Azul period
- ナノ -
教会の人間。
フィーにとって、その印象の一番はクラスメイトのガイウス・ウォーゼルだった。理性的で、常識人。
神父となったのはノルド高原にまで広がった戦火による不慮の事故の際に託されたからではあるそうだが、神父らしいという言葉が似合うような人格者だとフィーは肯定する。
教会の機密部隊である星杯騎士団に変わり者が多いとは聞いていたが、ガイウスや有事における副長としてのトマス・ライサンダーや、クラスメイトだったロジーヌを見ていると真面目で突き抜けた人は居ないという印象だったが。
共和国に来て、その印象が多少変わってきていると感じていた。

(なんかやり取りは一応普通だけど……どう見てもシスターっぽくないし、神父にしてはちょっと危ないこと言う所があると言うか)

それは共和国に来ていた三人の星杯騎士を見ての感想だった。
セリスはシスターと言うよりもヤンキーという言葉が似合いそうな風貌と言葉遣いで、アンジェは淑やかな雰囲気はともかく墓守のような陰の気配を纏っている。
そして、リオンは一見穏やかな神父のように見えるが、発言が時々怪しいことはフィーも気付いていた。
とはいえ、このリオンとアンジェに関してはバベルの作戦の時に世話になっているから好感を持っていたが。

祭典の前日に、偶然オーバルカフェで鉢合わせたフィーは情報交換をする目的もあったとはいえ、珍しいメンバーと会話に花を咲かせていた。
アークライド事務所のアニエス・クローデル。それから、星杯騎士団のアンジェだ。

「うーん、あのさ」
「どうしました?フィーちゃん」
「……アンジェさ、リオンのこと好きだよね」
「!?なっ、なんで、どうしてそんなこと思ったんですか……!?」
「すごく動揺してる。というかバレバレだし」
「えっと、隠せてると思っていたんですね……」

物静かに見えるアンジェが、恥ずかしそうに頬を染めて必死に否定をしようとするが、その様子が余計に肯定しているようなものだった。
フィーとアニエスは顔を合わせて、苦笑いを浮かべる。
アンジェが自らプライベートなことを語る時の会話の半分は、本人は無意識ではあるが、リオンのことに関する話題だ。
そして、淡々と静かな人のようだが、彼女がリオンのことを話す時は、ふんわりと微笑んで愛おしさを滲ませていた。
それでも本人としては隠しているつもりだったし、隠し通せているつもりだった。

「公私を分けて活動してる……つもりなんですけど……そんなに分かりやすいですか……」
「えっと、そういう意味ではなく。アンジェさん、物静かで落ち着いてる方ですから、リオンさんの話で笑うことが多いのを見てそうなのかなーと……」

普段、少し引っ込み思案にも見える落ち着いている寡黙な人がその人の話をする時は感情が少し溢れるように嬉しそうに話すのを見ると、単純に「その人のことを信頼していて好きなのかな」と思うのは自然な事だった。
アニエスとしては好意が伝わるかもしれない距離感で上司と接していても上手くいい関係が築けているという点では少し羨ましくもあり、一つのいい例を見ている気持ちだった。

「その……リオン君には言わないで頂けるとありがたいです……」
「ん、オッケー。アンジェにとってリオンって年上だと思うけど、リオン君って呼ぶんだね」
「昔からの知り合いだからリオンさんというより、リオン君の方が近い気がして……」

自分が教会に属した時からの知り合い。
それはアンジェの生きる目的が見付かった瞬間とも言えた。
だから一方的でもリオンを慕い続けるし、それが恋人という関係ではなくても、正騎士として守護騎士である彼の傍に寄り添おうという気持ちの現れだった。

アンジェにとって、古代遺物の回収をする為の活動は勿論教会の人間として行っているが、それを主目的として属しているのではなく、リオンがいるから属していた。
それを総長含める上司は理解していたし、アンジェが本来単独で正騎士として活躍出来る実力や判断力があると分かりながら、アンジェをリオン直轄から外すことはしなかった。

「私も仲間に一人いるから、聖杯騎士ってこんな風に補佐してもらってるのかなって思うと安心するけどね」
「フィーちゃんの仲間……ウォーゼル卿のことですね。彼は人格者で落ち着いていらっしゃいますよね。私と同い歳とは思えないくらいです」
「ガイウスは特に落ち着いてるからね。でも仲間をそう言って貰えるのは嬉しいね」

ガイウスというアンジェにとっての上司に当たる地位の人について話す時はやはり、感情の波があまり分からない程に落ち着いているのを見て、フィーは純粋に思う。
アンジェってやっぱりリオンが好きなんだね、と。

「ところで、アンジェはリオンのどこが好きなの?」
「はっきり聞いちゃいますね、フィーさん……私も気になりますけど」
「え……あの……リオン君、穏やかに見えて冷たい時は冷たいし……意外と外法に引っかからない範囲でおっかないこと、考えてたりもするけど」

──リオンのどこが好きなのか。それを深く自己分析したことは無かったが、欠点に移るような点も含めてやはり好きだと断言できた。
それが盲信のようだとしても、親について行こうとする雛鳥のようだとしても。
アンジェにとってはそれで良かったし、そうでないと生きられない人は居る。
間違いなくアンジェは自分はそういう人間だと理解していた。
彼といる時は、セピアな景色が色付くのだ。

「でも……その……好き、で……」
「へぇー、アツアツー」
「ふふ、素敵ですね。素直にそう言える関係っていいですよね」
「言わないでくださいね……!?リオン君には内緒にしていますから……」
「内緒も何も……」
「え?」

内緒も何も、ここまで分かりやすかったら本人にも伝わっているのではないかとフィーとアニエスは顔を見合わせる。
コーヒーにミルクが混ざっていたら色が変わっていることで気付ける位に、分かりやすい。

だが、気付いていたとしてもリオンは彼女にその確認はしない。
そして、自分が貴方をどう思っているかも語らない。
そんなリオンではあったが、同じ守護騎士の立場であるワジ・ヘミスフィアはケビン・グラハムに零していた。
──アンジェ自身に独立して活動出来る能力があるからどうかって話は当然断られてるし、副長もリオンにそれとなくアンジェの独立の話をしてみたら即答で断られたらしいよ、と。
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