Queen of bibi
- ナノ -

邂逅と変化の切っ掛けと


物珍しい二人の組み合わせが並んで話していることに驚いて瞬いていたのは彼女達と友人である鳴上嵐だった。名前とも友人だったし、そして今名前が話している凜月とも同じクラス同じユニットの仲だ。
しかし、彼女達が話している姿を彼は見たことがなかった。
凜月は放課後や休み時間はどこかに寝に行っているし授業中も寝ていることが多い。名前も初めて話す人には緊張してしまうのか、まだ二人の接点はさほどなかった筈だと思いながら、嵐は教室内で話している二人に近付く。


「おはよ、名前ちゃん。凜月ちゃんは眠そうねぇ」
「ふぁぁ……朝と昼は俺の活動時間じゃないし……」
「それにしても、いつの間に凜月ちゃんと仲良くなってたの?二人が話してるなんて吃驚しちゃったわ」
「俺は日傘返そうとしただけだけどね」


わざわざ話しかけたのはそういう理由だと手に持っている女性物の日傘を嵐に見せるが、ただ返すだけでなく少し会話をしていたその雰囲気から少なくとも凜月の警戒心や無関心は無いように思えたのだ。しかし一体いつの間に。
名前の話は時々していたが、興味無さそうにしていた印象の方が強かったのに。


「創くんのお誘いでガーデンテラスに紅茶を頂きに行った時なんだけど、そこで凜月くんが寝てたの。絶対名前覚えられてないと思ってたのに、意外と覚えてたみたいで」
「だってナッちゃんと特にス〜ちゃんがよく話すから一応覚えてはいたよ。興味はそんなに無かったけど。それなのに俺に構ってきたし」
「凛月くん可愛くない……構ったというか、あの時は創くんも困ってたからしょうがないんだってば」
「名前ってば、意外と俺のこと雑に扱うんだよ?俺が机の下で寝てたら邪魔だからって退かしてきてさぁ〜触んないでって言ったら手袋はめて戻って来て俺に日傘差してくるんだもん。なーんかズレてるよねぇ」
「机の下で寝てる人に言われるの何だか心外……」


お互い文句を言いあっているものの、言葉ほど口調に刺はなく、それさえも楽しんでいるような雰囲気だったから嵐はほっと溜息を吐いた。眠たい時にちょっかいを出されるのを嫌うし、気まぐれな所も目立つ凜月だが、一応気は合ったのだろう。
その日以来紅茶部に、というよりも創とお茶をする時に居ることのある凛月と徐々に話すようになり、普通に話せる仲になってきたのだ。


「面倒見はいいけどさ、ス〜ちゃんが優しい人ってベタ褒めしてたほどでもないよねぇ。ジュース買うのも文句言われたし」
「眠いから買ってきてって命令するのもどうかと思うな!?司くんの褒め言葉は多分脚色が強いような……私としては嬉しいけど、凜月くんがこうやって否定してくる……」
「ウフフ、名前ちゃんって意外と強いのよぉ?鬼コーチぶりは勿論、意外とはっきり言うし。ま、でも素直で一生懸命な所が可愛いんだけどね」
「ううっ、嵐ちゃん……」


嵐の褒め言葉に思わず抱き着くと、可愛いわねぇと呟きながら妹を宥めるように抱きしめる。年下や面倒を見ないと駄目な人への面倒見はいいが、意外と先輩や自分には素直に甘えてくる。
だからこそこの様子を司が見たら、きっと離れてくださいと青ざめて駆け寄ってくるだろうと考えながら、嵐は名前の頭をぽんと撫でた。
彼は先輩として慕っていると言う割には少々嫉妬深いのだ。後輩として好きな先輩を独り占めしたいのかもしれないが。


「あー、やっぱ眠い……名前、俺のアイマスク取って来て……」
「凜月くんってずっと寝てる猫だよね……うちの、というかおばあちゃん家で飼ってる猫そっくり」
「にゃーん、なんてね。なに、引っ掻いてもいいの?」
「……アイマスク取ってこないしニンニク剃り下ろすよ」
「げっ、止めてよね。それやるなら兄者にやってよ。たーっぷりあげていいから」


相変わらず自称夜闇の帝王である兄に対しての当たりが強いものだと、名前は肩を竦める。部長の日々樹と並ぶ三奇人の一人である朔間零の噂はTricksterから耳にしているが、日々樹と比べたら比較的常識人な方ではないかと思っていた。発言や夜型の生活や嫌いな物といった吸血鬼っぽい特徴は、除いて。そんな兄を邪険にするが、凜月も似たような特徴を持っているのだから不思議なものだ。

その日の午後、名前は持って来ていたCDを手に三年生の教室へと向かっていた。放送委員会で使うから色々なユニットの曲を宣伝も兼ねてまとめてきてくれと言われていたのだ。

「に〜ちゃん、頼まれてたCD持って来て……あれ、居ない」

しかし、3-Bの教室を訪ねたが、そこになずなの姿はなかった。
もう放送室に向かったのだろうかと思い戻ろうとしたのだが、視界に知り合いが映ったような気がして急いで踵を返そうとした。
残念ながら一歩遅く、名前の姿を捉えた日々樹は嬉々として声を上げて近寄って来た。


「フッフッフ、名前さんではありませんか!」
「げっ、呼んでないです帰ってくださいむしろ私が帰るので関わらないでください!」
「おやおや照れ隠しですか。君といい友也くんといい照れ屋ですねぇ。私に会いたくて会いたくて来てしまっただなんて」
「勝手に!決めないでください!私に〜ちゃんに会いたくて来ただけなのに……いいですか、昨日聞きましたけど友也君また拉致したら怒りますからね!」


それだけ言い残して逃げるように教室を出て行くとその姿を見送りながら、やはり反応が面白いものだと日々樹はくすくす笑う。
最近ではこの学科に慣れてきたようだし、演劇部でも相変わらず自分の役は脇役にしようとすることだけを除けば、アドバイスや希望も取り入れて脚本を作り、演出するようになった分、成長している。
演劇科の紹介ビデオに乗っていた演劇ーーあれも確かに一年生ながら完成度は素晴らしかった。しかし、本人を含めて演劇者が誰も楽しそうではなかった。今はどうだろうか。自分に振り回され時折不満を零しながらも楽しんでいるように映る。

あの映像を友也に名前に届けるよう頼んだが、名前本人から文句を未だ言われていない辺り、彼女の近くに居る人間の誰かしらが目論み通り所持しているのだろう。

「フフ、部長として私からの餞別ですよ、名前さん」

それを見た人たちが突然プロデュース科に放り込まれたまだ信頼もない新米プロデューサーの腕を見込んで信頼関係を築いていく手助けになるのならいいことだ。

三年生の教室をげっそりとした様子で出た名前はなずなに連絡をしようと携帯を取り出し、文字を打とうとしていた。
しかし、廊下に居る名前の姿に「あれ!?」と驚いた声を上げた聞き覚えの無い声に名前は反射的に顔を上げる。そこに居たのは見たことのない男子生徒で、雰囲気からして三年生だろう。襟足の長い金髪で、ネックレスが開けられた首元のシャツの間から覗いている。
知り合いでもなかったから違う人に声をかけたのだろうかと横と後ろを振り返るが、誰も居なかった。そんなことをしている間に彼は笑顔で自分に近付いてきて、目の前で足を止めた。


「偶に学校に来てこんなラッキーに巡り合うなんて!なに、そんな恰好までしちゃって君、アイドル科に潜り込んじゃったの?」
「えっ?新設されたプロデュース科に所属になったので、別に潜り込んでる訳でも無くて正式にここの生徒です」
「へぇ、こーんな可愛い子にプロデュースされるチャンスがあるなら朔間さんに頼もっかなぁ。この後の授業なんてやめて、俺とこの後遊びに行かない?退屈はさせないって」
「……」
「あれ、緊張しちゃった?」


この人アイドルだよね。そんな疑問がふと浮かぶ。そう疑ってしまうほどに軽いというか遊び慣れているような雰囲気なのだ。アイドルにゴシップはご法度だと思うのだが、こんな調子でいいのだろうか。ここの生徒はそれぞれ個性のある魅力があるし、彼もこの調子がもしかしたら魅力の一つなのかもしれないが。
しかし、名前個人としては得意なノリではなかった。


「そういう物珍しさで声をかけずとも、貴方ならお誘いに乗ってくれる女の子、たくさん見つけられますよ」
「……」
「それでは。レッスンやプロデュースで会えることがあるといいですね。先輩」


その人の名前を聞くこともなく、逃げるようにその場を立ち去った。

だがこの時の少し素っ気なくした判断が正しいものではなかったと気付かされたのはそれから数日後だった。
三年生の教室に行く用事は数日間なかったのだが、不思議と屋上やガーデンテラスへ行った時に偶々鉢合わせ、自分の姿を見付けたらしい彼が声を掛けて来て初めて会った時のように「一緒にお茶でもどう?」などと誘って来るのだ。適当に友達を待っているので、とか言い訳を付けて逃げているのだが、その反応さえ楽しまれているような気がして微妙な気分だ。


「……ってことがあって声をかけられては逃げる繰り返しになってるんだけどどうしたらいいかな北斗くん!遊木くん!」
「……まったく、冷たくしても逆効果ってこともあるんだぞ。UNDEADの朔間先輩には世話になっているが、羽風先輩は色々と噂を聞くな」
「ど、どんな?というか羽風先輩って言うんだ」
「あはは、名前知らなかったんだ?えっーと、羽風薫先輩。まさに名前ちゃんが思った通りの感じ?実力は申し分ないけど、あまり学校で見かけないし遊び歩いてるって噂だよ。多分女の人に目が無い……って名前ちゃんの目が据わってる!?」
「いや、部長と違った意味でまた面倒そうだなって思って……いや、というよりもう既に振り回されて楽しまれてる気がする……」
「名前と友也はあの変態仮面に振り回されているからな。……そういう気質なのか?呼び寄せてしまうというか」


北斗の言葉にやめてやめてと首を横に振る。そんな属性は一年生の時は無かった筈だ。まさかあの部長によって変わった人に振り回されやすくなっているのだろうかと口元を引き攣らせて頭を抱えていたが、真が何かを考え込んでいるような顔で閉口してじっと自分を見詰めていることに気が付いて顔を上げる。
何か言いたいことがあるけれど悩んでいる、そんな表情だ。少し遠慮しがちだと知っていたから真の前で名前は手を振る。


「わっ!?」
「どうしたの、遊木くん?」
「いや……名前ちゃんって、その……何で僕だけ遊木くんって呼ぶのかなぁって。その、深い意味は無いよ!?でも、氷鷹君とか明星君を下の名前で呼んでるし」
「あぁ、あとは衣更も下の名前で呼ばれているな」
「やっぱり僕だけだったんだ!?いいなぁ、衣更君は同じクラスだし、氷鷹君は同じ部活だし……仁兎先輩に会う時に偶に放送委員に来てくれるけど……」
「えっと、タイミング失くしちゃってたというか……最初の頃は遊木君と目が合うのも時間かかっちゃったし」
「ごめんねっ、僕、あんまり女の人に慣れてないからさ……こんなんだから名前ちゃんに気を遣わせて……」
「それじゃあ私は何て呼ぼうかな。……ゆうき君……ん?あれ?もしかして、ゆうくんって誰かに呼ばれてる?」


ゆうき君とゆっくり呼んだ所でふと頭を掠めた呼び名をぽろっと零すと、真は苦い顔に変わる。その呼び名は一体何時聞いたのだろうと思い出した瞬間に入って来て間もなく敵意を向けてきた先輩の顔を思い出して名前の表情も固まる。
『ゆうくんと仲よくしてる』と因縁を付けられた意味がその時は分からなかったけれど、彼の事だったなら辻褄が合う。いや、でもどうして彼と親しくしていることを彼に文句を言われなければならなかったのだろうか。


「どこでそれを聞いたの?それ、多分泉さんだよ……」
「……ああっ、あの人の名前……!」
「三年生の瀬名泉さん。ちょっと面倒くさい人でね。昔から何かと僕にちょっかい出してきて、人気モデルをしてた人なんだけど。もしかして、名前ちゃんも絡まれたの!?」
「絡まれたというか……。敵意を、向けられたというか」
「だが、瀬名先輩は確かお前が親しくしているやつと同じユニットの筈だぞ」
「え。……だ、だれと?」
「鳴上君だよ。泉さんは強豪ユニット、Knightsの暫定リーダーなんだよ」
「……」


Knightsーーあまりにも聞き覚えのあるユニット名に開いた口が塞がらなかった。そして同時に思ったのが自分が親しくしている人たちが所属しているユニットだが、彼がリーダーとなるとプロデュースすることなんてとても無理だということだ。
嵐ちゃんに、凛月くんに、司くんーーKnightsは基本的に個人主義で互いのプライベートにはあまり干渉しないから他のメンバーについて自ら話すこともそれ程なかった。だから現在リーダーをしている人物の話を聞く機会が無かったのだ。

その日の放課後、個人レッスンを予定していたのもあり、練習室へ向かうと練習着に着替えた司が待っていた。
彼は丁寧に挨拶をするが、名前の優れない表情に何かあったのだろうかと疑問符を浮かべる。


「どうかしましたか、お姉さま?」
「えーっと、司くん。つかぬ事をお聞きするけど、もしかしてKnightsの暫定リーダーって瀬名泉って人じゃ」


その名前が名前の口から出た瞬間に、司は事態を察して焦りそうになる。彼女は突っかかって来た"怖い先輩"がKnightsに所属している暫定リーダーであることを知ってしまったのだ。
口は悪いし皮肉屋で後輩をいびることが趣味だと言っているけれど、素直でないという面の方が強いので悪い人ではないのだ。


「えぇ、Leaderが不在の今は瀬名先輩が。現在のKnightsのメンバーは鳴上先輩、凛月先輩、瀬名先輩と私です。ですので、是非ともいずれ我々のUnitをお姉さまに、」
「こ、個人レッスン頑張ろっか」
「あからさまに目を逸らさないでくださいお姉さま!瀬名先輩は話せば分かって頂けますから!諦めないでください!私の為にもお願い致します!」
「いやいやだって真くんと友達なのばれてるからね!?自ら火に油は注げないってば!」
「お姉さまのstageを見て頂ければ瀬名先輩も変わるかもしれませんから」
「……どうかな。反応が前の学科の人に、似てるから」
「ぁ……すみません。私の感情を押し付けるばかりで。お姉さまにとっては辛い経験だったことを失念してしまっていました」
「……ううん、私も自分の経験で勝手に人見知りしてる所もあったから。ま、まず、知り合う所から始めようかな……」


真と親しくしている時点で睨まれるかもしれないけれど、と苦笑いを零す。不思議と今知り合っている三年生はなかなか個性が強い人ばかりだった。それもあってなずなが常識人に映るのだ。
プロデューサーという立場は脚本家や演出家と同じで人の好き嫌いで決めるべきではない。それは分かっているのだが、課題は山積みだ。

司もレッスンを重ねるうちに体力が付いて来たようで、動きのキレもよくなってきたのは練習を見ていた名前にもよく分かっていた。注意をされてから修正をしたが、練習メニューはハード過ぎないとはいえ、あまり手は抜いていないものだ。それでも付いて来てくれるのが名前にとっては非常に嬉しいことだった。
真面目な彼の事だから頑張ってしまうものだと分かっているから、最近は司が無茶をし過ぎないかと気を付けて休憩を入れたりしている。ダンスの練習が終わり、司は鞄に入れていたタオルを取り出そうとしたのだが、しまったと肩を竦めて溜息を吐いた。


「あぁ、私としたことが。towelを忘れて来てしまったようですね……」
「忘れて来たの?あったあった、はい、これどうぞ」
「お姉さまの物を使わせてもらうなんて申し訳ありません」
「ううん、いいの。私は今日タオルを使うような運動してないし。汗が渇くと冷えるし使って」
「それでは、ありがたく使わせて頂きますね。cleaningをしてお返しいたしますので!」
「あはは、たったタオル一枚だしそこまでしなくていいよ?むしろ私が持って帰ってそのまま洗濯しても……」
「騎士としてその様なことを貸して下さったお姉さまにさせる訳にはいきません!」


ーー本当に礼儀正しいというか、タオルが凄く綺麗になって帰って来そうだ。

個人レッスンがあった翌日。Knightsは珍しく集まってレッスンをしていた。個人主義と言えども全く合わせる練習をしないわけにはいかない。変わらず高いパフォーマンスを出来るようにするーーそれは変わらないのだが、泉も変化を感じ取ったのか休憩中に嵐に問いかける。


「なんかさぁ、かさくん最近体力付いた?前は途中でパフォーマンスが落ちたりしてたのに、ちょっとはマシになったんじゃない?」
「ウフフ、特訓が効いたのかしら?」
「特訓?なぁに、個人レッスンでもアンタがしてあげたわけ?ちょっと珍し過ぎるんじゃない?」
「あーちがうちがう。ナッちゃんじゃないよ。名前」
「名前?誰それ」
「泉ちゃんがガン飛ばしたっていうこの学科に混ざって授業受けてる女の子よ」


女の子と聞いて泉は思い出す。Trickstar及び、遊木真と楽しそうに話をしている何故かアイドル科に混ざっている女子生徒だ。
所詮は新米プロデューサーで彼女の力を必要としているのも新米ユニットや弱小ユニットだろうと思っていたのだが、意外とKnights内のメンバーが交流をしていることが意外だった。


「あの子はアイドルのプロデュースに関しては新米だけど、演劇科の異端児……いえ、奇才だったみたいよ?それに今度S2のステージを初めて担当するそうよ。というより、どうして名前ちゃんを知ってたの?」
「なずにゃんが面倒見てるらしいし。俺としてはゆうくんの回りうろついて邪魔なんだよねぇ」
「うーん、あの子も委縮する訳ね。ま、今のとこ面倒見てもらってるのは司ちゃんだけだけど、アタシ達にとってプラスに働いてるのは確かね」
「なに、その女子に肩持ってんの?」
「あら、アタシは妹みたいに可愛がってるんだもの。アイドルのプロデュースに関してもそうだけど本当に一生懸命よ。時々プロ根性で容赦なくしごきに来るみたいだけど」


嵐の言葉にふーんと興味無さそうな反応をする泉だが、彼がそういう反応をすると分かっていたから嵐も特にそれ以上何を言うことも無かった。
その話を聞きながら端っこで眠そうに休憩ついでに横になっていた凛月は欠伸をして携帯を取り出す。


「ふぁぁ……連絡して名前に炭酸買って来てもらおっかなぁ……ねむ……」
「また自分で買ってきなさいって言われちゃうわよぉ?」
「でも何だかんだ買って来てくれるしねぇ。地面で寝てると枕代わりにタオルくれるし。汚れるからって押し付けてくるんだよね。雑なんだかお節介なんだか……おじいちゃんなんだからもっと優しく扱ってくれないと」
「凛月先輩はそんな理由でtowelを借りていたのですか……!?」
「あれ、ス〜ちゃん。って、その手に持ってるの名前のじゃん。丁度いいや、俺枕欲しいしそれちょーだい」
「私がお姉さまにお返しするのです!私でも漸く初めて貸していただいたのに、凛月先輩がそんな理由で頻繁に借りていたなんて……それに汗が付くじゃないですか」
「ケチだなぁ〜というか拗ねてる?」


手を伸ばしてタオルを奪おうとする凛月に、司は拗ねた様子でタオルを取られまいと上に持ち上げる。そんな様子に泉は面白くないと立ち上がり、練習再開の為に身体を伸ばすが、泉の反応を見た嵐はくすくすと笑う。

「名前ちゃんが信頼に値するかどうかーー興味があるならDVDを見る?演劇科でのものと、B1のステージ……Trickstarの方は少し取り方が雑だし音声も歓声が混ざってるけど」

Trickstarと聞いて、そこに真が映っている事を瞬時に判断した泉は新入生には興味ないけど、と前提をした上で受け取るだけ受け取ると答えた。これで彼女を認めるとは当然思っていないが、敵意を減らすきっかけになればいいだろう。