戦場へ


遺跡の外、真実の滝を抜けた場所にうみのイルカと木ノ葉の忍数名が立ち尽くしていた。
そこにはもくナルトの姿はない。

「行っちまったか、バカヤローコノヤロー!」
「キラービーさんですね。貴方にお願いがあります」

イルカは突然ビーの前で頭を下げ、

「ナルトを守ってやってください!」

そう叫んだ。
イルカはナルトのアカデミーの担任で誰よりもナルトを気にかけてくれた人だ。
自分の両親を九尾に殺されたにも関わらず、ナルトは化け狐とは違うんだとナルト個人を認めてくれた、ナルトにとって大切な人。

イルカの真摯な態度が気に入ったんだろう。
ビーはイルカに拳を突き出すように言った。

「了解だ!バカヤローコノヤロー!」

拳を合わせたことで、イルカがナルトの心理にいた人間だとビーも気づいた。そのイルカがナルトの足止めに失敗したなら、もう誰にもナルトは止められない。ビーは彼の気持ちを汲んでそう言った。

「ナルトのことは任せてください」
「サキ……」
「修行だってまだ途中だし、何よりこの戦争をナルトにだけ背負わせるわけにはいかないから」
「ああ。頼んだ。サキも敵に狙われているだ。気をつけて」

サキは親指を立てて、ビーとともに亀島を駆けた。
甲羅についた棘エリアを抜けて、前方にナルトの影を見つけた。すぐさまビーは尾獣化して尾獣玉を放った。

「ナルトー!避けてー!!」

「え?、、ンな!?」

ナルトが後ろを向くと特大の尾獣玉が横を通り過ぎ、何もないはずの空間で尾獣玉が止まった。

パリン パリン

何かがガラスのように割れ、結晶を落としていく。

「そこから先は結界があるから、その尾獣玉を押し込んで!」
「サキ!ビーのおっちゃん!分かったってばよ!」

三人の協力により結界班特製の三十六重結界は難なく破られた。通り過ぎる際、結界班隊長の涙が見えた気がして、サキはごめんなさいと頭の中で謝って先を急いだ。

ようやく地面に足がつく。

「あれ、ここ島じゃなかったっけ?」
「細かいことは気にすんな」

着いた先は本部の後方。
まずは本部を抜けてどの戦場に行くかだが――

サキは広げられるだけ感知範囲を伸ばした。
するとタイミングが良いのか悪いのか海沿いの戦場で大きなチャクラの塊が出現した。

海沿いに現れたのは外道魔像。
目的は九尾チャクラを宿した金閣銀閣兄弟の封じられた宝具の回収だ。
サキ自身は何故そこに外道魔像が出現したのか分からなかったが、間違いなくそこにマダラがいることだけは分かる。

魔像が暴れているのか、"心臓"として自然エネルギーを勝手に持っていかれる。自分の意識に反してチャクラが流れていく感覚がなんとも気持ち悪い。

「サキ、どうかしたのか」
「マダラが動いた。この戦い早く頭を打ち取ったほうがいい。尾獣を出される前に」
「ああ。マダラの場所分かるのか?」
「大丈夫。行こう!」

一度会った今のマダラのチャクラは忘れていない。きちんと識別し、二人の前に出て薄暗い森の中を駆けた。


***


夜になっても足を止めることはなかった。
明日か明後日には完全な満月になるだろう。月明かりがうっすらと夜道を照らす。

足元が悪い中これ以上スピードは出せない、そう思った時だった。サキの後ろからビュンとオレンジ色の光が抜かしていった。

「サキ!遅いってばよ!もっとスピード上げねえと」
「ちょっと。ナルト!?そのモードのリスク説明したじゃない!使いすぎたらダメだって」
「九尾チャクラモード夜道を照らすにゃ便利!命を削るリスクも有れば良いこともある表裏!」
「リスクのが大きいってば!待ちなさい!ナルト!!」

後ろからサキの声が届いたがナルトは足を止めずにスピードを上げていく。

『ワシのチャクラをぞんざいに扱いよる』

ナルトの頭の中に不機嫌な声が届いた。サキでもビーでも八尾でもない。生まれてからずっとナルトの中にいる存在の声だった。




=精神空間=

意識を声のする場所に向けると、檻の向こうに九尾が伏せていた。
チャクラの綱引きでだいぶ痩せ細っていたが、九尾チャクラモードを使用する中でナルトのチャクラを奪い回復したのだろう。少しは元の体型に戻っていた。

「お前、本当に戦争を片付けられると思っているのか。そりゃ無理ってもんだ。なんならワシの力を……」
「もうその手には乗らねーよ」
「フン、少しは頭が回るようになったか」

大蛇丸やペインとの戦いの時のようにもう九尾に体を乗っ取られるわけにはいかない。

「話は戦争の後だ」

そう言ってナルトは九尾に背を向けた。

「仲間が殺されれば憎しみが生まれる。それは敵味方同じことだ。この規模の戦争をお前ごときが止められるわけがない」

九尾は相変わらずの憎まれ口でナルトを煽ってきた。
だがもう心に隙のあったナルトではない。

「いつまでもオレを舐めてんじゃねーぞ」

ナルトがキッと九尾を睨むと、今まで見たことのない本気の目に九尾は前足を後ろに引いた。
だがこんな小僧に言われっぱなしでいられるかと、九尾はナルトにとって痛いところであるサスケのことも絡めて、ナルトの神経を逆撫でようとした。

「お前は分かっていない!甘いのだ!お前は本当に皆の憎しみを消し受け止めることが出来るのか!?サスケの憎しみでさえお前は受け止められなかっただろう」

「お前は誰であろうと憎しみを消してやることも受け止めてやる事もできやしない!」

「……で話は終わりか?」

「何だと?」
「だからって怖気付いて何もしねーとでも?そうなりゃお前の思うツボだよな、九尾」

ナルトは九尾の檻の中に入り、左手をふっと上げた。
すると見下していた九尾の首に鳥居がかかり、強制的にその顔が下がる。ナルトは水面にくっついた九尾の顔に乗っかり、その大きな瞳の前で大声を上げた。

「お前こそ甘いんだよ!」

「自分の決めたことに疑問持ったら終わりだ。サスケは何とかしてみせるし、戦争だってどうにかしてみせる」

昔ならこんなに強気で返してくることはなかった。
憎しみに囚われ、少し突けば崩れる小僧だったのに。

「フン……あのちんちくりんが、随分楯突くようになったじゃねーか」
「なあ九尾。オレはな、いつかおめーの中の憎しみも何とかしたいって思ってる」
「!!?」
「オレを散々苦しめたお前だけど、憎しみに振り回されんのが良い気がしねーのはオレも知ってる」


思いもよらない発言に、九尾はサキの言葉を思い返してしまった。
『九喇嘛は九喇嘛でさ、ナルトのこときちんと見極めてよ。信用できるか否か』と。
信用も何もこんなガキに何が出来ると思えん。
ワシはお前と違って人間が嫌いなのだ――


「お前はバカか!?ワシは九尾だぞ。ちんちくりんにどうこうされる程落ちぶれちゃいねーし、ワシは憎しみの塊だ!」
「ならオッケーだ!オレはちんちくりんじゃねえし、そっちの方がやりがいがある!」


ナルトは九尾から降り、檻の外へ出た。
九尾を覆う強固な檻。それにそっと触れた。もう十六年もここに縛っている、サキが昔ナルトに内緒で開けたっていう檻だ――

「サキは尾獣を自由にしてやりたいんだって」
「突然何だ」
「人間と尾獣、どっちも好きだから一緒に生きたいって。お前も聞いてるだろ」

そうだ、アイツの絵空事は何度も何度もアイツがガキの頃から聞かされている。今世だけでない、前世のサキからも耳にタコができるほど聞かされた。
だから何だと苛つきながら九尾は尻尾を水面に叩きつけた。

「オレ、サキの夢叶えてやりたいんだ。サキには幸せになって欲しいし、笑ってて欲しいと思ってる。サキのこと好きだからさ」

「だから狭いだろうけどもうちっと我慢してくれよな、九尾。じゃあな」


ナルトは現実世界へ戻り、そして九尾はまた檻の中に独りになった。
好きだからアイツの夢を叶えたいだと――昔のマダラと同じようなことを言いやがる。
ダンッと大きく水面を叩き、九尾は丸くなった。
こんな戦いもう知るか、と不貞腐れ眠りについた。


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