォンに貰いながら来るだろうクラウド達を待ち構えていた。

その空いている間の時間で話すのは、仕事の話題以外に俗っぽい会話も多い。この二人が揃っていると特にだ。


「結局……飲みを抜けて行ったデートの顛末をレノから聞いていないな」
「奢らせたこと根に持ってんのかよ?それより、俺としてはルードの話の方が気になるんだけどな、と」
「話を逸らす割には、道中レノの機嫌が良さそうだったんでな」
「……ルード、お前からかってるな?」
「……レノに何時も聞かれるばかりだからな」


レノは、自分の恋愛話はあまり語らないというのに、人の恋話というのには興味津々だ。
ルードに恋人が出来てデートをするという話を聞き付けた時は相棒の尾行をする程に。
煙に巻こうとして話を誤魔化し続けるレノだったが。
デートに行ったことを知られている以上、言い逃れ出来る訳でもないと観念したのか、肩を竦めて事情を話し始める。


「……告白はしたが、答えは半年待ちだ。俺がその時も生きてたらな、ってな」
「告白……したのか。レノにしては、かなり気長に待つな」
「そりゃ俺だって早急に事を進められんなら進めたいけどな。本当ならあの日お持ち帰りしてそのまま抱いて、身体も落としてってしたかったぞ、と」
「……レノらしいな」
「男なら考えるだろ?……けど、まぁ。その先を考えたら……アンナにとっては、その約束の方が重要なんだろうと思っただけだ」
「そうだな。……だが、そもそも脈ありだったのか」
「酷くねぇかルード!?多分……多分そうだろ。そうだと思いたいぞ、と。というか異性として見られてなかったとしても、今回で十分意識してもらっただろ。……異性として見られてないって傷付くけどな」


家に上がって食事を一緒に取らせてもらっても拒絶されなかったり、観覧車の中で赤らんでいた顔を見る限り、全くの脈なしでは無いのかもしれないが。
自信がある要素があるかと問われたら、断言出来なかった。
何せ、アンナは大切にし過ぎるものをこれ以上増やさないようにと、その種の感情をフラットにしてきたのだろう。
だが、男の魅力がないと思われるのもレノとしては悔しくもある。女に困らなかったような自分に異性として意識する要素が無いと思われるのは、少し自信を無くすものだ。
告白の答え自体は半年後にしたが、それはそれ、これはこれで、やはり意識してもらう為にもなし崩し的に抱いてしまえば良かったのではないかと過ぎる辺り、男なんだろう。


「会えない日も多いとなると……うかうかはしてられないけどな」
「……脅すつもりじゃないが、レノ。アンナは神羅時代から、モテる」
「脅しかよ。しかも遊び相手としてじゃなくて、本命としてだろ?厄介なモテ方だ」
「レノも、その一人だろう」
「……同じ穴の狢だぞ、と」


ただ彼女にしてみたいだとか遊び相手としてモテるのと、あわよくば結婚したいと思われてモテるのでは随分話が違う。
誰がが見ておかないと、急にふっと居なくなってしまいそうな。そんな危うさがあるからだろうか。
だから、惹かれてしまう。手を引っ張ってしまいたいと思うのだ。

そこから先はルードの想い人であるティファの話になり、イリーナやツォンの恋話へと移り。
待ち伏せしながらも恋話をしている彼等を不思議に思いつつ交戦したクラウド達の中で、今まで見て来たタークス像が謎を深めていた。
意外と普通に俗っぽい奴らだ、と。


「アイツら……何の話をしていたんだ?」
「レノ、教会でもそうだったけど、アンナの名前を言ってなかった?何の話、してたんだろ」
「そういえば……神羅時代からの知り合いだったな。アンナの交友関係は時々よく分からない相手が居る。タークスがアンナに関わってるなんて、ろくな理由じゃないだろうが」


エアリスとクラウドが知っている名前に、ティファとバレット、レッド]Vとユフィは知らない人だと肩を竦める。


「エアリスとクラウドは知り合いなの?」
「ミッドガルに居る私の友達。元神羅の護衛をしてたけど、五年前に辞めて、今は運び屋さんをしてる人。すっごく強いんだよ」
「俺にとっては、ソルジャー同士ではないが先輩のような人だな。……ティファ達も暮らしていたあのスラム街出身だ。神羅に入るまで、あそこに居たらしい」
「えっ……」
「ってことは、神羅に故郷を潰されたってことじゃねぇか!そんなとこ辞めて正解どころか、仇で返されてるなんて、許せねぇな」
「……」


神羅に属していたという言葉にクラウドとの出会いで軟化してきたバレットも一瞬反応するが、スラム街が故郷だと聞くと、仲間意識を覚えたのか同情を示す。
そして、ケット・シーは敢えて知っているその名前に反応しないが、聞き耳を立てる。
自分のこの体をゴールドソーサーにまで運んでくれた、信頼出来る無二の部下だ。しかし、彼女を知っているというだけで、正体が疑われることになるのはわかっている。

(ただ……クラウドさん達にも信頼されてるんやなぁ、アンナさん。なんか、自分のことみたく嬉しいわ)

クラウドといつ知り合っていたのか、さすがにそこまでは知らなかったが。


「クラウド……その人とどういう知り合い方をしたの?その人、ソルジャーじゃないんだよね」
「あぁ……アンナとは……」


──アンナとは、どんな出会い方をした?
思い出そうとして、頭痛が走る。
紹介された。
それは、誰に?いや、そんな奴は俺の記憶にはない。
そう、"自分が3rdのソルジャーだった時に、廊下で幹部の護衛役であるとして少し話題になっていた彼女に出会って話しかけた"。
そうだった。
──本当は、ザックスが居なければ話しかけることも出来ないほどに、一般兵の自分からしたら雲の上のような人だったのに。


「廊下で会ったんだ。ソルジャーでも、一般兵でもない格好だけど、帯刀しているのが気になって声をかけたのがきっかけだな」
「へぇ〜クラウドから声をかけたんだ」
「やりますなぁ、クラウドさん」
「お前ら……」
「話してたら会いたくなってきちゃったな。何も言わないで来たから、心配、させちゃってるだろうな」
「エアリスは特にそうだろうな」


クラウドは、アンナと再会した時の会話を思い出す。まるで、生きていてよかったと言わんばかりの反応だったような気がするが。
久々に会った後輩である自分でさえ、あんなにも再会を喜んでくれたような人だ。
ずっと親しかったというエアリスなら、猶更心配してくれていることだろう。

そして張本人であるアンナは、海岸線でバイクを停めて海を眺めていた。心ここにあらずになってしまうのも仕方がないだろう。
レノは、そういう対象ではないと長年自然と思っていた。それは彼が自分の監視役であることを理解していたからだ。
アンナからしたらかなり意外だった。

「コスタ・デル・ソルに折角戻ってきたっていうのに……はぁ。どうしても落ち着かないっていうか」

誰かを愛して、そしてその人が居なくなってしまう。
自分だってこの刀で誰かの命を摘み取ることがあるというのに、その喪失感を恐れている。
まさに、レノの指摘通りと言えた。両親を亡くしている人なんて、あのスラム街では珍しいことではないのに。
だから、護衛という仕事が合っていたのだろう。

(誰かのために、誰かを守って命を懸けられることが……安心できたんだろうな)

それも尊敬する上司なら猶更──そうする価値があると思った。
誰かに守られて、その人が死んでしまうのなら。きっと立ち直れなくなってしまいそうだと自覚していた。
そんな風に守ってほしくはないだなんて。そんな自分を受け入れてほしいと望まないし、望まないようにしていた。
きっと、その感情と折り合いをつけて、変わっていく必要があるのだろう。

「……無事で居てくださいよ、レノさん……」

冗談めかして、自分の為に生きていたらなんて言ってくれたけど。
もしもレノが死んでしまったら──それこそ、立ち直れなくなるだろうということだけは、アンナも自身の感情を理解していたのだ。
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