ストライプ
- ナノ -

二週間だったけれど、忙しい日々が続くと休みの重要さを改めて実感する。
家でゆっくり羽を伸ばすのもいいが、じっとしているのは退屈だった。忙しい時はやりたいことが沢山あるのに、いざ休みを貰うと急にやろうとしていた気持ちが失せるのはよくある話だ。
だからといって向かう先がジムというのも如何なものか。そう思いつつも、街にあるジムに足を運んで中へと入る。

「あ、こんにちはナマエさん」
「どうも、グリーンは居る?」
「珍しく居ますよ、今日もまた暇だってぼやいてますけどね」

でしょうね。
他の地方だって勿論ジムリーダーは強い、けれどカントーはまた突出しているような気がする。特にトキワジム。挑戦者の数自体も少ないから時間をもてあましているんだろう。
グリーンは冗談抜きで強い。四天王にもなれる実力なのに彼はこのトキワシティでジムリーダーを勤めている。けれど、このジムリーダーの経歴を考えるとジム戦挑戦者の少なさゆえに暇になってしまう訳も分かってしまう。

「……はぁ、グリーン。こんな所で寝てたら風邪引くよ」

でも、やっぱりただの給料泥棒だと思う。
珍しく居るって言っても、奥の個室に取り付けてある小さなソファに座って寝ていた。これじゃあ意味がないだろうと思うけど実際挑戦者は来ないし、机の上に書類が乱雑しているから終わらせてやることがなかったのだろう。
ジムリーダーとして鍛えるついでに練習試合でもすればいいのだろうけど、グリーンはジム以外でやる習慣があるから尚更やることがない。

(だからって寝るかなぁ……)

置いてあったブランケットでも情けで掛けて上げるために体の向きを変えた時、急に部屋に設置されてる電話が鳴り響いたものだから肩をびくりと揺らした。
ここに連絡が入るということはジム関連の連絡。ジムの関係者でもない自分が出るのはまずいのだが音で起こすかもしれないと心配し、咄嗟に受話器を取った。

「こちらはカントーリーグ本部だが……」
「すみません、今ジムリーダーは出かけておりまして。帰って来次第、連絡を入れさせますので」
「そうだったのか……分かった、待っているよ。……ところで」
「はい?」
「……君、ナマエかい?」
「え」

驚きすぎて間抜けな声が出てしまった。
どうして私だと分かったの。カントーリーグ本部に勤務している人で私のことを知っている人はまず居ない。だって、ただのデパートのアルバイトだし。

画面通信ボタンが光っているのが見えて、そこを押すと黒かったモニターの電源が付き、向こうの相手を写した。あ、と声を上げると同時にナマエは笑みを浮かべる。画面の向こうの相手もまた、人の良い笑みを浮かべていた。

「ワタルからの連絡だなんて思ってなかった!……あんまり変わってないね」
「もう成長期っていう歳でもないからな。ナマエは背伸びたのか?」
「少しだけ。ごめんね、グリーンってばソファで熟睡中なの」
「出かけてるんじゃなかったのか。それにしても君たちは本当に仲良いね」
「……ただ腐れ縁なだけだって」
「でも、そう言ってナマエは何時も彼のことを助けてるだろう?」

あの時も、とワタルは付け足す。その一言だけで、何時かを明示されていないのに直ぐに分かった。もう何年前になるだろうか、私もグリーンもまだ背伸びしていた子供の時。
幼馴染というか、もはやグリーンは私にとって腐れ縁に近い。ワタルの言う通り確かに、何だかんだ言いつつもグリーンの世話を見てきたような気がする。

でも、そんなのはほんの少しだ。

「それは違うよ、ワタル」
「ん?」
「私が、……ううん何でもない。それじゃあ、もう切るね」
「あぁ、今度はタマムシシティで会おうか」
「うわ、来なくていいよ。コガネのデパートに行って」

思い切り顔をしかめると、その反応が余程面白かったのかワタルは堪えるわけでもなく豪快に笑った。知り合いに来られる位ならコガネデパートに行ってもらった方がマシだ。タマムシデパートに来ても、私が勤務する日や担当する売り場に来なければいい。
電話を切った後も複雑な気分が残り、うーんと唸っていると急に声を掛けられた。

「随分と盛り上がってたな」
「……何時から起きてたの、タチ悪い」
「急に俺が起き上がっても後から掛けるって言ったし、まだ頭ぼうっとしてたからな。ちなみにワタルと映像も繋がった辺りからだよ」
「それってほぼ初めからじゃない。何でこんな所で寝てたの?」
「ぶっ通しで書類書いてたら眠くなってな。仮眠取ってる間にナマエが来るなんて思ってなかったんだよ」

あぁ、やっぱり机の上に乗ってた書類を書いてたからか。普段やらないことをやると疲れるって言うけど、その通りだ。
眠たそうに欠伸をして立ち上がったグリーンと目が合い、彼は口角を上げてにやりと笑った。何なの、その含んだような意地悪そうな顔は。

「俺のこと助けてるんじゃなくて、私が、……その続きは?」
「続き?そんなものないからジムリーダーは早く仕事に励んでくださいね〜」
「いいんだよ、今日はもうジム閉めるから。折角の休みの日なのにジムに来る奴も来る奴だよなぁ」
「そ、それは……偶々寄っただけ。そういう気分だっただけ」
「偶々、週何回も来るんだよな。すげー偶然」
「っ、腹立つ……!」

(私が、グリーンに助けてもらってるんだよね)

(幼馴染というか腐れ縁か……)
(どっちも変わんねぇな)

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