「ギスギス期の二人」


注意)
・本編夢主の日常番外編
・中忍試験前のカカシ先生とのギスギス期

***


二時前には任務終わるってばよ――

と昨日連絡してきた隣人が帰ってこない。今はもう夕方間際の四時だ。

(今日一緒に夕飯食べるから買い物行こうって約束したのに。ナルトめ、、、)


どこかで寄り道をしているに違いないと、サキは意を決して買い物袋と財布を持って外へ飛び出した。
濃厚なのは一箇所だ。


ラーメン一楽……木ノ葉の里にあるラーメン店で、ナルトのお気に入りの店だ。

放っておくとラーメンしか食べないので、何とか野菜を食べさせようと週に二回程家に招いて手料理を振る舞う。それがナルトと出会ってもう四年、二人のルールになっていた。


一楽の屋台が視界に入る。大きな暖簾で顔は見えないけれどオレンジ色のズボンがはっきり見えた。
その隣には紺色のズボン。中忍以上の人間が身につける里指定の隊服だ。


暖簾を上げて、勢いよく物申す。


「ナルト!今日は夜ご飯うちで食べるって言ってたじゃん!イルカ先生もすぐナルトにラーメン奢ら……」

ナルトの横にいる人物にも文句を言うが、それはイルカではなかった。サキの声が段々と小さくなる。


「、ないで、って、」
「こんにちは、ナルトの同期の子だったね」


白髪のほうき頭にマスク姿……

ほあ!?という素っ頓狂な声を飲み込んだ。
彼はこの里で唯一苦手な上忍はたけカカシだ。

彼との出会いは四年前のアカデミー編入試験の日まで遡る。アカデミー時代は一切会うことはなかったが、卒業後ナルトの担当上忍に抜擢されたせいで、何度か顔を合わせている。
その度にこっちは無視するし、向こうも特別声をかけてくることはなかった。サキはカカシに苦手意識を持っているし、カカシの方はサキのことを危険視していることは間違いなかった。

(なるべく話したくない。関わりたくない……)

だがこんな狭い空間で人間違いして無視はあり得ない。ナルトや一楽の店主もいる前で流石に露骨すぎる。


「こんにちは。人違いしてすみません」


ぎこちなく挨拶をしてナルトの肩に手を置く。
ナルトに対する文句より、カカシに会ったことにより力が篭ってしまう。
肩がぎゅうっと握られると、ナルトは怒らせたヤバいと焦りだした。


「で、ナルト。夕飯前にラーメン?」
「ギクっ、ちゃんと夕飯までには腹すかせとくってばよ!これは今日の任務頑張ったから、カカシ先生がご馳走してくれるって!そう、仕方なくだってばよ!」
「ふーん、仕方なくだったのか。じゃあこれからは任務終わりのラーメンは無しだね」
「ああ!!違うってばよ、これは違う!」


ナルトはカカシに耳打ちをする。
アイツってば怒らせると怖いから、とサキに聞こえないように。

そんなカカシとナルトを見てサキの胸の中はモヤモヤとする。
カカシは眉をハの字にして笑っているし、いかにも仲の良い先生と生徒って雰囲気。

好きな人と苦手な人が仲が良いのはなかなかどうして複雑な気持ちになるものだ……


(この人、ナルトの前だとこんな感じなの?私と全然態度違うじゃん。ナルトをラーメンで釣って。マスク野郎!ほうき頭!胡散くさ男!)


心の内で思いつく限りの罵声を浴びせる。
すると悪口が伝わったのかカカシが顔を上げてニコリとこちらを見てきた。ドキッとして身構える。
肝心のナルトはというと、カカシの影に隠れていた。


「えーっとね、あんまりナルトを怒らないであげてね。一人前しか食べてないし、伸び盛りの男の子だからあと数時間もあればお腹空くと思うよ」
「……そうですね」

(よりにもよってこの人を盾にするだと)


サキは表情筋を軋ませながら、カカシの向こう側にいるナルトに笑顔を作った。はやくナルトを連れて帰りたい。


「もう怒ってないよ、ナルト」


ナルトはじっとサキの顔を見つめて、またカカシの後ろに引っ込んだ。


「まだ怒ってるってばよ!!」


ナルトにじゃないってば!と叫びたかったけど、ぐっと堪える。カカシさんじゃなくてイルカ先生だったらこうはならなかったのに。

サキがどうしようかと言いあぐねていたところ、カカシが後ろに隠れるナルトの方を見て口を開いた。


「よく二人でご飯食べるの?」
「んー、家隣同士だから。サキが作ってくれるの食べに行ってる」
「へえ。それなら彼女の気が変わらないうちに出て行った方が良いんじゃない?もう手料理食べさせてくれなくなるかもよ」
「え、うーん……でもあの顔笑ってるけど静かに怒ってる」
「大丈夫、大丈夫」


ほら、と言ってカカシは無理やりサキの前にナルトを押し出した。


「っとと、カカシ先生!?」
「ナルトはラーメンばかりじゃなくて野菜も食べないと」
「カカシ先生も野菜野菜ってー!!サキと同じこと言う!!」

カチン

(同じこと?)


いつもは朗らかなサキも、はたけカカシに関しては沸点が低い。同じ思考回路呼ばわりされるのが嫌になって、普段はあまりしないがナルトの手を掴んだ。


「買い物行こうか、ナルト」
「やっぱり怒ってんじゃん!!なんでさっきよりも怒ってんの!?」
「怒ってない!!」


ズルズルと無理やり引っ張って一楽を去る。
カカシは二人に手を振って見送った。ナルトは返してくれたもののサキは振り返りもしなかった。


(露骨に嫌がられてるね。まあ仕方ないか)


ナルトの分と二人分の会計を済ませて、カカシはサキ達とは反対方向に歩き出した。


二人が同じ方向を見るのはもう少し先の話ーー


クソガキだった頃のサキと
大人な対応のできるカカシの話(完)


prev      next
目次



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -