coral
- ナノ -

休み時間の白黒ゲーム

友好的な性格も合って男性には好かれやすいタイプだというのは分かっていた。それが恋愛感情を含んでいようといなかろうと、アズサを気に入る人は多い。彼女はスイッチが入って手に負えない事をしない限りこれ以上にない位付き合い易い人種だろう。
だからこそ、好意を寄せられたとしてもおかしくない話で。


「ネジキって一応ダブルバトルもするよね?」
「あー、まぁ僕が二匹出す形でだけど。それがどーしたんですか?あ、隅ゲット」
「あぁ!だめだめ、えげつない!待った待った!」
「もうそれ何回も聞きました」


白いオセロをボードの隅に置くと間に置かれていた黒が全て白に変わっていく。待った、と焦りながらソファを立ち上がったアズサは白く変わっていく列に頭を抱えながら項垂れる。何かそんな姿も可愛くてつい手を抜くのを忘れる。
外は連日多くの人が来てるのに依然僕の出番は増えないままで。ただパソコンに向ってるのも暇だったからアズサとソファに座ってオセロをやっていた。やっぱりここって結構自由だよなー。


「素人に優しくしようよ……」
「一応優しくしてるつもりだけどなー。それで、さっきの質問って?」
「それなんだけど、一週間前からちょっと困ったことがあって」
「それってまた、」


とんでもない厄介事を引き寄せようとしているんじゃないかと一抹の不安が過ぎり、ネジキが苦い顔になったのを分かって、アズサは違うと首を横に振って否定する。
つい二週間ほど前にコガネシティでとんでもない目に合ったのにこんなハイペースで巻き込まれるなんて身が持たない。


「家に帰る前にいっつもポケモンセンター寄って行くんだけど、最近やたらと同じ人から一緒にダブルバトルやろうって誘われるんだよね」
「……それ、ちょっと詳しく話聞かせてください」
「え?あぁうん、同じ位の年の男の子にバトルタワーに誘われて。トレーナー引退したって言うんだけどあのエレキブル強そうだったからーって押しに押されてる感じ」


第二次被害がまだ続いてたなんて。
いや、それを言うと公開バトル以来バトルファクトリーに来る人の数は元に戻る所か増えてる位だけど。アズサへの影響は僕にとってコガネシティでの二回の事件以上に面倒だ。強いパートナーをただ求めているようには聞こえなくて苛々してくる。


「出る気ないけど……」
「なんなら僕が言いましょーか?」
「い、いい!ネジキがポケモンセンターに来たらバトルファクトリーに帰れなくなるよ!」
「……むー、なら、いっそ僕とダブルバトル組むとか」
「……え?」


名案かもしれない、と頷いたネジキに一瞬固まり、その言葉を理解するのに間が空いた。オセロを置いて戻そうとしていた手を止めてネジキを見上げれば、アズサが驚いていることに驚いたのか目を丸くしている。


「どういうこと?」
「だからダブルバトルで挑戦しに来た人が居る時だけアズサも、」


その言葉を言い終わる前に顔を青くしたアズサが首を横に勢いよく振りながら、無理無理と呪文を唱えるように拒否する。あまりに否定するから面白くなくて白いオセロを所謂えげつない所においてアズサの黒を奪っていく。


「あぁ白くなってく……!普通に考えて無理だよ、だってそこのリーダーを倒すのを目指してるんだよ?ファクトリーヘッドが出てくるから嬉しいけどネジキに及びもしないトレーナーが出てきても肩落とすだけだよ」
「アズサって悲観的?」
「いや、普通に考えてそうだからね!?」
「なら別の所に挑戦する形でいっか。フロンティアブレーンといってもそんなに行動の規制されてるわけじゃないし」
「……別の所で挑戦って、まさか」


同じフロンティアブレーンの施設に乗り込む気満々のネジキにさっと血の気が引いていくと同時に混乱して何が何だか分からなかった。
だって大前提として言っておくけどネジキは外に出るのが好きじゃない。確かに外出の機会は増えてきたけど、バトルファクトリーの建物自体を自ら進んで出ようとはしない。なのに、珍しくやる気を出している。
……挑戦者の九割はシングルバトルで、ネジキの元まで勝ち上がるのは何時もシングルの挑戦者。偶には、ダブルバトルもしたくなるのかな。


「ダリアのとこにでも声かけておくんで、数日後になると思うけど」
「ネジキも偶にはダブルバトルやりたかったんだね。よし、私じゃ役不足になるかもしれないけど精一杯頑張るよ」
「……」


出た何時もの勘違い。
違う方向にやる気の出てしまったアズサにこっそり溜息を付く。別にただのダブルバトルをやりたかった訳じゃない。僕にとって一人でやるバトルにシングルもダブルもそれ程変わらないからだ。
アズサとやるというのが大事なのであって、それ以外に理由はない。そしてどうせやるなら公開バトル位人の目に付く場所でやってファクトリーヘッドのバトルではなくて、アズサとのダブルバトルをトレーナー達に見せ付けてやりたいと思う自分が居るんだからやっぱり自分は欲望に忠実な人間なんだろう。


「でも、トレーナー引退して暫く経つからなぁ……本当に足引っ張らなければいいんだけど」
「……それのどこが何時トレーナー引退したんですか。旅しないトレーナーになっただけだと思うけどなー」
「う……気持ちの問題だよ。でも本当にいいの?」
「僕の隣はアズサじゃないとダメなんですよ」
「!、あ、の……ありがとう、すごく、嬉しい」


照れくさそうにはにかむアズサを見て、口元を手で押さえて思わず視線を逸らす。この意識されてるんだかされてないんだかよく分からない反応は何時まで経っても変わらないし、僕としても慣れない。
いやもう流石にアズサに期待し過ぎると馬鹿を見るって分かってるけど。頬に僅かに帯びた熱も収まり、アズサに視線を戻すと視線が泳いでいてどこか挙動不審だったから驚いた。


「ネジキって、言ってること、結構無意識なの?」
「いや、言いたいことそのまま言ってるだけだけど。とゆーか、コガネシティの時も言った……」


僕にはアズサさえ居ればいいって。
それを口に出す前にアズサも思い出したのか、見る見るうちに顔が赤くなっていく。……え、赤くなっていくって。
驚いてばっと再びアズサを見ると、表情こそは隠すように俯いているからよく見えないけれど、耳が僅かに熱を帯びているのに気が付いて思考が停止した。打ってもあんなに響かなかったアズサが、動揺してる?これって少しは自惚れてもいいんだろうか。


「ネ、ネジキ、もう一戦やろう!泣きの一回!今度は私が白でやるよ」
「あーはいはいそーですよね。そうだろーと思ったよ。それに色変えた所で変わんないから」


顔をばっと上げたかと思えばこれ。相変わらずとんでもないフラグクラッシャーだ。
まぁでもこの反応に頭を抱える半分、慣れてしまった何時も通りの会話に心満たされてる所もあるからこの空気に甘んじている僕も居るんだけど。

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