「誕生日ケーキ」


注意)
・本編夢主の日常番外編
・夢主が中忍時代、ナルトが修行の旅期間の話

***

十月の終わりかけ、カカシとサキが二人で任務にあたるようになって半年たった頃の話ーー

今日もB級任務を無事に終えて木ノ葉の里に戻ってきた。報告のため火影屋敷に向かって歩いていると、隣を歩いていたはずのサキがふっといなくなった。
実際いなくなったというのは語弊があって、彼女は立ち止まっていたのだ。大通りにあるケーキ屋の前で。

カカシが振り返ってみると、サキは綺麗なケーキがズラリと並ぶショーケースを横目に見ていた。

「ケーキ食べたいの?」
「あ、すみません。大丈夫です。報告行きましょう」
「?」

報告を終えて、休暇と次の任務スケジュールを言い渡された。執務室から出て、サキと修行日程を話すところまではいつも通り。

「じゃあ今日はこのまま解散で」
「はい。ありがとうございました」

サキはカカシに礼を言って来た道を戻って行った。いつも任務のことに集中していて、報告が終わるまで何かに目移りすることのないサキが今日はケーキ屋の前で立ち止まった。
カカシは少しの好奇心で彼女を尾行することにした。


***


案の定サキはまたケーキ屋に来ていた。

じーっと見つめて、買うんだか買わないんだかその場でクルクルして、そのサキらしからぬ珍行動が少し面白かった。
その店のおすすめメニューである透明な容器に入ったグラスケーキがお目当てのようだ。それは他のカットケーキより小ぶりで値段設定も低め。

(金欠…とは思えないけど、少し甘やかしてあげようかな)

カカシは大通りに降り立った。
そしてサキの後ろから店員に声をかける。

「このケーキ二つください」
「カカシさん!?え、あの何で」
「俺もケーキ食べたい気分になってね。サキもこれ見てたんでしょう。一緒に食べよう」
「あ、えっと……半分払います」
「いいよ。今日の任務頑張ったご褒美ってことで」
「……」

サキは気まずそうな顔をして、ありがとうと言った。店員からケーキの入った箱を受け取って近くの演習場で開封する。

「いやー、天気も良いしピクニックみたい。屋外でケーキを食べるってのも乙だね」
「そうですね。あのお金本当に良かったんですか」
「何度も言うのは可愛げがないよ」
「すみません。それじゃあ、いただきます」

容器入りのケーキは地べたに座って食べるにも支障なく、付属のスプーンで難なく食べることが出来た。イチゴと生クリームとスポンジという必要以上の食べ物を入れていないケーキだが、シンプルだからこそ美味しさがよく伝わってくる。

「ここのケーキはよく食べるの?」
「いえ。誕生日くらいしか食べないです」
「誕生日?え……もしかして今日誕生日ってこと?」
「あ、いや。私自分の生まれた日を知らないので、おそらく誕生日では無いんですけど、一応ナルトの誕生日付近ってことにしていて」

ナルトの誕生日は十月十日。もう半月も前に過ぎていて、十月も残すところあと二日だ。
サキはモゾモゾしながら言葉を続ける。

「いつもナルトの誕生日と合わせてケーキを食べてたんですけど、ナルトが旅に行っていていないから今年は食べそびれていたなって」

ケーキ屋の前でふと思い出したらしい。
そして本当の誕生日かはさておき、一年に一度しかこない行事であることには変わりなくて、食べるかどうか何迷っていたようだ。

「誕生日ケーキならもっと大きいの買えば良かったな。隣にあったカットケーキ、フルーツいっぱい乗っていて美味しそうだったしね」
「一番安いので十分ですよ。誕生日にケーキを食べるのって歳をとるための儀式みたいなものなんでしょう」

サキはグラスケーキを綺麗に食べ切ると手を合わせて、紙箱の中に空容器を戻した。

「ご馳走様でした。これでちゃんと歳をとれた気がします」

(儀式?ええ、何その子供っぽくない解釈……)

カカシの頭には今は亡き父親の姿、子供の頃の記憶がよぎった。
木ノ葉の白い牙と呼ばれた父は二人暮らしにも関わらず大きなケーキを買ってきて、プレゼントを用意してくれて、それで確か……

ナルトと二人、親もなく支え合って生きてきたなら仕方ないのかもしれない。誰にも教えてもらわなかったんだろう。誕生日という記念日の意味を。

「誕生日ってのはただ歳をとるだけの日じゃないよ」
「え?」
「誕生日は生まれてきたことを感謝する日。その日まで生きたことを祝って、次の一年も健やかに過ごせるように祈る日だよ」
「生まれてきたことを感謝する日……」

サキの顔がみるみる赤くなっていった。
今までのちょっとした勘違いが明らかになって恐らく恥ずかしいのだろう。

「見様見真似でナルトと過ごしてきたつもりなんですけど……ズレてたんですね。そっか、ただケーキ食べる日じゃなかったんだ」
「大人になるとケーキを食べる日としか思わない人もいるだろうけどね。まあ、サキくらいの歳で儀式的に終わらせちゃうのは勿体なく感じるかな」

カカシは眉をハの字に曲げて笑った。余計なお世話かなと思いつつ、自分が子供の時よりも幾分平和になった時代を生きてる子にはもっとこの記念日を大切にして欲しいと思ったのだ。

「ちゃんとした意味を知ると過去のナルトの誕生日やり直したくなるなあ」
「え、うーん。ナルトの誕生日はアイツが帰ってきた時にお祝いすれば良いよ」
「そうですよね。その時は大きいケーキ買ってお祝いします」
「……ナルトのことは一旦置いておいて。今日はサキが祝われる日ね。まあ、俺に言われてもあんまり嬉しくないかもしれないけど」

カカシはサキの顔を改めて見つめて、かつて父が自分に言ってくれた言葉を繰り返した。

「誕生日おめでとう、サキ。生まれてきてくれてありがとう」

それを聞いたサキは勢いよく両手で顔を隠してしまった。
予想外の反応にカカシは一瞬戸惑ったが、隠し切れていない耳が真っ赤になっていて、思わずマスクの下で笑みを浮かべた。

「照れてる?」
「……だって、こんなに嬉しい気持ちになるなんて知らなくて。うう、、ありがとうございます」
「どういたしまして」


こうして本来の誕生日の意味を知ったサキ。
来年九月のカカシの誕生日は盛大に祝い、カカシをあっと驚かせたような――

生まれてきてくれてありがとう――
あなたに出会えた奇跡に感謝します。(完)


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