水月泡沫
- ナノ -

25

ソーディアンが完成し、基地に戻ったカイル達はその報告をリトラー司令に伝える。ベルクラントの機能を麻痺させる大役を担っているハロルドの護衛を引き続きしてもらうことになるから作戦前まで待機しているようにと指示された。
近付く決戦に意気込み、天地戦争の結果を逆転させないと意気込んでいるカイルやロニをしり目に、ジューダスは沈黙していた。ノリが悪いなとロニはジューダスを叱咤しようとするが、ジューダスはその重い口を開いた。


「お前達、天地戦争の本当の結末は知っているのか?」
「え?ソーディアンチームがミクトランに勝つんでしょ?」
「ミクトランがどのように倒されたか、だ」
「どうって……ソーディアンチームが、ミクトランをぶっ倒してめでたしめでたし、だろう?」
「確かに連中によってミクトランは倒された。だが、ソーディアンチームにも犠牲が出なかった訳ではない」


ソーディアンチームといえども圧倒的な強さを誇るミクトラン相手には苦戦し、ミクトランと刺し違えなければ彼を倒すことは出来なかったのだ。そう、その刺し違えた人物こそがカーレル・ベルセリオス。ハロルドの兄だったのだ。
その事実にカイルは動揺し、今からハロルドに相談すれば間に合うかもしれないと声を上げるがまさにカーレルを救うことは、エルレインと同じく都合よく歴史を改変することと一緒だ。
ハロルドには悪いが、その事実をその時まで黙っているべきなのかもしれない。悔しそうに拳を握り締めるカイルに、ジューダスは静かに告げた。


「誰でも何時かは死ぬものであって、それが早いか遅いかの違いだ。僕たちに許されているのは見守ることだけだ。もしもを考えても仕方がない」
「決まっている死……誰でも、何時かは……」


何時かは決まっている死ーーそれが身近な大切な人、リアラにもすぐそこに在る物だとカイルには想像もつかなかったのだ。
道具や装備を整える為に部屋の外に出て行ったカイル達を見送り、辺りに人の姿が無いことを確認してジューダスはシャルティエを取り出した。


「ソーディアンチームの突入ってことは当然シャルも居るんだよね」
『えぇ、活躍できたかと聞かれたら……微妙な所ですけどね』
「それでも地上軍の代表として先陣切ったんだからそんなに悲観しなくてもいいのに」
『あはは、そう思いたいのは山々なんですけど……ディムロス達と比べたら最後まで期待には応えられなかったんです』
「……シャルに身体があったら今頬抓るのに」
『え!?』
「お前のそういったネガティブな発言は聞き飽きたという事だ。本当の役立たずならば僕の相棒は務まらないだろう?」
「シャルのお陰で私達も助けられてるんだから。私は、客員剣士になった頃からしか知らないけど、そのことは十分分かってるよ」
『坊ちゃん、ユウナ……』


シャルティエにとっては根深く残っていたコンプレックスだったのだ。本当の英雄たちの影に隠れ、名を連ねているとはいえ彼らと比べると大した活躍をすることも出来なかったことをシャルティエは悔いていた。
そもそも少佐という身でソーディアンチームに選ばれた時点で周りからのプレッシャーも相当の物だったからか、気鬱に思うのも彼の元来控えめな性格を考えると当然だった。そしてその弱音を吐く事もディムロス達にすることも出来ず、彼の親友であったロイにしか出来なかったのだ。


『はは、まったく、坊ちゃんの皮肉に付き合い切れるのも僕くらいですよ?』
「フン、良く言う。お前の愚痴を聞くのは誰だと思っているんだ」
『坊ちゃんは前にも聞いたって適当にしか反応してくれないじゃないですか。ユウナなら親身になって聞いてくれるって言うのに』
「甘やかしはしないけどね?」
『……う、その辺りはロイと一緒でしたね』
「あはは、シャルにはそれ位が丁度いいって長い付き合いで分かったし」


ロイも、そしてユウリィも話を聞いた上で決してただ甘やかすようなことはせずに背中を押してくれることをシャルティエも知っていたのだ。

翌日の午後、ラディスロウで最終確認の会議が行われ、それぞれ作戦行動を確認する。ソーディアンチームは一体を率いて敵を分断しつつミクトランの元へと向かい、そしてハロルドはカイル達と共にダイクロフト中央制御室を占拠して生体兵器工場及び、ベルクラントの稼働を停止させる。そしてディムロスは立ち上がり、全員を見回して声を張り上げた。

「死力を尽くすことと、死ぬことは別だ。……必ず、生きて帰ろう!」

その声に応える声が艦内に響いた。その指揮の高まりに鼓動も跳ねる。

そしてラディスロウは発進し、離陸する振動が伝わって来る。そしてラディスロウは上昇し、ベルクラントによる射線を交わし、左右に激しく揺さぶられる衝撃を感じながらも次の瞬間ラディスロウはベルクラントに突っ込んだ。
一歩間違えればラディスロウごと落とされていたかもしれない無茶な運転にハロルドでさえ肩を竦めながらも、全ハッチを解放して地上軍の兵達は艦艇を飛び出した。

そして兵達を率いて駆け出す直前ディムロスは別れ際、カイルに告げたのだ。歴史はその時代の人間の手によって作られるべきであって歴史の流れを元に戻すのは君たちにしか出来ないからこそ自分自身の道を進め、と。
カイル達が自分達とは違う時代から来ているのではないかとディムロスも半信半疑だったが、カイル達の言動からそんな気がしていたのだ。
ディムロスに背中を押され、その後姿を見送ったカイルだったが、耐え切れなくなったのかカイルはハロルドを振り返った。


「ハロルド!こっちはいいから、ディムロスさん達を追い掛けるんだ!今ならきっとまだ間に合う!」
「カイル!」
「お前、自分が何を言ったか分かってるのか!?」
「分かってる!分かってるけど……やっぱり駄目だよ!助けられるのが分かってるのにこのまま黙ってるなんて俺……」


カイルを制する強いジューダスの声が響いたが、カイルをこつんと小突いたのはハロルド自身だった。それはエルレインとしていることが同じだとハロルドは呆れたように溜息を吐く。

「私は、未来を知りたいと思わないし例え知ったとしても行動を変えたりしない。今やるべきことを、やるだけ。そうやって人間ってのは手探りで歴史を作ってきたのよ。私だけインチキする気は無いわ」

しかし、ハロルドが哀しむことになるーー思わずカイルが口走ってしまったその言葉に、ハロルドは気付いてしまったのだ。何故カイルがこんなにも自分にディムロス達を追うように勧めているのか、修正されない歴史においてどのような結末が史実どおりなのかという未来を。
この天地戦争において犠牲となるのは自分の兄、カーレル・ベルセリオスだと判った彼女は唇を一瞬噛みしめたが、考えは変わらないと首を横に振った。

「やるべきことは一つよ。そうでなかったら、ここまでの戦いで死んでいった、たくさんの兵隊に申し訳が立たないわ」

ハロルドの英断を、カイルが否定することはもはや出来なかった。しかしむしろ彼女がカーレルを助けるという決断をした結果、もしもエルレインによってではなく歴史改変が行われてしまうことになったら。それこそ、彼女の思惑通りなのかもしれない。むしろ、その可能性もエルレインはもしかしたら考えていたのだろう。

「私を凡人と同じ尺度で測ったのは大誤算だったわね。私は自分の感情に流されて大局を見失うようなことはしないの」

フンと鼻を鳴らしてハロルドは胸を張った。エルレインの思惑に乗せられるような人間だと思ったら大間違いだと言わんばかりに。彼女が強がってそう言っているのではなく、本気でそう思っているのだろうとは分かった。
しかし、彼女が哀しみを覆い隠そうとしているのもまた事実だろう。

ハロルドに案内されて中央制御室へと急いだ。魔獣や天上軍を退け、エレベーターを降りたハロルドは制御盤を操作する。
冷静に見えて、やはり何時ものハロルドらしくない焦りが見られた。それもそのはずだろう。兄の決まった死を知らされて、そしてそれを知りながらも助けに行かないという選択をすることはとても真似できることではない。


「未来を変えない決断……到底、真似できるようなことじゃないよね」
「あぁ、そうだな。万が一カイルがそういう状況になってたら、俺もどうするかは正直自信が無いからな」
「ハロルドのこの選択を。彼女の勇気を。彼女は……英雄だわ」


普段の言動や残した功績とは違う、もっと人の本質的な部分での英雄だというリアラの言葉に何となく分かるような気がするとカイルも頷いた。

主要な場所である中央制御室に待ち構えているのはこれまでの雑兵や弱い魔獣ではないだろう。それぞれ武器を握り締め顔を見合わせて頷き、そして開かれた扉の先に進んだ。機械が並ぶ部屋の中央に居たのは因縁の相手ーーバルバトス=ゲーティアだった。


「待ちかねたぞ、カイル=デュナミス」
「バルバトス……!」
「これ以上、人の歴史を弄ぶことは許さないわ!」
「人の歴史……?そんなものもはやどうでもいい!もはやディムロスも英雄と呼ばれる連中もどうでも良くなった。俺の目的は……カイル、貴様を倒すことだけだ!」


斧を振り上げたバルバトスにそれぞれ散らばり、陣形を整える。カイルが最前戦で武器を振るい、その少し後ろからジューダスとユウリィが晶術を交えながら援護をする。リアラとロニは回復術を使いながら援護に回り、バルバトスが振り上げようとする腕や足元を狙ってナナリーの矢が飛んで来る。

バルバトスに圧倒されていた時とは違いーーカイルの剣が彼の力を上回っていた。単純な腕っぷしだけではバルバトスの方が勝るだろう。しかしカイルには彼にも勝る守るべきものがあった。ただ英雄という形のない物だけをひたすらに目指していたあの頃とは違い、精神的にも成長して来たのだ。
カイルの剣がバルバトスの身体を貫き、バルバトスは唸り声をあげて傷口を押さえながら斧を下した。自分が敗北したことを分かりながらも、どこまでも往生際が悪く、バルバトスはカイルを睨み、声を張り上げた。


「俺達にもっともふさわしい場所……それは四本の剣が突き立った神の目の前だ!カイル、待っているぞ!貴様が来なければ神の目の破壊を食い止める!」
「貴様!スタン達が命を賭けて成したことを無に帰すつもりか!?」
「そんな事したら、外殻が地上に落下して今残ってる爪痕だけじゃ済まなくなる……!正気なの!?」


歪んだ闇の中に手負いのバルバトスは消えていき、取り逃した悔しさに奥歯を噛みしめる。スタン達が成した神の目の破壊という歴史を改変される訳にはいかない。それは仲間だった彼らに対して敬意を抱いているジューダスとユウリィにとって許し難い冒涜だった。


「まさか、18年前にまで介入してこようとするなんて……」
「……気になるが、今はこの時代に集中するべきだな」


バルバトスが居なくなった制御室でハロルドは操作盤に指を滑らせ、警告の声を無視するようにボタンを力強く押し、神の目からの供給を強制終了させてベルクラントの機能を停止させた。制御室のスクリーンは機能が停止したことを示していた。


「さ、行こっか。せめて最後くらいは看取ってあげなくちゃね」
「ハロルド……」
「なに?私にお別れを言わせないつもり?」
「そんなこと!」


こんな時でも気丈に振舞う彼女の強さに胸が締め付ける。そしてカイルの足を蹴りながら早く行こうと急かす彼女の目は僅かに潤んでいたような気がした。

神の目が安置された部屋に着いた時、凄まじい轟音と断末魔が耳に届いた。
カーレルが最後の力を使ってミクトランの身体を闇の中に引き摺り込んだのだ。ミクトランという男はソーディアンを持った彼らが束になってかかっても苦戦を強いられる想像外の強さだったのだ。ディムロス達は膝を付き、そしてミクトランを抹消したカーレルの身体にはミクトランの剣が突き刺さっており、彼の身体は血だまりと共に横たわった。階段を上り、横たわる兄の姿が目に入ったハロルドはひゅうっと喉を鳴らして駆け寄った。そして膝を付いて彼の身体を抱き締める。


「兄さん!しっかりして、兄さん!」
「ハロルド……はは、ヘンだな……幻聴、か?……何時も……なら……兄貴って……」
「喋っちゃだめ、傷口が広がる!」


丸い目から大粒の涙が零れ、カーレルの顔にぽたりぽたりと零れ落ちる。カーレルは真っ赤に染まった震える手を精一杯あげて、ハロルドの頬に触れる。何時だって兄ちゃんが一緒だーーそうハロルドを安心させるように言い残したカーレルはふっと笑みを浮かべ、そしてその手は地面に落ちた。


「兄さん……?兄さん!目を覚まして、兄さん!」
「ハロルド……カーレルは、もう……」
「兄さ……兄さぁぁあん!」


天上王ミクトランを倒したその代償は、とても小さなものとは言えなかった。勝利という喜びを感じることも出来ず、誰もが勇敢な一人の男の死を悼んだ。


ベルクラントでの結末を知らされ、拠点に残っていたロイは雪の降る外で上空をぼんやりと見上げながら白い息を吐いた。天上王ミクトランはソーディアンチームの決死の闘いにより滅んだ。しかし、カーレル・ベルセリオスという戦友の命を犠牲にして。
その事を哀しむというよりも冷静に受け止めている自分が居ることに、ロイは一種の自身への失望を抱いていた。他人を助ける為に己を犠牲にするーーそんな気概が無いからこそソーディアンチームに選出されながらも辞退をし、部隊の一員になることさえ拒んで研究者という立場に甘んじていた。逃げている、そう言われたらそうだろう。

元々稀有な力を得たせいで家族を巻き込みそして死へ追いやった体験を経て、自身に対して、そして生きるという事に対して絶望すら抱いていた。
他人を助け守るということが出来ないし、もはや興味関心を抱くということすら薄れていた自分が己の立場と与えられた役割というギャップに思い悩むシャルティエや、どこまでもマイペースに自分を振り回すハロルドに出会ったことで確かに変わって来た。
しかしこの天地戦争という一つの節目が終わるまでーー結局、根の部分は変わらない。そんな自分がたった一つでいいから何かを守りたいと、他人の為に全てを賭けることが出来るのなら。

「……俺みたいな人間を、頼ってくれてたやつ、か」

目を閉じて思い浮かぶのは、ハロルドが設計していない筈のソーディアンを手にしたあの少女ーーユウリィだった。
事情を直接聞いたわけでもないし、何となく避けられているのか話したことも殆ど無い。しかし、不思議と彼女とは深い繋がりを感じるし、初めて会ったあの日の反応から伺えた、自分は彼女を知らないけれども向こうは自分を知っていて親しい仲だったその事実が何故か居心地良くも感じる。ユウリィの力になるならば、ただぼんやりと過ぎていく日々の中に意志も無く埋もれていた自分が、初めて自らの意志で地に足を付けて歩いていくことが出来るのではないかという予感がするのだ。


ベルクラントから脱出した一向は再び拠点へと戻って来ていたが、本当にカーレルを救わないという選択肢が間違っていなかったのか、カイルは思い悩んでいた。しかしそんなカイル達に、ハロルドはまったくと呆れたように溜息を吐いた。


「兄貴の死は運命でもなければ無駄死にでもなかった。兄貴は兄貴なりに一生懸命に生きてきた。その結果だもの。だから悔いが残らない、幸せな人生だったと思うわ」
「例え、死が決まっていたとしても精一杯生きて、幸せを掴む……」
「な〜んか、しんみりしちゃったわね。この話はここまで。で、あんたたちこれからどうすんの?」


歴史改変が食い止められた今、優先すべきことはバルバトスとの決戦だろう。神の目の前というのは先の戦乱の時のダイクロフトのことだ。その時の歴史に介入されてスタン達が行ったことを無に還されたならば、エルレインの思うつぼだ。
しかし時間移動するにはレンズが足りないと言うリアラに、ハロルドはソーディアンを取り出した。ソーディアンのレンズは高密度である為、移動する分には十分だろう。


「さ、行きましょうか!」
「は、ハロルド……?えっと、ここでお別れじゃ……」
「なーに言ってんのよ。前に言ったでしょ?私の頭脳が神をも超える事を証明してみせるって」
「まさか、付いてくるつもりか?」


子供の様な無邪気な笑みを浮かべて当たり前だと頷くハロルドに、お互い顔を見合わせるがカイルは顔を明るくさせて嬉しそうに頷いた。実際、彼女の晶術の腕前は圧倒的だったし、その知能や技術を考えても百人力といったところだろう。イクシフォスラーに乗り込もうとしたその時、この格納庫に人が下りて来たことに気が付いてハロルドは振り返った。


「あら、ロイじゃない」
「っ……」


その名前に息を呑み、ユウリィもまた振り返った。そこに居たのは腕を組んでやっぱりなと零しているロイだったのだ。


「そいつらに付いて行くつもりだな、ハロルド」
「えぇ、時空間に干渉できる神との決戦なんて楽しそうだもの。ぐふふ、アンタの解剖にも役立つかもしれないし」
「……あのなぁ」
「今解剖って、言ったよな……?」


時空間に干渉する神ーーハロルドからその言葉を聞いて、ロイもまた腑に落ちた気分だった。やはり彼らは違う時代からやって来て、そしてその神と対峙する為にハロルドの元で何らかの動きをしていたのだと。
空間に干渉できる能力があるからこそロイ個人としてもその神という存在が気になる所だが、今自分がすべきことはその神に問う事でもない。


「ユウリィ、だったか」
「な、なに……?」


ユウリィにじっと視線を向けて名前を呼ぶと、ユウリィは瞬きながらも前に出て来た。そして後ろ手に持っていた剣を目の前に取り出すと、ユウリィの目が驚きに開かれ困惑した表情に変わる。それはユウリィの腰に収められている剣と全く同じ、ソーディアンだったからだ。


「こ、これは……?」
「このソーディアンには俺の人格が投射してある。お前なら、使いこなせる気がしたし、何となく必要な気がしたんだよ」
「あ……」
「ちょっと、まさか地上で試作してたコアクリスタル使ったわけ?」
「使い道も無かったんだ、構わないだろ。それでユウリィ、この剣を……」
「……ありがとう、ロイ。大事に、使うから」


今にも泣きそうな位嬉しそうに笑ったユウリィはその剣を受け取って腕に抱えた。その姿にロイもふっと笑みを浮かべ、そしてちょっとお前の剣を貸してみろと声を掛け、ユウリィの腰に収まっていた剣を受け取ったロイはそのコアクリスタルに触れた。
不思議な色に変わったそれにユウリィは首を傾げたが、けほっと咳き込んだ後ぽんぽんとユウリィの頭に、宥める兄のようにロイは手を乗せた。


「ロイって、本当に変わらないね……」
「お前が知ってるロイはこんなやつだったか?」
「あはは、もうちょっと余計な事言う軽口が多いって怒られてたかな」
「へぇ、俺がねぇ……」


久々にロイと話すことが出来て、胸の奥が温かくなる感覚を覚える。自分が知っている彼ではないし、彼も自分を知らない筈なのに、まるで長い時間を共にしてきたように錯覚するのだ。受け取ったこのソーディアンを大事にしようと決意し、ロイに礼を述べた。


「こういう感じでロイさんのソーディアンって作られたのかな……」
「でもそれってあたし達が歴史に介入した結果作られたってことだよね?でもユウリィは実際に持ってるわけだし、どういうことなんだい……?」
「……アイツは何も語らなかったから分からないが……しかし、ソーディアン・ロイは正確には人格投射じゃなかった筈なんだ」
「え?」


ジューダスの呟きにカイル達は疑問符を浮かべるが、彼はその真意を説明しなかった。ユウナが持っていたソーディアン・ロイのコアクリスタルは人格投射されたわけではなかった。本人がコアクリスタル内の空間に入り込んでいたのだ。
やはり歴史という事実として彼がソーディアンになった瞬間が分からず、更には微妙に変わってしまっていることにジューダスは頭を悩ませるのだが、それで自分達の身に変化が無いからこそ答えなど考えた所で分かる訳も無かったのだ。
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