尾獣玉
ナルトが尾獣モードの修行を始めて数時間後、天井まで綺麗に岩ブロックが積み上がった。
「やったってばよ!!」
「お疲れ様!この短時間で凄いよ」
「やるじゃねーか。ならこれから最後の修行だ、場所を移すぜ」
ビーはナルトとサキを古い遺跡に案内した。
ボロボロの壁には八尾らしき絵が描かれていていた。
恐らく前世のサキが結界を張る前、人間とまだ接していた時代のものだろう。
(こんなに古い物まで残ってるんだ、凄いな)
じっと壁画を見ているうちに、ナルトが八尾の石像の中にあるボタンを押して、白い部屋へと続く扉が開いた。
「これから人柱力が使う最強の術を教える。オーライ?準備はオーケー?」
「うん!ちゃんとモノにしてコントロールしきっとかねーと。で、まずは何すんの?」
「尾獣モードで尾獣化しろ。ここが大一番!」
ビーが尾獣化の手本を見せると、ナルトも続けて両手を合わせてチャクラを練った。
高密度のチャクラが溢れ、チリチリと音を立てていく。
「九尾の姿をしっかりイメージして」
「うおおおおお!!」
ボフンッ
ん?
突然視界からナルトが消えて、瞬きを数回。
ゆっくり視線を下に向けると、そこには膝上くらいの大きさの小狐がいた。頬には三本線が入っていて明らかにナルトだ。
「ぷっ……あははは!!可愛い」
「笑いどころじゃねえってばよ!」
「ダメか。九尾と本当に仲良くなったわけじゃないからな……尾獣化は惨敗」
「ハアー、疲れた。結構九尾チャクラ使ったのに無理なのかよ」
元に戻ったナルトはバタンと床に倒れ、肩で息をしていた。チャクラ綱引きで九尾から引っ張り出した分では尾獣化には足りない。
かと言って九尾がナルトに協力してくれるかというとそれもない。
『どうすんだ。尾獣玉教えれねえぞ』
脳内で八尾が語りかけてきた。予想外のことに牛鬼もビーも手を上げる。
『んー……どうしたらいいかな』
『それにこのモードのリスクを教えといた方がいいんじゃねえのか』
『え!?ビーさん教えてなかったの?』
『その辺ゴチャゴチャ。バトンタッチ!オレはタジタジ』
『オレが説明する。表に出せ』
そうして八尾の口から尾獣モードの危険性が告げられた。尾獣モードを使用している間は、ナルトのチャクラは九尾にガンガン取られる。そしてナルトチャクラがなくなった日には命を落としてしまうのだと。
それにナルトの十八番である影分身をやろうものなら、チャクラは等分され一気になくなる。
「リスクでけえ……それなのに人柱力の最強の技も出来ねえのかよ」
「まあ尾獣玉は諦めろ」
「尾獣玉?」
「尾獣の放つチャクラの圧縮弾みたいなものだよ」
「ああ、九尾が使ってた黒いヤツか」
「ちょうどゲロを吐く感覚に似てる」
「うし!ちょっとこのモードでやってみるってばよ」
ナルトは尾獣モードのまま、口に手を突っ込んで普通に吐き出した。
「大丈夫?まあでもリスクはあっても、九尾チャクラの強さは規格外だよ。螺旋丸に九尾チャクラを込めるだけでも十分パワーアップになると思うし」
「でも螺旋丸は影分身しねーと出来ねえからこのモードは向かなくないか?チャクラの放出係と形態変化の係、二人分の手が……」
「尾獣チャクラ、お前の手足と同じ感覚。本物の手足と錯覚!」
「岩積み上げた時みたいにやれば大丈夫だよ」
「そっか!!」
ナルトは両肩からチャクラの手を二本作って形態変化を担わせた。両手はチャクラを放出し、圧縮していつもの螺旋丸を形成していく。
が、いつもと色が異なる。
「あれ?」
「「!?」」
ナルトの手にできた黒色の球体はすぐ様爆ぜてナルトは後ろによろけた。
「今の尾獣玉になりかけてませんでした?」
「ああ、何だ今の。おい、ナルト。これ誰に教わった」
「エロ仙人……ああ、自来也先生ね!術を作ったのは四代目火影だけど」
「螺旋丸!これは尾獣玉とそっくりのやり方!共通!」
昔ビーは四代目と対峙したことがあるみたいだ。
その時の尾獣玉を参考に作られたのが螺旋丸。一目見て術を考案してしまう四代目の才はやはり天才と言わざるを得ない。
そんな術をナルトが既に会得している、こんな幸運乗っからないわけにいかない。
「まるでお前に尾獣玉を託すかのごとく強運!」
「これなら行けるよ!」
もう一回やってみてと目を輝かせるサキに対してナルトは弱音をこぼす。やった本人にしか分からない壁があったのだろう。
「でもなんか、螺旋丸みたいに上手くいかねー」
「それは尾獣チャクラのバランスが悪かったから。プラスの黒チャクラを8割とマイナスの白チャクラが2割の感覚かな」
サキは右手を前に突き出して尾獣玉を形成した。
八尾や九尾と違って小さいが、その分ナルトの螺旋丸と似て分かりやすいだろう。
「サキも尾獣玉出来るんだ!」
「もちろん!さ、ナルト!ここからは私もビシバシ指導してくからね!どうせ数字で言ったって分かんないんだから、体で覚えてもらうよ」
「酷え!ッけどそうだからしゃーない。頼むぜ!サキ!」
***
***
その頃亀島の外では、我愛羅の開戦挨拶によりこれまでいがみ合っていた五里がまとまり結束していた。
第一部隊、戦闘中距離部隊、隊長をダルイ。
第二部隊、戦闘近距離部隊、隊長を黄ツチ。
第三部隊、戦闘近中距離部隊、隊長をはたけカカシ。
第四部隊、戦闘遠距離部隊、隊長を我愛羅。
第五部隊、戦闘特別部隊、隊長をミフネ。
その他奇襲部隊に後方支援医療部隊、本部に構える情報部隊と感知部隊。
総兵力はおよそ八万。対する敵はおよそ十万。
決して勝ち目のない数字ではない。
各戦場へ隊長を先頭とし部隊が分かれていく。
第三部隊隊長のカカシにとっては二度目の戦争になる。
前回の大戦では、オビトとリンを失った。今回はサキとナルトを守れるように、そして自分も仲間も死なないように――
(オビト、リン。力を貸してくれ……)
そうして現着した森の中で懐かしい顔に出会った。
再不斬に白。かつて敵として戦い、看取った彼らとまた相対するとは。
敵は白ゼツだけではない、薬師カブトの穢土転生によってかつて名を馳せた優秀な忍が多数現世に復活していた。
ただでさえ尾獣とマダラを相手しなければいけないというのに、敵も本気だということだ。
カカシは部隊に指示を出し、乱戦が始まった。
***
***
=亀島 遺跡内=
先程からナルトは何度も尾獣玉を手元で破裂させている。一時間前まではとても良かったのに――
「ナルト、集中力切れた?休む?」
「んー、、実はさっきから気になることがあって」
尾獣モードが切れたナルトは床に座って、サキとビーを交互に見やる。
遂に来たか、とサキは「何?」と聞き返した。
「うーん、さっき九尾のチャクラを感じた気がしたんだ……サキはなんか感じなかった?」
「感じたよ」
「やっぱり。でもオレ以外に九尾のチャクラを持ってる奴なんているのか?」
「私も前世で死んでから木ノ葉に来るまでの記憶はないから……そんな存在が現れるのにしてもその期間だと思う。もしくは暁の罠か」
「……トイレどこ?」
「外出て左の入口に入れ」
ビーは何の気なしにトイレの場所を答え、ナルトはすぐに白い空間から外へ出て行った。
『良いのか、本当に。監督不行きで怒られんじゃねーの』
サキとビーの立場を客観視して、牛鬼は心配の声を上げた。
「怒られるだけで済むなら全然良いよ」
「でもやめる気はない?叱責やむを得ない?」
「勿論。尾獣を助けてこの戦争を終わらせるんだから。守られるばかりなんてあり得ない」
「たく、ナルトに離されちまう。さっさと行くぜ」
「うん!!」
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