coral
- ナノ -

電波に乗せた告白

人の噂も七十五日という言葉があるように、そんなに時間が経たなくても噂は自然と薄れていくと当然のように思っていた。
要は、あのバトルは私の中で自己満足で終わっていた所があって、その余波だとかを全く考えていなかった。あったとしてもバトルファクトリーに来る人が増える位だとか、その程度しか想像していなかった。


「あー火薬臭い」
「一日で二回も出番があるなんて私が来てから初めて?」
「楽しーから別にいーんですけどね。むしろ一日二回はあってほしいし」
「今じゃ一日一回あるかも微妙だからね」


保管庫の中の棚にモンスターボールを戻していると、後ろで待っていたネジキが服に染み付いた火薬の匂いに眉をしかめる。けれど久々にファクトリーヘッドとして挑戦者と満足のいくバトルが出来たのか、その横顔は楽しそうだった。
色んな表情を見てきたけれど、ネジキはバトルをしている時が一番いい顔をしている。フロンティアブレーンのバトル以外はそれ程興味を示さないけれど、やはり彼もバトルが好きなのだろう。

モンスターボールをしまい終えて立ち上がった時、ポケットの中に入っていたポケギアの着信音が鳴った。取り出して表示画面を見ると、そこにあった名前は予想とは違ってヒビキ君の名前が表示されていた。
目線でネジキに出てもいいかと尋ねると、直ぐに察したのかどーぞ、と声を掛けられる。


「もしもし、ヒビキ君?」
『あっ、アズサさん!』
「え、どうしたの、そんな慌てて……」
『急ぎの用事があるんですけど!コガネシティに今から来れませんか…!?』


突然の事に驚いて困惑しながらネジキを見ると、ネジキも口元に手を当てて悩んでいるようだった。一応仕事中にはなるけれど、外出は基本自由だ。勿論、ファクトリーヘッドの許可がいるけれど。


「何か、本当に困ってるみたいだし行って来ていいですよ。実際、仕事もそんなにないですし」
「ありがとう、ネジキ。あ、ヒビキ君聞こえてる?行けるけど、何処に行けばいい?」
『良かった……!ラジオ塔前で集合でいいですか?一番分かりやすいと思うので』


分かった、と返事をすると余程急いでいたのか、一体何の用事だったのか話すこともなくヒビキ君は通話を切ってしまった。あんなに急いでるなんて大事な用事があってもう時間も迫っているんだろうけど…何で私が呼ばれたんだろう?


「とゆーか、間に合う?」
「フライゴン持ってるし、ラジオ塔まで飛んでいくよ」
「あと、ポケギア出れるようにしといて下さいよ。僕が居ない間にまた停電に巻き込まれるとか冗談にならないから」
「う……でも、一応今回はエレキブルも居るし、大丈夫だって!」
「そーだといいけどなー」


半信半疑といった様子で呆れているネジキに、楽観的にも大丈夫だと繰り返す。廊下を抜けてスタッフルームを出る。行って来ますと声を掛けると呆れながらも手を振り返してくれる。毎度ながら思うけれど、ネジキがスタッフルームの外に顔を出すと歓声が上がるのに、本人は聞こえていないのか直ぐに戻るんだよね。

バトルファクトリーを出て、フライゴンを取り出すとその背に乗ってコガネシティのラジオ塔まで行ってくれるように指示をすると、フライゴンは翼を広げて宙に舞い上がる。
……ヒビキ君、何の用事だったんだろう。

コガネシティのラジオ塔近くの上空に着き、フライゴンが下降するにつれて人の顔もはっきり見えるようになって、ヒビキ君がラジオ塔前に待っているのが見えた。


「おーい、ヒビキくーん!」
「上……?アズサさん!」


まさか上空から来るとは思わなかったのかヒビキ君は吃驚した様子で見上げてくる。着可能な距離まで来た所でフライゴンから飛び降りて、お礼を言いながらモンスターボールに戻す。


「お待たせヒビキ君。それにしてもどうしたの?急に慌てて…」
「じゃあ行きましょう!」
「え!?」


じゃあ、ってなにが。それを聞く間も無くヒビキ君に手を掴まれてそのままラジオ塔の中に入っていく。
状況が分からなくてポカンとしている間にも階段を上っていく。私が以前ラジオ塔で働いていたし、局長と会わせて欲しいとか?でもヒビキ君にはバトルフロンティアで働いてることしか言っていないから知らないはずだと思うんだけど。


「あーヒビキ君来ましたー!それにアズサちゃん!さっすが、連れて来てくれたんだ!」
「え……?あ、アオイちゃん?何で……」
「何言ってるの、今から最近話題のトレーナーにインタビューでしょ?」
「何それ聞いてない聞いてない聞いてない!」
「本当はシルバーも巻き込もうとしたんですけど逃げられて。そしたら局長がこの間のバトルで話題沸騰だしアズサさんを呼んだらどうか、って提案してくれたんです」


どこまでもあの局長はどう見ても空回ってる提案をする人だ。結局は騙されたわけだけどヒビキ君を責めるのは違うような気がして異議を唱えることも出来なかった。急いでたのって、ラジオの放送時間があったからなんだ。
事情も知らずに来たとはいえ、ネジキに申し訳なくて後でどう言い訳しようかな、なんて考えながらアオイちゃんに背中を押されるまま椅子に座った。


アズサが出て行ってから一時間も経たないうち。

プルル、とフロアの電話がなったのに気が付いて受話器を取ると、そこから聞こえてきたのはカトレアの声だったから流石に驚いて受話器を落としそうになった。
コクランからの連絡が入るのも珍しいけれど、カトレアが誰かに連絡を入れるなんて考えられなかった。アズサと仲良くなったみたいだし、アズサと話す為にかけてきたなら別だろうけど。


「残念ですが、アズサなら今居ませんよー」
『ラジオを聞いているかしら、ファクトリーヘッド』
「ラジオ?何で……」
『アズサが出ているわ』
「……どーゆーことですか、それ」


受話器から耳を外してパソコンの中にあるラジオを付けてチャンネルを回すとある一つのチャンネルで聞き覚えのする声が聞こえてきて思わず頭を押さえた。また局長に巻き込まれでもしたのだろうと安易に予想付く。
今回は別に事件と言うわけじゃないけれど、どうしてこうも振り回されやすいのだろうか。運もあるけれど、彼女の人徳も過度なお節介を呼び込むのだろうけど。

「また厄介ごとに巻き込まれないといいけどなー……」



無理やり席に座らされてから十分も経たない内にアオイちゃんの持つバラエティ番組で最近話題のトレーナーに話を聞く、という今回の収録が始まる。これがリアルタイムで流れているとなると失言をしないかどうか心配。
それに、なにせ急に決まった話だから後日マツバやミナキが聞いていたら問いただされるだろうし、何よりネジキ。ヒビキ君に呼ばれて仕事中に来たけれど、何だか遊んでいるみたいで罪悪感を覚える。


「それじゃあ次はアズサちゃんにお話を聞こうと思います!」
「はーい……」
「もう、元気ないなぁ。アズサちゃんは前、ラジオ塔で働いてたんだけど今はバトルフロンティアで働いてるんだよね!この間のバトル、見てくれた人も多いと思うけどどうだった?」
「あれは一人じゃ勝てなかったから……でも、凄く楽しかったよ。見てくれた人にも伝わってたらいいなって思うけど」
「俺も見てましたよ。アズサさんがバトルしてるとこ見たこと無かったから興奮しました!」
「だよねー、ラジオ塔に居た時はアズサちゃん、全然トレーナーらしいことしてなかったというか、私もシンオウ大会優勝者なんてこの間初めて知ったんだよ!?」


段々、ヒビキ君とアオイちゃんの語り合いに熱が篭ってきて、声を掛けて止めようと思うのに全く耳に入っていないのか止まる気配がない。これ、ラジオで聞いてる人は誤解するんだろうなぁ、なんて考えると冷や汗が流れてくる。
すると後ろからA4サイズの紙を持っているスタッフがブースの中に入って来て、アオイちゃんにその紙を渡す。あれって、送られてきたコメントを載せてる紙だったっけ。手に取ったアオイちゃんはそれを流し読みするとにたりと笑って私を見上げる。


「そうそう、アズサちゃんとバトルしてみたいなんてお便りも届いてるんだよ?」
「っ!?ムリムリ!私は一応バトルファクトリーの事務だし、この間は余程特別だったというか……」
「ふむ、なかなか頑固だなぁ。アズサちゃんって見た目に似合わずエレキブルがパートナーなんだっけ。こう、女の子ならグレイシア!とか、ピカチュウ!とかないの?」
「うーん、初めてゲットしてもらったのがエレキッドだったから可愛く見えるんだよね。でもレンタルポケモンも皆可愛いんだよねーそれぞれの能力に合わせた力を伸ばし方は流石ファクトリーヘッド、って所かな」
「えーっと、ラジオの前の少年達、惚気話にめげるんじゃないぞ!」


先程までは自分の話で憂鬱そうな顔をしていたのに、ファクトリーヘッドであるネジキの話をする時は非常に嬉しそうな顔をして、幸せそうに語るから掘り下げて茶化す気にもなれなかった。ただでさえこの間のバトル終了後の二人を見たらどうみてもそういう関係だとしか思えないのに。
でも取り合えず。ラジオで聞いてる人には惚気話をしているように聞こえるだろうと考えてアオイは言ったのだがアズサは何それ、と冗談だと思っているのか笑い飛ばしている。


「あれ、この質問、結構際どいですね」
「なになにヒビキ君。……おーっと、これを聞き逃しちゃう所だった!アズサちゃん、ズバリ質問です!」
「なに?」
「好きな人は居ますか?」


アオイちゃんの口から出た予想外の動揺するには十分な質問にピシリ、と一瞬固まったのが分かった。それから頭に血が上って沸騰したように熱くなるのを感じて誤魔化すように首を振りながら否定する。


「っ!?な、何その質問!?いい居ないよ?居ないからね!アオイちゃん次いこう、次ヒビキ君!」
「はいはーい、ものすっごい分かり易い回答ありがとうございましたー!」


まるで新しいいじり甲斐のある標的を見つけた、みたいな顔をして笑みを浮べながら意気揚々に次の質問を始めるアオイちゃんが恐ろしくて逃げ出したくなった。無論、出入り口はスタッフによって塞がれていて逃げ出すなんて到底無理な話なのだが。


――ガタン、と大きな音を立てて地面に落ちたのはそれまで手に持っていたはずの機械だった。

今の、ラジオは一体なんだったんだろう。夢でもない。幻聴でもない。紛れもなく事実だ。いやでも、アズサは直接的な答えを出していないし、イエスともノーとも取れる答えだった。
でもこれがもし本当に居たとして、その相手は?幼馴染でエンジュジムのジムリーダーであるマツバさん?それともシンオウで出会った仲間か。彼女の中で仲のいい男性は全員友人だったから、もしその中で一人だけ好きな人がいたのだとしたら該当する人があまりに多過ぎる。

とはいえ、帰って来た本人に確認するなんて真似はとてもじゃないが僕には不可能だ。
一人悶々と考え込みながら頭を抱えていると、再び電話が掛かってきてくらくらとする頭を押さえて受話器を手に取ると、先程ラジオの存在を教えるために掛けて来た相手だった。


「なんですか、カトレア。今色々と考えてるんで」
『貴方でも動揺するのね。信じられないわ』
「……今の話を聞いて、僕が動揺しない人間とでも思ってたんですか?」
『少なくともコクランはそう思っていないわ。帰って来たらアズサによろしく言って頂戴』


それだけ言うとさっさと切ってしまったカトレアに小さく舌打ちをしながらも受話器を置いてそのままソファに雪崩れ込むように転がる。帰って来たときどう声を掛けるべきか悩んでいる所だというのに、それを分かって茶化してるみたいだから悪質だよなーあのお嬢様は。
聞いてなかったふりをするか、はたまた勘付かれないように遠まわしに言ってみるか。あーあ、暫く頭を悩ませることになりそうだ。

先程の事は気にしない、聞かなかったことにしよう。

そう何度も自己暗示をかけるのに気になって仕方が無いのは男の性と言うもので。あれから気を紛らわそうとパソコンを触ったり備品を弄ったりしていたけれど、殆ど無意味で、手に付かなかった。

ぼうっと掛け時計を見て、そろそろラジオが終わってから一時間が経つなー、なんて思っていたらガチャ、とスタッフルーム出入り口が空いた音がして、反射的に肩を揺らしてしまった。
そろりと廊下を覗き込むと予想通り、アズサが居たのだが。その顔は疲れきっているように見えたから驚いた。


「どーしたんですか、行きと全然違うんですけど」
「なんか精神的に疲れて……」


溜息を吐きながらソファに座ったアズサは天井を見上げてもう一つ大きな溜息を付いた。……結構、重症だなー。

ラジオ塔で働いていたし、会話の雰囲気からしてあの番組のパーソナリティーであるアオイと知り合いだったのだろう。だからこそなのか、結構踏み込まれた質問も多かったみたいだし、ラジオは音声だけしか流れないけれど放送中終始苦い顔をしていたのが目に浮かぶ。

どうだったんですか、と咄嗟に聞こうとしたが声にする前にごくりと呑み込んだ。
ラジオの内容について尋ねると僕が聞いていたことになる。いや、聞いていたことに間違いは無いんだけど、例の質問について触れる勇気がない。なにせそんな自信はこれっぽっちもないのだから。


「結局、何の用事だったんですかー?」
「ヒビキ君ともう一人が出る筈だったんだけど断られたらしくて、局長がそれなら私でいいだろう、ってヒビキ君唆して電話してきたみたいで」
「へぇ、じゃあラジオに出たってこと」
「えっと……ま、まぁ、そういうことになります、ね」


視線を泳がせながら非常に言い辛そうに答えた辺り、深く聞かれたくないのだろう。でも何でそんなに聞いてほしくない?答えの出ない疑問は堂々巡りするばかりで苛々してくる。
僕がこんな風に頭を悩ませるのも分かっていた上で恐らく、カトレアはあんな電話をわざわざ寄越してきたのだろうと思うと如何に自分が単純か思い知らされている気分になる。


「でも、一つだけ楽しかったことあったかな」
「?なんですか?」
「収録の後に届いたメッセージを一通り見せてもらったんだけど、結構この間のバトルのこととか、バトルファクトリーの感想もあって。ネジキへのファンレターっぽいのも届いたから何だか嬉しくて!」
「……、はぁ、一応言っておきますけど、僕は」
「そういうのに興味ない、でしょ?そう言うと思って貰って来なかったんだけどね」


それでも多くのトレーナーの上に立つフロンティアブレーンとして尊敬され、多くの人の目標になっていると考えると嬉しい、と語りながらやはり僕の事なのに自分の事以上に喜ぶアズサを見ていると、先程まで頭を占めていた筈の悩みはいつの間にか消えていた。

例えそれが恋愛感情であろうとなかろうと、ある意味愛されているんだろう。
それが友人としてじゃなかったらいいんだけど、なんて無いものねだりをしたくなる自分が居るのは誤魔化しようがないが、それでも愛おしく思える。


「とゆーか、お人好し過ぎるよなー。自分の事じゃ喜ばないのに人の事だと喜ぶって」
「とは言っても私だって誰に対してもそうって訳じゃないってば。ネジキだからであって……え、ネジキ?」
「な、んでもないです」


あーもう何でそういうこと言うかな、アズサは。本人は特に意識して言っていなくても僕には嬉し過ぎる言葉だ。
口元を手で押さえてふい、と顔を逸らして気持ちを落ち着かせるように息を吐く。はぐらかしたのを気にしてか、戸惑いがちなアズサの視線がちらちらと向けられている。別に怒ってる訳じゃないんだけどなー。むしろ聞いた瞬間、衝動的に抱きしめたくなる程に嬉しかった。こんな事で一々機嫌が良くなる自分が恥ずかしくもあるけど。

デスクに備え付けられている椅子から腰を上げて、デスクの上に置いてあったポットからお茶をコップに注いでそれをアズサに渡すと、顔に浮かんでいた不安の色が薄れる。向かいに座って自分もコップに口を付けて一口飲み、アズサが帰って来るまで言おうか悩んでいた事を静かに切り出した。


「……アズサは、」
「なに?」
「アズサはマツバさんのこと、好きですか?」


その質問を聞いた瞬間、えっ、と素っ頓狂な声を上げ、目を丸くして長い瞬きを繰り返す。
自分の中で質問の意味を噛み砕いているのか、口元に手を当てて悩んでいる。その答えが返って来ないまでの時間が酷く長く感じられて、耳元に煩い位に脈打つ音が聞こえてくる。


「そりゃあ、幼馴染だし勿論好きだよ。少し歳は離れてるけど対等に扱ってくれるというか……マツバ、優しいし」
「……」
「友達というか保護者というか…むしろ兄妹なのかな?でもどうして?」
「いや、何となく」


アズサの的確だろう答えに、胸の奥で閊えてたものがすっと消化されていくのが分かった。

二人の関係なんて本来確認するまでも無い程に一目瞭然なのに。それでも確認したくなるのはやはり不安が取り纏っているからだ。マツバさんの立ち位置という名の関係はアズサの中で確立している。家族みたいなものなのだろう。一度話した事があるから何となく分かるけれどマツバさんにとってもアズサは世話の焼ける友達で妹、みたいな印象を受けたし。
それに対して僕はあまりに不安定だった。更には友達という枠組みを壊そうと目論んでいるんだからこの先がどう転ぶのかが分からない。上司と部下、そして友人としてはこれ以上に無いほどの信頼関係を築いているのに、それは贅沢な望みかも知れないが。


「……ネジキは、居ないの?」
「何ですか?」
「えっと、シンオウに居た時の幼馴染でも、す、きな人でも……」
「……まぁ、アズサが知ってる通りの生活をしてましたし、想像どーりだと思うけど」


むしろアズサがバトルファクトリーに来たあの日まで、変わるつもりなんて無かった。
誰かの干渉を受けない方が気が楽だったし、ひとつの事に熱中出来る環境が整うとさえ思っていたから。それはシンオウに居た時の方が酷かったように思える。
フロンティアブレーンになったばかりの時は自分の力を着実に付けていくことで精一杯で余裕が無かったし、クロツグにも負けっ放しだったからその分自室に篭ることも多くて。食事やら睡眠時間の不規則さはアズサも知っての通り、だろう。だから友人と呼べる人が居たかも怪しい。程よく仲がいいコクラン辺りも結構歳が離れているし、同年代は皆無だ。

コップの中に残っていたお茶を飲み干し、ちらりとアズサを覗き見ると安心したような表情を見せていたから、つい気になってぴたりと動きを止めてしまう。なんで、そんな顔をしてるんだろう。
普段なら「予想はしてたけどそれでいいのかなぁ」なんて呆れられながらも窘められるんだけど。


「もしかして、安心した?」
「へっ!?い、いや、別にそういうわけじゃないんだけど…!」
「へー、アズサもそう思ってたなんて知らなかったなー」
「だから違うって!というか、も?」


駄目元で尋ねてみたらこの反応。
焦ったように必死に否定する辺りが肯定にしか聞こえなくて、揚げ足を取るようにからかうと顔を赤く染めながら怒鳴ってくる姿を見て自然と笑みが零れる。うそが下手と言うか、そういう所がかわいーんだけど。
これが僕に異性の親しい幼馴染が居ることを心配した、とかなら期待したい所だけど、勘違いし過ぎるとバカを見ることになるのはもう分かりきっている。でも、妬いてくれたなら嬉しい話だ。

疑問符を浮べるアズサにどう答えようかと悩んでいると、丁度その時フロンティアブレーンの出番を知らせるアナウンスが流れて、テーブルに空になったコップを置いてソファから腰を持ち上げる。


「ま、僕はアズサがバトルファクトリーに半日以上居るってだけでも十分なんですけどね」
「それどういう意味?あ、ちょっとネジキ!」
「ほら、行きますよー」


――それだけ、誰よりも一緒に居る時間が長いということなのだから。

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