「シカマルと存外仲良くなった話」
注意)
・本編夢主の日常番外編
・夢主の中忍時代、ナルトが修行の旅期間の話
・将棋描写があるけど知識ありません
・カカシとアスマの不真面目描写があります
***
火影屋敷の隣にある待合所はその名の通り任務前の忍達の待機場所であり、任務終わりの忍達が報告書を書く場所としても使われている。
そこに昼から黙々と机に向かう二人の姿があった。サキとシカマルである。
「三つも溜め込むなよな。ったく、」
シカマルは報告書を半分書き終えたところで、愚痴をこぼした。報告書というものは任務期間が長ければ長いほど、ランクが高ければ高いほど書く量が増える。
シカマルに当てがわれたのは中期のB級任務のものだった。これは昨日サキとカカシが遂行した任務のもの。
「一つはカカシさんのだよ。急遽次の任務が入って出来なくなったから書いておいてって……締切日に出してくるんだもん」
サキはカカシが担当したA級任務の報告書を代筆しながら答えた。それは六日前に終了した任務でサキ自身は参加していないものだった。
カカシが書き残していった要点メモを見つつ、悩みながら書くサキの姿を見てシカマルは気の毒に思う。
「あの人もアスマみたいなことするんだな」
「アスマさん?」
「アスマは面倒な報告書を部下に回してくるからな。それで何度書かされたことか」
「はは、だからシカマルって報告書の作成手慣れてるんだ」
シカマルはサキよりも後に待合所に来たというのに、サキが一件分の報告書を書き上げるよりも早く自分の分を書き上げてしまった。
だからこそサキはシカマルに声をかけた。明日からまた任務でいなくなるのに報告書が三つ、終わってないから助けてくれ、そう泣きついたのだった。
***
シカマルに手伝ってもらい何とかその日の締切時刻に間に合わせることができた。待合所を出て、サキはシカマルに頭を下げた。
「本当にありがとう。こんなに早く終わるとは思わなかった。お礼に何か奢るよ!」
「要らねえって。間食とると母ちゃんに怒られるしよ」
「そっか。なら食べ物はダメだね」
サキは別の手段を考え、一つ妙案を思いついた。
「じゃあさ将棋の相手はどう?」
「はあ?」
シカマルは顔を顰めた。何で急に将棋の話が出てくるんだ、と。
そもそもサキに将棋の知識はなかったはずだ。
「実は将棋出来るようになったんだ。アスマさんから初心者向けの本貸してくれてもらって勉強したの」
「アスマが?」
「うん。カカシさんと行動する機会が増えたから、その関係でよく会うんだ。アスマさんとは良い勝負出来るくらいになったんだよ」
「ふーん」
中忍に上がってからもアスマとは度々顔を合わせるが、サキの話は聞いたことがなかった。その組合せも意外なのに、サキと将棋という組合せはもっと謎だ。
だが本を"貸してもらった"という口ぶりから、自ら教わりにいっているみたいだし……
「前に持ってた小さい将棋盤持ってないの?」
「いつも持ち歩いてるわけないだろ」
「そっか……」
サキはしょんぼりと肩を落とす。
シカマルは悪いことでもした気分になって、色々な物事を天秤にかけてからため息をついた。
「お前この後時間あんの?」
「、、うん!」
***
シカマルはサキを家に招待した。
母親のヨシノはサキを見て大変驚き、息子が女の子を連れてきたと浮かれて茶菓子を用意し始めた。シカマルは勘違いしているらしい母を無視して、よく父親と将棋を指す縁側にサキを案内した。
「シカマルの家って大きいね。縁側すごく綺麗」
「普通だろ」
「そんな事ないよ。落ち着いてて良いところだね」
「……早くやろうぜ。まず棋力見るから」
シカマルはサキを向かいに座らせて、ハンデなしのまま打ち始めた。途中に母親が茶菓子を出しに来て、それはそれは嬉しそうに笑みを浮かべていたが、息子は無の表情で耐え忍んでいた。
そして十分程経ってから、シカマルは打つのをやめた。
サキの実力を測り終えたみたいだ。
「このくらいなら飛車落ちだけでいけそうだな」
アスマと良い勝負が出来ると自負するだけあって、きちんとゲームになったことにシカマルはホッとした。実際へっぽこで、やっぱりやり方教えてくれとなるんじゃないかと頭の片隅で想像していたが杞憂に終わる。
サキの方は勝つ気で挑んでいたけれど、やっぱりシカマルとは実力差があるんだなと再認識していた。何せ軽くあしらわれている感触があった。
「やっぱり将棋強いんだね」
「まあ、将棋は親父やアスマとよくやってるしな」
駒を並び終え、シカマルとサキのハンデ付き初対局が始まった。
「シカマルのお父さんって上忍班長の奈良シカクさんだよね」
「ああ。詳しいな」
サキの口から父親の名前が出てくると思わずシカマルは驚いたが、次のサキの言葉でそれ以上に驚かされることになった。
「上忍目指してるからね。現役上忍の経歴や中忍時代の任務歴はざっと調べたんだ」
「マジ?……お前上忍目指してんの?」
「うん。シカマルは目指してないの?」
「俺は別に。スピード出世したいわけでもないし」
「そう」
シカマルは長考しているサキをスッと見た。
何がそこまで彼女を突き動かしているのかは知らないが、エリートコースを目指しているとは思わなかった。変なやつ……とシカマルは昔からサキに付けてるレッテルを再押しした。
「でもシカマルは周りに頼られて自然と上忍になりそう」
「何だよそれ」
「シカマルの頭脳と冷静さは唯一無二だから。それに気配りが出来て人望もあるし」
「……前から言おうと思ってたけど、お前のその何かにつけて褒めてくるヤツやめろよな。親戚のおばちゃんでもあるまいし」
シカマルはサキを軽く睨んだ。だがサキは視線を上げることなくそのまま駒を手に取る。
パチン
「!」
サキは駒から手を離してシカマルの方を見た。
シカマルは目を見開いて盤面を見つめていたが、また直ぐにサキを睨んだ。
サキが戦況をひっくり返したのだった。
「素直な奴には弱くて甘いしね」
「お前……」
煽りを含んだ言葉はシカマルが抱いていた人物像とズレている。それに初心者がよくやるミスをあえてやって、相手の隙をつくる戦術。初心者のサキが思いつくはずもない攻め手の裏に、自分のよく知る人物が浮かんできてシカマルは盛大にため息をついた。多分今日一番の。
「お前、親父からも将棋教わってんのかよ。面識ない振りして意外とイイ性格してんな」
「心外だな。シカクさんとは本当に面識ないよ。この戦術は確かにシカクさん発案だけど、アスマさん経由で教えてもらったの」
「……」
「初戦でしか使えないけど、シカマルには一番効くからって」
結局この対局を制したのはサキだった。
シカクの戦術がハマったのもあるが、サキ自身も優位を保って終局まで持っていった。
「今度やる時は自分の実力だけで勝てるように頑張るね」
「……今度じゃなくていい。飛車落ちでもう一戦やろうぜ。なんかムカつく」
「ねえ、その前にさ。今の対局の検討しようよ!そっちのが勉強になるから」
そしてサキとシカマルはしっかりと検討をした後、もう一局行って、今度こそサキはコテンパンにやられた。けれどサキはそれがとても嬉しかった。
(将棋覚えた甲斐があったー、アスマさんありがとう)
***
三ヶ月前の話。中忍に上がって数ヶ月経った頃、サキはある壁にぶつかっていた。
「サキ、もしかして作戦考えるの苦手?」
「……はい」
「応用力が足りてないのかな。教科書通りって感じ」
カカシに作戦立案書を直されながら、サキは自分の足りない部分を何とかしようと頭をフル回転させていた。
「経験で何とか出来るものではあるんだけど、サキの場合早く上忍になりたいもんね。どうしようかな」
「すみません」
「謝ることじゃ無いよ……あ、こういうのって同期のシカマルが得意なんじゃない?」
「そうですね。戦術考えるの得意な印象はありますね」
「シカマルに頼んでさ、作戦立案のコツ聞いてきたら。奈良一族の影真似の術もサポートタイプに近いし、サキのためになると思うよ」
サキは一理あると納得した。だがシカマルに面と向かって頼めるほど仲良くない。しかもシカマルは極度の面倒くさがりで、教えて欲しいと正面から言っても受け流される気がするとカカシに伝えた。
するとカカシは同じ上忍であるアスマを連れてきてくれた。アスマはシカマルの担当上忍だった男で、シカマルのことをよく知る人物だ。
アスマはことの次第を聞いて、なら将棋を覚えたらいいと言ってきた。
「どうして将棋なんですか」
「アイツの趣味だからだ。要は仲良くなれば万事解決だ」
「……え」
***
それから三ヶ月、時間がある時は将棋を勉強し、今か今かと対局の機会を伺ってた時期にシカマルが報告書作成を手伝ってくれた。(手伝わせた)
将棋自体、戦術を考えることが習慣化されるきっかけになったし、何よりもシカマルと検討の時間が生まれたことが一番の収穫だった。
将棋のこととなるとシカマルは意外と口数が増える。あの日複数の戦術を比較してメリットデメリットを解説してもらった時にはサキは拍手を送りたくなったくらいだ。
シカマルと定期的に将棋を指すようになって数ヶ月も経てば、サキの作戦立案に対する苦手意識も薄れていった。
そして順当に上忍に上がった頃、サキはシカマルとアスマに高級菓子折りを持っていったとか。
シカマルと存外仲良くなったきっかけ話(完)
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