coral
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comodo baggiano

久々のシンオウ地方は仕事で行ったのだけど、旅をしていた間に知り合った人と会う事が出来たしまた良い思い出が出来た。ナギサシティから帰るまでカメラに収めていた分を現像し、アルバムに入れた写真を見返しながら笑みを零す。
デンジさんとオーバさんも写っている喫茶店のマスターに撮って貰った写真、ちゃんと二人に届いてるかな。


「アズサ、何見て……あぁ、もう現像したんですか」
「そうそう、この間撮ったやつ!思いついたのが遅かったから最後の二日分しか無いけどね」


港で祭りをしていたナギサシティで撮った写真とジョウトに帰る前に立ち寄ったトバリシティでの写真。シンオウへ行く前にデジタルカメラを持参して、初日から記録を残していればよかったのだけど今更仕方が無い。
ジュンが知っていたら何で俺も撮らないんだよ、と憤慨しそうだ。でもジュンと会った時は持っていなかったし、何より彼が凄まじい勢いでサバイバルエリアへ行ってしまったのだから。

あ、そういえば彼はクロツグさんの息子だったんだっけ。そんな事をぼんやりと考えていると、ネジキに肩を叩かれる。振り返ると彼は不満そうな顔をしていて、非常に言い辛そうに口を開いた。


「アズサ、クロツグに会いに行ってもらえますか」
「え?クロツグさん?」
「今日の朝、フロンティアブレーンの会議がある事が伝えられたんですよー」
「……本人達に伝えられたならクロツグさんも知ってるんじゃない?」
「あの人がパソコンのメールを見る訳が無いでしょう」


何時も思うけれど、ネジキのクロツグへの態度は非常に厳しい。言葉も辛辣だが、クロツグはジュンのお父さんという位だからネジキとは一回りも二回りも年が離れている。
フロンティアブレーンとしての彼は尊敬すべき所があるけれど、人としてはあまり見習いたくないとか言っていたから、彼には厳しく当たるのかな。(もう一度言うけれどネジキの方が彼よりも大分年下だ)


「僕はもう行かないといけないですし、頼んでもいーですか?」
「勿論!えっと、バトルタワーに居るんだよね?」
「まぁ、恐らくは」


ネジキの自信のない回答に苦笑いを浮かべながらも、荷物を持ってバトルファクトリーを出る。
今の時間帯、彼はフロンティアブレーンとして挑戦者を待ち受けているのだろうか。もしそうだったら、会うのは難しいかもしれない。でも待てよ、会う必要はないじゃない。バトルタワーで待機している彼に接触できるバトルタワーを担当している人にその事を話せば済む。その担当者もバトルタワー挑戦者を案内するので忙しいかもしれないが。


バトルフロンティアの中で一番挑戦者が来ると言われているだけあり、バトルタワーの中は非常に多くの人で賑わっていた。バトルファクトリーに来る人の何倍居るのだろうか。中には子供やジョーイさんなどといった人まで居るものだから驚いた。
トレーナーの時の好奇心が疼き挑戦してみたいという欲求にも駆られるが、それを振り払って受付担当者に声をかけた。


「はい、バトルタワーの挑戦でしょうか?」
「いえ、ファクトリーヘッドからクロツグさんへ伝達があり、私が代理でここへ来ました」
「そうだったんですか、……申し訳ありませんが直接ブレーンにお会いして下さいませんか?挑戦者を待ってバトルタワー控え室に居るものでして……」
「分かりました、御忙しい所をどうもすみません」


伝達を任せようと考えていたけれど、やはり受付担当者は忙しいようで手が離せないそうだ。中でバトルタワー挑戦者に対応している担当者に一人でもいいから会えるといいけど。
関係者入り口から入るように指示をされて中に入ると広めのフロアに出る。これでファクトリー以外の関係者専用通路に入るのはバトルキャッスルに次いで二回目だ。
辺りを見回してみるのだが人は居ないし、地図も無いから何処へ行けば何処に着くのさえも分からなかった。


「せめてクロツグさんの場所聞いてから来れば良かったかな……」


はぁ、と短い溜息をついていると高く短い機械音がフロアに響き渡る。音がする方向を向くと、このバトルタワーのシンボルとも言える二台のクリスタルエレベーターが丁度このフロアに着いた所だった。
中から出てきたのは係員の服を来た女性で、内心運がいいと思いつつ彼女に近づき声を掛けるともう準備は整いましたか、と尋ねられる。


「え?いや、あの、私……」
「時間がありませんので準備が出来ましたらエレベーターに乗ってください」
「うわっ、ちょっと!」


背中を押される形でエレベーターに乗り込んでしまい、弁解する間もなくシャッターが閉じられ上へ上へと昇って行く。まずい、これ絶対にまずいって。もしかしなくても挑戦者と間違えられているのだろう。

エレベーターがゆっくりと静止し、開いた扉の先にあったのは室内に広がる立派なバトルフィールド。これを目の前にして逃げるなんて事はトレーナーとしての本能が許さず、段々と気持ちが昂ってきた。


「準備は宜しいでしょうか?」
「……ちょっと一つ聞いていい?今何勝目?」
「お客様は……十四勝目となっております」


勿論私はバトルタワーに来た事が無いし、受付で登録さえもしていない。誰かの記録の続きとなってしまっているのだろう。それは申し訳ないがこちらもまた急いでいるのだ。今の記録は十四勝目だから、取り合えず六勝すればフロンティアブレーンであるクロツグに会う事が出来る。彼に勝とうが負けようが会えればいい話。


「勿論、やるからには負けないけど……悪いけどここは挑戦させてもらう!」


モンスターボールを持って出て来てよかった。アズサはボールを取り出し、にやりと笑みを浮かべる。その表情は何時もの彼女ではなく、トレーナーとしてのものだった。


フロンティアブレーン出番ですよと声を掛けられておう、と短く返事をする。
前回挑戦者とバトルしたのは三日程前で、今日始めての挑戦者だ。一体どんな子が来るのだろうと想像を膨らませつつ気合を入れなおしてクロツグはゆっくりとバトルフィールドへ向かう。
ゲートを潜り、中へ入ると待っていたのは一人の挑戦者。それは子供のようで、自分の息子と同い年位だろうか。最近の子供は凄いもんだ。


「よくここまで来た!フロンティアブレーンとして君の挑戦に全力で受けて立とう」
「貴方と全力でバトルが出来るなんて光栄です」
「そりゃあ嬉しい事を言ってくれるな!ん……?どこかで見たことあるな……いや、気のせいか……?すまない、そろそろ始めようか」
「はい!」


モンスターボールを同時に空高く投げてクロツグが出したのはドサイドン、アズサが出したのはエンペルトだった。相性だけならばお互い弱点をつける為に互角の勝負だ。クロツグのバトル自体は見たことが無いが、フロンティアブレーンがいかに強いかは傍で見ているからよく分かっている。
油断は禁物、集中を切らしたらそこで負けだ。


「エンペルト、ラスターカノン!」
「がんせきほうだ!」


ドサイドンに向かって放った攻撃は明らかに不利な筈の巨大な岩石によって相殺される。やはりタイプ相性だけで油断していてはいけない。
じしんの指示を出してきたのを聞いて避けるように指示をするとエンペルトは地面を蹴り高く飛び上がる。そのままドサイドンの真上に着き、絶好の反撃のチャンスとなった。あまごいを指示すると暗雲がフィールドを覆い、雨が降り注ぐ。


「ドサイドン、ストーンエ、」
「たきのぼり!」


クロツグの指示よりも先に技を指示するとドサイドンの足元から水柱が上がり、重たい身体を上空へ吹き飛ばす。地面に叩き付けられた時の振動がフィールドの縁に立っているこちらまで伝わってきて危うく転びそうになる。
これで一匹目を倒したかと思いきや、ドサイドンはよろよろとした足取りで立ち上がり、闘争心を更に燃やして身構えた。その様子を見ていたエンペルトは再び警戒心を強めるのだが、クロツグはモンスターボールを取り出すとドサイドンを戻す。

「流石はクロツグさんのポケモン…!あれで倒れないなんて……!」
「久々に楽しませてくれるトレーナーだ!次はこうは行かないぞ!」


クロツグが次に出したのは輝く鱗を持つ美しいポケモンとされるミロカロス。鋼も水もミロカロスには効果はそれ程無いが、それはミロカロスにとっても同じ事だ。効果は薄くても攻撃するしかない。
エンペルトのたきのぼりを指示するのだが、相手のなみのりによってかき消されてしまう。これでは一向に試合が進まないと思ったのだが、


「ミロカロス、さいみんじゅつだ」
「しまった……!」


避ける間も無くさいみんじゅつがエンペルトに当たり瞼を閉じて深い眠りへ付いてしまう。相手にとって相性が悪い間に起きなければ、交代しても結局無防備の状態を攻撃されるだけだ。耐えるしかないと思ったのもつかの間、あまごいによって威力が上がったなみのりがエンペルトを叩きつけ、場外へと叩きつけられる。

「エンペルト!」

叩き付けられたエンペルトの身体は地面に崩れ落ち、そのまま目を回していた。それは戦闘不能を意味しており、悔しいけれど先行された。やはりジュンが強いと豪語する人だ。今までバトルをしてきた中で一、二を争う位に強い。


「一切手は抜かない主義なんだ、悪いが勝たせてもらうぞ!」
「私だってまだ諦めた訳じゃありませんから……!行くよ、ムウマージ!」
「ムウマージか……このポケモン達やっぱりどこかで見たことがあるな……」
「空に向かってかみなり!」


直接ミロカロスを狙うことなくムウマージが放った雷は暗雲へ吸い込まれ、ゴロゴロという怪しい音が響き渡る。暗雲の隙間からは雷が走っているのが見え、どこから落ちても分からない状態だ。
あまごいを利用したなみのりがムウマージを襲い、シャドーボールを指示するのだが全ては弾き返せず波に飲み込まれる。波が去った後、ふらりと立ち上がったムウマージが劣勢になったかと思ったその時、眩い光が視界を覆う。

暗雲によって成長した雷がミロカロスを直撃し、ゆっくりと地面へ落ちる。これで二対二、イーブンになった。


「あまごいをしてくれた事に感謝していたが仇になったな。次行くぞ!ドサイドン!」
「……さっきのドサイドン……」


ボールから出てきたのは先程エンペルトと戦っていたドサイドン。向こうも体力は少ないが、こちらもそれは同じだが体力と力では確実にこちらが負けてしまう。確実にドサイドンをダウンさせるには。
時々落ちる雷さえもものともせず、ドサイドンは雄叫び声を上げる。

「ムウマージ、ごめんね……」

小声で謝ると、私が何を指示したいのか理解できたのかゆっくりと頷いた。静かに目を閉じた無抵抗のムウマージに、クロツグは疑問を抱きながらも攻撃の指示を出し、それはムウマージに命中する。
威力に耐えられずにそのまま地面へ伏せてしまったムウマージだが、その瞬間ドサイドンがゆっくりと傾いた。同じく倒れこんだドサイドンにクロツグは吃驚しているようだった。


「なに……!?」
「ムウマージのみちづれ、あまり使いたくは無かったけど……」
「……成るほど、パートナーを信頼しているからこそ出せる技だ。君は本当に良い目をした挑戦者だ、お互い残る一匹、正々堂々勝負しよう!」


ボールが開かれて出てきたのはカイリュー、そしてアズサのエレキブルだ。相性だけで言うならばこちらの方が劣勢、それにあのカイリューがじしんを持っているなら尚更だ。
けれど、私だって不利な相手に対して何も対策を打っていない訳じゃない。ゴロゴロ、とまた怪しい音がした空を見ると今にも雷が落ちそうな程に稲妻が走っている。


「先手必勝だカイリュー、ドラゴンク……」
「エレキブル、」


何を指示したのか分かったのかエレキブルが動いた所に丁度雷が落ちてきた。だが、怯む所かエレキブルはにやりと笑みを浮かべると腕を振り回した。
カイリューが翼を広げてエレキブルに向かって飛び込んできたのだが、それを上回る速さでエレキブルは避けた。


「よし、かみなりパンチ!」
「っ、避けろ」


避けるように指示を出すのだが、やはり速さで上回ったエレキブルがカイリューの背に稲妻を走らせた拳をぶつける。吹き飛ばされるが空中で体制を立て直したカイリューはエレキブルを睨み付けた。
エンペルトであまごいをしたのも、ムウマージにかみなりを暗雲に向かって打たせたのも全てエレキブルの特性、でんきエンジンを発動させる為だ。素早さではこちらが上回っていると油断していたのだが、クロツグはりゅうのまいを指示した。

クロツグさんは、バトルを終わらせるつもりだ。


「行くよ、エレキブル!」
「エレキブルッ」
「行くぞ、ドラゴンクロー!」
「エレキブル、まもる!」


目にも留まらぬ速さで飛び込んできたカイリューを寸前で防ぎ、体制が崩れた瞬間を狙ってエレキブルは拳を握り締めた。
だが拳に走るのは稲妻ではなく空気も凍りつくような冷気。れいとうパンチがカイリューに命中し、地面に体が叩きつけられる。立ち上がろうと腕をつくのだが、ばたりとその場で力尽きたように倒れてしまった。


「……か、勝った……」
「君のような凄いトレーナーに負けたのであれば納得だ!手持ちのポケモンを信じ、理解しているからこその構成だった」
「あ、ありがとうございます」


褒められて照れながらもクロツグと握手を交わし、お互いの健闘を称え合った。だが、クロツグはうーんと唸るとぼやきながら首を傾げる。どうしたんですか、と尋ねると歯切れの悪い回答が帰ってきた。


「君をどこかで見たことがあるような気がするんだが……気のせいか?」
「えっと、前回のシンオウ大会でジュン君と決勝戦でバトルしたんです」
「ジュン?そうか、そうだったのか!君はあの時の優勝者か!それならばその強さも納得できる、今回はジョウトにまでバトルフロンティアに挑戦しに来たのか?」
「それは……あ。私、今トレーナー引退してバトルファクトリーで働いてるんですけど、ネジキからの伝言で今日フロンティアブレーンの会議があるんです。これを伝えに……」
「なんだかなーっ!」


先程までの落ち着きはどこへ行ったのか、今日ある筈の会議の事を伝えると焦ったようにバトルフィールドを駆け足で出て行った。
……こういう所がジュンと似てるんだ。せっかち、そうネジキが言っていたのも理解できる。しかも口癖までジュンとそっくりだし。

ネジキの事だからクロツグに遅いとか言って、罵倒するんだろうな。


(本当にあの人は……今日の会議、ほんとに疲れたなー)
(私も楽しかったけど今日は疲れたよ……クロツグさん凄く強かった)
(え?)
(え?)
(……ちょっと詳しく聞かせてもらえますか)

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