水月泡沫
- ナノ -

14

フィリアと別れた後直ぐにイクシフォスラーを付けた場所へと戻り、飛行竜を追った。
レンズの出力などは飛行竜よりも劣っているものの、小さい分スピードが出る。イクシフォスラーのアンカーを二本、勢い欲飛行竜に向かって突き刺し、鎖から飛行竜内へと侵入した。


「侵入できたはいいけど……これからどうするつもり?」
「レンズを奪還したとしても持ち出せる量じゃない。飛行竜の動力を止めて墜落させ、海に沈めるしかないな」
「マジかよ……」
「動力室へと行くぞ、こっちだ!」


転送装置に乗って奥の部屋へと移動すると、一歩遅くシャッターが閉じてしまった。このシャッターを壊そうとカイルが武器を取り出すが、ジューダスに引き止められる。
飛行竜は限りなく生き物に近い機械で、壊してもまたすぐに再生してしまう。通るためには飛行竜の体内にある制御装置を破壊する他ないだろう。
先程フィリアから貰ったソーサラースコープがあれば制御装置が見付かるらしく、制御装置が何個あるか分からないし、時間も限られている。


「この飛行竜……カルビオラに向かってるんじゃない?この方向って」
「聖地か……そこで神様の降臨をやりなおそうって訳だね」
「うかうかしていると奴の目的地に到着してしまう。時間はあまり無いぞ」
「分かった、急いで探そう!」


部屋と言う部屋を回り、仕掛けがある中をすすんでいく。三つは見つけ出して、既に破壊したが恐らく最後の一つの制御装置の破壊に問題があった。


「……何だこの匂い!」
「これはまさか……」
「ジューダス?うわわっ!」
「カイル!」


足元が滑ったのかカイルが後ろに倒れこんでくる丁度その場所にユウリィが居て、受け止めようとしたが何故かこの部屋は足元が異様に滑りやすい。カイルに押された衝撃でユウリィの足までもが滑り、道を踏み外しそうになった。


「うわっ!」
「ユウリィ!」


近くに居たジューダスが下に落ちる寸前にユウリィの腕を掴んで何とか落ちずに済んだ。
しかし、受け止められた時の衝撃で帽子がふわりと下へ落ちていった。
そして、下に満たされている液体に触れた瞬間、じゅっという音を立てて帽子は溶けてしまい、ユウリィは顔を青くする。


「……い、今の、って」
「これはどうやら胃酸らしいな……怪我は無いか、ユウリィ」
「う、うん、大丈夫。ありがとう、ジューダス」


二人の雰囲気が気に入らないのか、ロニはちっと舌打ちを打って羨ましげな声をあげるが、突っ込むものじゃないとナナリーは一発ロニの頭を殴った。
もはやこのやり取りも仲が良い故の口喧嘩だというのはカイル達全員が分かっているけれど、今の状況を理解しているのかとジューダスは頭を悩ませた。

そしてジューダスは自然とユウリィに手を出し、少し気恥ずかしそうにユウリィもその手を取って滑りやすい細い道を歩き始める。


残り一つの制御装置も破壊してシャッターの閉まった場所へ戻ると、既にシャッターはなくなっていた。その部屋に突撃すると、男が一人何も持たずに待ち構えていて、その無用心さに眉を潜める。


「……来たか、祟高な理念を理解できぬ哀れな者達よ」
「はいはい、勝手に哀れんでてよ。けど……レンズは使わせないよ!」
「素直にそこをどけ、邪魔立てするならば、斬る!」
「リアラ様……本当によろしいのか?神の救いを拒絶する者たちと行動すること、とても聖女のすることとは思えません」
「……私の求めていた英雄はカイルだった。だから、例えどんな結果になろうと彼と共に歩むわ。そう……決めたの」


リアラの言葉にカイルは嬉しそうに目を輝かせ、同時に男は落胆するかのように一つ溜息をついた。聖女と言えども崇高な考えを持つエルレインとはあまりに違い過ぎて、そんな彼女では救いを齎すことは出来ないと憐れんでいるようだった。
男が手を振りかざすと突如その場に一体の魔物が現れ、段々と大きさを増していく。当人はこの魔物にカイル達の始末を任せると、忽然と姿を消してしまった。


「面倒だね、全く!」
「ロニ、ほら腰抜かして無いで!」
「ぬ、抜かしてなんかねぇよ!」


魔物が口をあけたと同時に、火を噴いてきて慌てて後ろへと数歩下がる。自分には当たらず、地面に当たった火は地面を黒く少し焦がすくらいの威力だった。


「厄介だな……ナナリー、リアラ!詠唱を頼む!」
「承知したよ!」


ナナリーとリアラが呪文を唱えている間に剣と斧で魔物を止めにかかるが、急に体を光らせたかと思うと後ろから短い悲鳴が聞こえる。後衛による攻撃を阻止するように遠距離攻撃をしてきたのだ。


「ナナリー、スプラッシュをお願い!」
「けどまた邪魔されちまうよ!」
「それは……ロニが引き付けてくれるから」
「何ぃ!?」


ロニは文句を言いながらも大きな斧を振り回し、魔物からナナリーの姿を見えないように攻撃する。怯んだ隙にジューダスとカイルの剣が当たり、体制を崩す。


「今だ、ナナリー!」
「スプラッシュ!」
「離れておいて……!」
「はぁ!?お前さっき引き付けろって……」


上から降ってきた水は勢いよく魔物へと直撃し、動きが止まった瞬間詠唱を終えたユウリィは飛び上がって、上空から晶術を放った。雷の刃が魔獣に突き刺さり、水に濡れて感電しやすくなっていたため、魔物に通常の倍くらいの電気が直撃し、そのまま力なく倒れた。
慌てて飛び退いたが、あと少し離れるのが遅れ居ていたら自分も感電する所だったかもしれないとロニは顔を引き攣らせる。


「言ってくれないと俺が感電する所だっただろ!?」
「離れてたし、現に今感電してないからいいかな?みたいに」
「よくねぇよ!もしだぞ、もし……!」
「男のくせにごちゃごちゃと煩いぞ、ロニ」
「くっそ、お前は何時でもユウリィの味方だな!?」


そろそろ自分達も出た方がいいかと思っていた矢先、突如飛行竜が今までの比ではない位大きく揺れた。
どうやら出力が無くなったせいで、段々と落下しているようだった。一つ前の部屋に戻って、乗り込む際に使った転送装置の上に立っても反応を示すことは無く、どうやら使えないらしい。


「どうするんだ!?このままだと俺たちも……」
「さっき、左の部屋に脱出用っぽい非常口があったからそこに!ジューダス、残り何分くらい?」
「あと五分程度しかない、急ぐぞ!」


ユウリィが制御装置を見つける際に見つけておいたという非常口に入り、魔物を蹴散らしながら先へと進んでいくと外に出て、
イクシフォスラーの繋がっている鎖が丁度出た場所の近くにあった。そこからイクシフォスラーに乗り込み、飛行竜から離れようとするが、何故か進まない。


「どうなっている……!?」
「おい、ジューダス何やってんだ!」
「違う……何かに吸い寄せられてるみたい……!?」
「嘘、このままじゃ……!」


飛行竜が爆発し、イクシフォスラーは何かの歪みへと引きずり込まれていった。何か渦巻くような感覚の中、意識を手放してしまう。

ーーそして次に目が覚めた場所は、信じられないような今だったのだ。
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