水月泡沫
- ナノ -

09

リオンはハーメンツの村での任務から帰って来てすぐに謁見の間を目指していた。
ユウナは責任者という立場もあり、飛行竜の件について報告したいと言ったが、あれ程までの事件が起きて最後にあの飛行竜を脱出した状況を考えると家で少し休養を取ってから報告に向かうようにリオンは言い聞かせた。早く家に帰って、マリアンやユウナと話したい、その一心で歩く速度も自然と上がる。
予定では王に報告するだけだったのだが。城に入ったら一番会いたくない人物がやって来て眉をしかめる。


「今戻ったのか。思いの外、時間が掛かったな」
「申し訳ありません、ヒューゴ様」
「報告を聞いたぞ。ソーディアンを二本も回収したようだな」
「はい」


そう言っている割には別に嬉しいという顔をしているわけでもなく、無表情だった。自分の父親とはいえ、嫌いな人物である理由はこれだ。
この男には情というものが存在しない。あまりにも非情に、現実的に、そして機械的な程に周囲を利用し、自らの野望を叶えようとするのだ。だからこそ、オベロン社という巨大グループの総帥にもなれたのだろう。


「この事は陛下のお耳にも入っている。捕らえた罪人を連れ、陛下の元へ来い」
「ただの盗掘者風情を陛下の元へ……?」
「あの者達には余罪の疑いがある」
「余罪といっても、恐喝やその程度と聞いていますが……」
「お前も聞いているであろう、先日の飛行竜の件を」
「航行中の飛行竜がモンスターの襲撃を受け、一切の消息を絶ったという…?まさか、その犯人だと?」
「そうだ。その事で陛下とドライデン閣下があの者達に直接尋問なさる」
「しかし、飛行竜の事件はモンスターの仕業であってあの者達とは関係ない、ユウナに聞いてみれば分かるはずです」
「どうしたのだ、リオン。やけに罪人の肩を持つようだが」


あまり気にしてはいなかったとはいえ、仮にも自分の姉であるルーティが拷問されるのはいい気分ではない。それに、事実とは違うのだから尚更後味が悪い。レンズハンターであることには間違いないが、飛行竜の件とは全く関係ない。同行者である男が、護送中のソーディアンを所持していたことは確かだが、真実はユウナの報告を聞けば分かることだろう。
この男は多分知っていて、わざと聞いている。薄く笑ったその表情に、ぞくりと背筋が震えるような恐怖すら覚える。


「男の方が持っていたソーディアン。あれは非行竜で護送中だったソーディアンだ」
「男……?あの金髪の男ですか。それでは、女の方は無関係……」
「何を言う、あの者達は共に手を結び仕事をしていたのだぞ。関係があると考えるのが自然ではないか」
「……」
「いずれにせよ、閣下が黙ってはいないだろう。事の成り行き次第では、極刑も考えられる」
「極刑……!」


予想もしていなかった重刑に驚いた。ヒューゴにとっては実の娘である、自分にとっての生き別れの姉のルーティがいる。
表情を変えず、更に薄ら笑みさえ浮かべているヒューゴにうなだれて拳を握る。そして震える声で、リオンはヒューゴに罪人たちの名前を知っているかどうか尋ねた。
彼は淡々とした声で「知っている」と答えたのだ。いくら冷淡だといえども、実の娘の命を軽くは思っていないだろうと考えていたのに、それは見事に打ち砕かれた。


「それなら、ソーディアンを持っていたあの女は……!」
「あのソーディアンは本来、私が発見し所有していたものだ。まさか手元に戻ってくるとはな。感謝しているぞ、リオン」
「あなたという人は……」


信じられない言葉に絶句する。平気で娘を切り捨てるこの非情さ。
だが、今更この男に一体何を期待していたのだろうか。息子である自分も道具としてしか見ていないことは知っているし、自らの力で歩んでいく為にもリオン・マグナスという名で生きると決めたのに。
――ヒューゴから命令され、牢屋に居る罪人達を謁見の間に連れて行くために牢屋に入る。檻越しに中に入ってる彼女達を見るとルーティが牢屋の中からでも響く煩い声を上げて怒鳴ってきた。


「ちょっと、あんた!ハーメンツではよくもやってくれたわね!」
「出ろ」
「あたしたちをどうする気?」
「答える必要はない。黙って僕について来い」


短く答えて、スタンの褒め言葉も無視し、三人を連れて謁見の間へと向かう。
本当に、ユウナを置いて来てよかったと思う。少なくともこの三人に罪悪感を感じている様子だったのに、尋問につき合わせるだなんて、それこそユウナへの拷問だ。
スタンは行く途中途中で、城の装飾に感嘆の声を漏らしていた。ルーティは相変わらず苛付いているようだし、マリーは珍しい光景に目を輝かせていた。
そんな彼らを見てこれから起こるであろうことにリオンは小さく溜息をついた。シャルティエもそんなリオンの様子を察してか、コアクリスタルを光らせる。

謁見の間の扉を開けて入り、国王の隣に居たドライデンの強い口調に肩を跳ねさせ、ひざまずく。階段に置かれていた見覚えのある剣に思わずルーティは顔を上げて大声で叫んだ。


「あ〜っ!アトワイト!」
「ディムロス、無事だったのか?」
「ちょっと、アトワイト返してよ!それはあたしのよ!」


ルーティは兵士達を睨み付けて手を伸ばそうとする。
そんなルーティ達の無礼っぷりに苛立ったのか、ドライデンが一喝する。ドライデンが言っている人物は自分の事を指していると気づくとスタンは姿勢を伸ばして返事をする。
スタンに睨みを利かせて国が保管する筈だったものをなぜおまえが持っているのかと問い詰めるが、スタンはそれが重大なことだとは思っても居ないのか惚けた顔で「なぜと言われても……色々事情があったとしか」と答える。
このままでは濡れ衣も着せられて犯罪者になってしまうと焦るルーティ達だったが、その時「失礼いたします」というひとつの高い声が謁見の間に響き渡り、一人の人物がやってくる。
リオンはこの時間にはまだ来るはずが無いと思っていた人物に驚いた。


「ユウナ……!?」
「どうした、ユウナよ。今は忙しい!」
「忙しい中、申し訳ございません。ヒューゴ様に来るように言われましたのでこちらへ参りました」
「……っ!?」


リオンがヒューゴを見ると、何かを企んでいるような表情だった。
飛行竜での護送は、ユウナが責任者に付いていた。幾ら一人ではどうしようもない事態であったとはいえ、その責任を問われてもおかしくはない。だが、普段はリオンと共に行動しているユウナがその任務に一人だけ当てられたのも良く考えるとおかしな話で、更にはそれを指示したのはヒューゴである。



「ユウナよ、飛行竜の件で密航していた者はこの者だな?」
「はい、間違いありません……しかし、彼はソーディアンを狙った者ではありません」
「密航をした上、結果的にはソーディアンを盗んだものと同じだ。ユウナは何故護衛しきれなかったのだ?」
「まるでソーディアンを狙うかのように数えきれない程の魔物の集団が襲ってきたとはいえ、その件に関しては全て私の責任です。大変申し訳ございません」


頭を下げるユウナにリオンは口を挟みそうになるが堪えた。本当はユウナの責任を越えるほどの事態が起こったためにこんなことになってしまったのに。
上空で、通常の魔物討伐任務をも超える量の魔物が襲ってきて、ソーディアンであるロイを所持しているとはいえ飛行竜を守り切れるものか。寧ろ彼女は生存者を最大限に増やす指示を出した。そして結果的にはその場に居合わせた男の力を信じてソーディアン自体は消失せずに済んだのだろう。
だが、責任者として最悪の結果を免れただけでは駄目なのだと理解していたユウナはどんな咎も受けようと覚悟していたのだが、追及を制したのはヒューゴだった。


「お待ち下さいませ」
「どうした、ヒューゴ」
「あの者達は、まがりなりにもソーディアンを扱える身。貴重な素質の持ち主です。闇雲に処罰するのは早計かと」
「しかし、このままでは示しがつかぬ!」
「ユウナの件についてもモンスターの襲撃、ソーディアンの回収、兵士達への指示、乗組員を逃がすなど短時間で一人で出来る内容ではないはずだと。生存者の話とも一致します」


この言葉にユウナも驚いて顔を上げる。何故、私を庇うような発言を彼が行うのだろうか。
王もヒューゴの意見にそれも最もであると感じたのか目を閉じる。ソーディアンの素質があるものなどそう居ない。このまま罪人と処してしまうと、折角入手したソーディアンを腐らせてしまうことになる。

――そんな沈黙を破ったのは慌てた様子で入ってきた一人の兵士だった。彼が報告したのはストレイライズ神殿が襲われた旨だった。
その報告に、王は先程までの冷静さを取り乱し、立ち上がる。他の者は事の大事さがよく分からないのか、疑問符を浮かべている。ただ一人、ヒューゴを除いて。
ストレイライズ神殿は、信仰者が居る場所だ。このダリルシェイドとは関りも薄い所だろう。その場所になにか王がそんなに慌てるようなものがあったのだろうか。


「実はあの神殿には、極めて重要な遺物が隠されているのだ。それにもしもの事があったら」
「その遺物とは、もしや……神の眼のことですかな?」
「神の眼!?」


階段に置かれていたディムロスとアトワイトの声が間に響く。とは言っても聞こえている人間は数少ないが。
何をそんなに驚いているのか不思議なくらいで、ユウナはロイに静かに何?と尋ねるが何も答えは返ってこなかった。


「ディムロス達、何を驚いているんだ?」
「さあ?」
「ヒューゴ……知っておったのか」
「私は元々、考古学に携わっていた身。それ故推察したまでですが……」
「神の眼というのは、それほど大層な物なのですかな?」
「遥か昔、世界をとてつもない災厄に巻き込んだ元凶だと伝えられている。神の眼を二度と表に出すなかれと、王家の戒めにも残っているほどなのだ」
「ならば、すぐに調査隊を派遣しましょう。指揮は私めが」
「お待ちを。国の重鎮たる将軍閣下が軽はずみに動いては民が動揺します」


ヒューゴに遮られたことでドライデンの機嫌は更に悪くなり、声音はとても低い。
ではどうしろと言うのだと不機嫌そうに尋ねるドライデンに対して、ヒューゴはわざとらしく七将軍のことを持ち出す。
一刻を争う緊急事態の中、スタンが手を上げて自分がやりますと言い出した。当然反対され、ドライデンには一喝されたがヒューゴはふむ、と考え出す。ソーディアンは神の目と同じ時代に作られたものだからこそ、彼らの力は状況を打開できるかもしれないと。


「罪人を野放しにしろと言うか」
「リオンに監督させては如何です?補佐としてユウナもつけましょう。あれらはソーディアンを使えますので」


黙って事の成り行きを見ていたリオンは一つの結論に辿り着いた。手柄を立てさせて、自分の立場を更に上げようとしているのだ。息子でも利用する、そんな人間であることは既に知っていたが――相変わらずだ。
ヒューゴの巧みな誘導にその場の荒立った空気が収まっていく。確かに、この件の適任者はヒューゴの言うとおりだ。


「ふむ……」
「万一に備え、あの三人には囚人監視用の措置を施しましょう。先日レイノルズが考案した装置、あれを付けさせればよいかと」
「今回はヒューゴの案を採用する。リオン・マグナス!ユウナ!」
「はっ」
「その者達を連れ、神殿へ向かえ。万一神の眼に何かあった時は、全力でこれを確保するのだ」
「かしこまりました」


任務を承ったリオンとユウナは三人を連れて、城を出てソーディアンを取りに行くべくヒューゴ邸へと向かう。
予想していた通り、ルーティはまずユウナに問い詰めてきた。彼女がユウナを責めるのも当然というものだろう。何せ、護衛剣士と名乗って彼女たちと同行し、リオンと対峙した際に彼と協力する形でルーティを捕らえたのだから。最初から図っていたのではないかと思うだろう。


「ちょっと、ユウナ!どういうことなのよ!」
「その、私は護衛剣士ではなくて王国客員剣士補佐で……ごめんなさい……」
「ルーティ、あんまりユウナを責めなくても。ユウナだって飛行竜で俺を助けてくれたんだし」


リオンは四人が話している様子に少し苛付きを感じて、速さを上げて歩く。
これ以上の無駄話は不要だと言わんばかりにユウナの手を引いて歩き出すリオンに、ロイとシャルティエは溜息をいた。ルーティはその様子をへぇ、と漏らしながら面白そうな顔で見ていた。

ヒューゴ邸にて話も終わり、一向はストレイライズ神殿へ向かおうとしていたが、その前にヒューゴに話があったため皆を外に待たせて一人、ユウナはヒューゴの部屋の扉を叩く。


「ユウナか、入れ」
「失礼します」
「何か話があるようだな、何だ」
「……飛行竜の件に関して、何故あの様なことを王様達の前で言ったのですか?」
「当然のことを言ったまでだよ、何か他に気になることがあったのかね?」
「そ、それは……」


あの時のヒューゴに恐怖感を抱き、何か別の目的があったのではないか、と考えた自分が居ただなんて本人に言えない。
何せこの二年とリオンの話で、ヒューゴに善意というものがないことはユウナにも解っている。自分を庇うことで、さらに何らかの利益を自分に求めているに違いないと確信さえしていた。


「君は洞察力に優れているが、まだ若い。甘い部分もある、もちろんリオンもだ。ユウナが居る事でリオンにも良い影響を与えてくれると思ったのだがね?」
「それは私に残ることを望んで言った……ということですね?」
「そうだ、この任務は重要だ。だからこそお前達に任せるのだ」


笑った顔は、信頼しているからこそ見せる顔だと一見思われるが、何処か真意を隠したその表情に背筋が寒くなる気がした。
彼の為にリオンの補佐をしているのではない。あくまでもリオンを助け、そして自らやりたいことを自由の為にも為すのだ。

ヒューゴはユウナが出て行った扉を見て低い笑い声を出しながら呟く。その瞳に温度は感じられない。
――ソーディアン含めて、まだまだ利用価値がある。


「ロイ、あの人の言う事信じていいのかな……」
「……あいつの言う事だけは聞くな。お前の信じた奴だけ、信じとけよ」


軽口が多いロイだが、その声音からかなり警戒している様子が伝わって来る。しかし、彼の忠告は確かなのだろう。信じた者を信じる――怪しいと思った者には注意を払う。嫌疑的な視方のようでもあるが、それは自らの立場を考えると払うべき注意だろう。
――あのヒューゴだけは絶対に信じてはいけない。きっとこの人物が、"彼女達"の言っていた人だと思うから。

下の階に降りると話し声が聞こえてくる。何を話していたのかは知らないが、マリアンに謝っているリオンの姿があった。その表情はいつもと違って、どこにでも居る少年そのものだった。


「……ごめん、マリアン。僕が悪かったよ……」
「分かってくれればいいわ」
「それじゃ、行って来るよ」
「エミリオ……!気をつけてお行きなさい」
「大丈夫だ、心配ないよ」


笑っている彼は王国客員剣士ではなくただの、エミリオ・カトレットという少年そのものであった。何故か、そんな二人の様子に小さな胸の疼きを感じた。
何時も見ている筈の光景なのに、どうしてなのだろうか。
――いや、何時も見ている訳ではない。あれは、リオンがマリアンの前でしか見せない表情そのものだった。頭ではそう分かっている筈なのに、一体どうしたというのだろうか。自分の感情を説明できず、ユウナは首を捻る。


「ユウナ!」
「なに、リオン?」
「……どうしたんだ。何かヒューゴに言われたか?」


漸く出て来たユウナにリオンは駆け寄ったが、いつもと雰囲気の違う名前の呼び方をするユウナに不信感を抱き、そういえば先程までヒューゴと会っていたことを思い出す。
先ほどの件もあることだし、嫌味を言われていてもおかしくはない。そんなリオンの心配をよそに、ユウナは追求を避けるように首を横に振る。


「ううん、何でもないよ。皆待ってるし、先行くね」
「ユウナ」


明らかに違う態度に後ろを向いたユウナの腕を掴むと、ユウナは不思議そうな顔をしてリオンに振り返った。おかしい、出会い始めのあの何処か他人行儀な態度と似ていて内心焦っている自分が居る。


「……リオン?」
「ユウナ、何かを一人で溜め込めるな、……僕に頼ってくれ」
「うん……ありがとう、本当に何でもないよ、行こう?」


――あぁ、どうしてだろう。先程の胸の痛みももう薄くなっていて、忘れてしまうほどだった。

薄暗く人気の無い森を抜けると一つの大きな神殿が姿を現した。しかし人影は無く、普段は賑わっている筈のこの神殿は静寂に包まれていた。何時もだったら大勢の神官や信者で賑わっているはずだ。
そして鼻を掠めたのは間違いない、この匂いは血だ。
ということはこの神殿で何が起こったのか、そんな事わかりきっていた。警戒をしながら扉を開けると中は暗く、誰も居ない上にやけに暖かな空気が流れていた。


「神殿の中もガランとしてるわね」
「誰か!誰かいませんか!」
「いきなり大声を出すな。どこかに敵がいたらどうする」
「困っている人がいるかもしれない。助けに来たって教えてやらなくちゃ」


警戒心を持たず、神殿内に大きな声を響かせるスタンに流石のリオンも苛立っている様子だ。ユウナが代わりにスタンに言おうとするが、その前に何処からか呼びかけに答える声が聞こえてくる。
どうやらまだ生きていた人が扉に結界を張られた中に居たようで、その人たちを助けるために結界石を壊すことになった。


「私はスタンと行くよ」
「ユウナ、何を言ってるんだ!」
「スタンは突っ込んでくし、回復役と補助、敵によって晶術も必要でしょ?だったら私が一緒に行く」


ユウナの言っていることも正しいため、リオンは何も言えなくなる。確かにスタンの戦闘スタイルを考えると、ユウナが最も適しているだろう。何せ他者との連携が不得手であるリオンと比べて、比較的誰とでもすぐに連携出来る上に、補助も補佐をしていたことで慣れている。
本当は、スタンと二人きりにしたくない、というのが本音だが、口に出すのは躊躇われる。


「坊ちゃんが嫌なだけ……いった!」
「黙れ、シャル!」
「別に我慢しなくてもいいのよー坊ちゃん」
「貴様……」
「はい、行きましょうー。ね、マリー!」


電撃を喰らう前にルーティはマリーを連れて歩き出す。リオンは舌打ちをして気をつけろよとだけ言うと追っていった。
スタンと共に神殿内を回って結界石を壊しに向かったユウナだったが、耳に痛いことだろうと思いながらも彼には言っておかなければいけないと意を決し、ユウナはスタンを振り返った。


「そうだ……スタン。危ないから、あんな危険があるかもしれない所で大声を急に出さないでね」
「でも、生きてる人が居たら……」
「それでも、危ないの。それで魔物が来て私達が襲われたら助けられる人も助けられないでしょ?」
「……ごめん」
「うん、分かってくれたならいいの。あと、リオンの事も悪く思わないでね……?」
「別に俺はリオンの事嫌いじゃないから。いい奴だと思うな、俺は。でも、リオンとユウナは仲いいよなー」
「うーん……まぁ、補佐としても長いからね。でも、いい奴かぁ……リオンのことをそう言ってくれた人、初めてかも」


年上である彼を注意するのは心苦しさもあったが、ストレイライズ神殿の有様を考えると、一つの油断が命取りになるかもしれない。スタンの底なしの明るさに仲間の雰囲気も和らぐが、敵地において最大限警戒をしなければならないというユウナの忠告に、彼は嫌な顔をすることもなく頷いた。
それがユウナとしてもほっと胸を胸を撫でおろすのだが、スタンが零したリオンがいい奴だという評価に、ユウナは自分のことのように喜んだ。彼の言葉には棘があるから勘違いされ易いのだが、信頼している者に対しては不器用に気遣う――そういう人なのだ、リオン・マグナスという少年は。
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