「まだ芽生えない話」
注意)
・本編夢主の日常番外編
・夢主の中忍時代、ナルトが修行の旅期間の話
・シカマルと存外仲良くなった話の続き
***
報告書を提出し、さて家に帰るかと商店街を歩いていると向かいからアスマがやって来た。右手を上げて来たので、こちらも同じく返す。それで会話できる距離まで近づくとアスマに呼び止められた。
「なあ、カカシ。急にで悪いんだが今時間あるか。一つ聞きたいことがあってな」
この後急ぎの用事はないし、カカシはとりあえず話を聞くことにして二人で道の端に寄った。
「何。聞きたいことって」
「サキってシカマルのことが好きだったりするか?」
「はい?」
カカシは怪訝そうな顔を浮かべて、最初から説明してくれとアスマに告げた。するとアスマは、あれだよあれと言いたげに人差し指を胸の高さでくるくる回し始めた。
「半年くらい前にあの子に将棋を教えただろ」
「ああ、そうね」
「数ヶ月前にシカマルと初打ちしたらしいんだが、それから頻繁に打ってるみたいでな」
「へえ、良いことじゃない。あれでサキの作戦立案書すごく良くなったよ」
「まあ結果が付いてくれてんなら薦めた甲斐があったもんだけど、そうじゃなくて。さっきあの二人が公園で将棋打ってるところを見かけてな。やけに距離が近くていい感じに見えたんだよなー。あれは脈があるぞ」
何せあのシカマルが女子の前で自然に笑ってたんだぞ、あれは逃しちゃダメだと担当上忍として彼をよく知る一意見を語った。これでサキにちょっとでも気があれば、アスマとしては嬉しいらしい。この余計なお世話感……親戚のおじさんじゃないとカカシはマスクの下で失笑した。
まあそれはさておき、サキとそれなりの付き合いを持つ者としてアスマの質問に答えるなら――
「それはない」
「何で断言できるんだよ」
「好きな人はいないって前に言ってたから」
「前っていつ?」
「あー、、一年前」
「一年前?」
嘘だ。本当はそんなことサキは言ってないし、そもそも好きな人がいるかなんて聞いたことがない。
だが暁に攫われて木ノ葉に戻って来た後のサキはカカシに急いで上忍になりたい、力をつけたいんだと己の夢のために縋り付いて来た。あれだけ必死な子が恋愛をしてる余裕なんてないはず。
まあ憶測だ。本人の口から聞いてない以上、主観が入りまくりで、アスマが脈があると語るのと大差ない。
アスマは嘘をつかれたことなんて気づかず、だがそうですかと直ぐには諦めなかった。
「そんなのもう古情報だろ。今度サキに会ったら聞いてみてくれよ。シカマルのこと好きかどうか」
「ええ、、逆にシカマルはサキのこと好きなの?」
「アイツはあれだ。ボーッとしてるから外堀を埋めていけばどうにでもなる」
「外堀って……」
頼んだぞと肩を叩いて、アスマは去っていった。
昔からの付き合いだ、一応聞いてやるかとカカシは次にサキと会うのはいつだったかと予定を振り返りながら帰路に着いた。
***
サキと会う機会はその二日後に訪れた。珍しく演習場に先についていたカカシにサキは驚いた顔を浮かべ、時間間違えましたかと余程のことなのか怯えながら質問した。遅刻魔と自負してるカカシはこれに苦笑いを浮かべて、時間ぴったりだから大丈夫だよとフォローした。
気を取り直して、「じゃあ始めようか」と修行開始の合図をするとサキは真面目な顔になって「よろしくお願いします!」と力強く言った。
マンネリ化してもおかしくない修行をいつだって実践のように真面目に取り組む。そもそも将棋のきっかけだって自分の弱点克服のため。こんなドがつく真面目っ子なのに、実は好きな人がいるなんて言われたら拍手と花束を送りたいくらいだ。
あり得ない、と頭の片隅で思いながらその後の休憩時間、木陰に腰を下ろしてサキに話を振った。
「サキ、今好きな人いる?」
「え、何ですか。いきなり」
「いやー、そのくらいの年の子は好きな人の話で盛り上がったりするでしょう。同期とかどうなのかなーって。例えばほら、シカマルとか。将棋打ったりして仲良くなったでしょ」
サキは急にムスッとして、カカシの方を睨んだ。
「別にカカシさんとする必要のない話だと思うんですけど。カカシさんとその話をして盛り上がれる気がしません」
声のトーンがひとつ下がる。明らかにその話はしたくないって感じ。でもこれだけではまだ好きな人がいるかどうかの答えになってない。図星を突かれて隠したい可能性だってある。カカシは諦めずに追撃してみた。
「そんな決めつけなくたって良いじゃない。俺恋愛小説好きだし、案外楽しいかもよ?」
「……同期はないです。私、同い年と年下はタイプじゃないので」
サキはそっぽを向いてそう告げた。同い年は好きじゃない、アスマからの託された任は完了した。残念だがやっぱり脈なしだった。
そこで満足しようと思ったが、サキの発言が引っかかる。ここからは個人的な興味だ。
「サキって年上好き?」
「そうですけど」
「ああ。じゃあ俺みたいな方が好き?」
「……」
目を細め、眉を顰め、そこまでしなくても良いじゃないかというくらい不機嫌な顔でまたも睨まれた。
「そういうところ嫌いです」
「ごめんなさい」
反射的に謝るとしばし沈黙となってしまった。まずったなー、そろそろ修行再開するかなと立ち上がると、下からぼそりと声がした。
「……カカシさんは?」
「え、何?」
「カカシさんの好きなタイプ」
「俺の?」
「私だけ言うのは不公平です」
確かに、とサキの預かり知らぬところで色々勝手に話したことの詫びも兼ねて、カカシは素直に答えてあげた。
「年上でも年下でも好みはないけど。浮気しない子がいいかな」
「、、意外」
「そう?」
「カカシさんって一途なんですね」
「んー、俺結構重い方だよ」
「オモイ?」
「相手への愛情が大きすぎて相手を押し潰しちゃう、みたいな意味。例えばー、嫉妬深いとか束縛とかさ」
「ああ、成程……なるほど、」
サキはまたも視線を逸らした。
「言いたいことがあるなら言いなさい」
「いや、別に」
表情の見えないサキの感情を汲み取るのは難しい。けど、恐らく引かれてる。言うんじゃなかったかなーと少し後悔しつつ、カカシはサキの頭に手を置いた。
「変な話してごめんね。あんまり気にしなくていいからさ。修行再開しようか」
カカシはサキに背を向けて木陰から出ていく。
サキは自分の両頬に手のひらを引っ付けて、カカシに聞こえないように呟いた。
「たらしめ……」
なかなか冷めない頬の熱を無理やり叩いて赤みの言い訳にする。突然乾いた音がしてカカシが振り返ると、サキはすっかり真面目な顔つきになって「気合い入れ直してました」と元通りのトーンで立ち上がった。
馬鹿。私には恋愛なんてする余裕はないんだから――サキの内なる決意なんて梅雨知らず、カカシは今日も無意識にサキの名前の付けられない感情を揺さぶってくるのだった。
***
それから数日後、待合所で鉢合わせたアスマに脈がないことを伝えた。アスマの方もあれからシカマルにサキと最近仲良いなーなんて突いたらしく、マジでやめろと怒られたらしい。
大人が子供達の色事に口出すもんじゃないねーとカカシは呑気に言った。するとアスマが自分の育てた大事な教え子はもはや我が子同然だろう。良い子と結ばれて欲しいと思って何が悪いと失敗を嘆いた。
「お前だってサキがどこの馬の骨とも知らない男と結ばれるのは嫌だろう」
……一理ある。
いつかサキの心に余裕が生まれたら、誰かを好きになるんだろう。年上の男か――と自然と頭に浮かぶサキより年上の中忍、上忍達を、アイツは駄目、コイツも駄目とそれこそ何様だと怒られそうな勢いで勝手に不合格にしていった。
「まあでも……選ぶのはサキだから。信用してるよ」
「そうかよ。ちえ、お前とは教え子の恋愛話で盛り上がれそうにないな」
「悪かったね、親戚のおじさんになれなくて」
「親戚のおじさん?」
カカシはそれに応えることなく立ち去ってしまった。一人取り残されたアスマは言葉の意味を考えて、理解した後でへえーと口角を上げた。彼の恋愛脳がまた密かに架空のカップルを作り出す。
「年の差カップルもいいなあ」
まだ芽生えない
無自覚に重いカカシvs自覚しないように努めるサキ(完)
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