最後の修行
=亀の甲羅内=
動物の生態調査を終えた頃に、アオバとモトイだけが帰ってきた。ヤマトは一緒ではない。
島からもヤマトのチャクラは感じられなかった。
「ヤマト隊長は?さっきまた天地がひっくり返ったし、この島どうなってんだってばよ」
「詳しく調べてもらっている。お前は心配するな」
アオバは平静を装っていたが嘘なのは分かる。ナルトに気づかなれない程度に外を感知していたが、明らかに暁と交戦していた。
サキは状況確認のためにアオバの脳内に語りかけた。
『アオバさん、声は出さずに頭の中で会話してください。山中一族の術と同系統と思ってくれれば結構です』
『サキ、か!』
『ヤマトさんは?』
『暁に、薬師カブトに連れて行かれた』
連れて行かれたということは人質か。それとも木遁使いを手中に収めたかったのか……敵側の意図は分からないが、状況はどんどん悪化している。
『今後の対応について、本部の指示は?』
『ヤマトさんから情報が奪われることは必至だ。相手に時間を与えないために、今日にでも開戦する事が決まった。ヤマトさんの救出は別働隊が担当することになりそうだ』
『そうですか……』
もう開戦してしまう。
本当ならすぐにでもこの島から出て行きたいところだけど……
『あの、保護拘束は継続で良いんですか』
『勿論だ。ナルトとビーさんがここから出て行かない様にフォローしてくれ』
約束は約束だ。敵に尾獣の居場所がバレて、人質も取られているのでは本部が考えを変えるわけがない。
(今は我慢……機会は必ず来る。いや作る!)
アオバに視線を送って小さく頷いた。
「ここでの任務は終わった。早く里に戻ろうぜ」
サスケとの最終決戦のために里で待つのだとナルトは言い出した。ナルトからしてみれば当たり前の発想だが、今はまだダメだとサキはナルトの行手を阻んだ。
「ストップ、ナルト」
「何で止めるんだってば」
「任務は終わったけど、ナルトの修行はまだ途中かけなんじゃない?」
サキはビーに目配せをした。
察しのいいビーは背中に蛸足を生やして建屋内の石像を破壊した。
そして二本の愛刀で岩を玩具の積み木のように切断すると、蛸足で綺麗に天井まで積み上げた。
「尾獣チャクラをコントロールしきってない。オレ様がお前の修行を仕切るぅ」
「オオオオ!!」
自分に出来ないことを軽々やったビーを見てナルトのやる気に火がつき、敵襲前に習得した尾獣モードになった。
九尾チャクラを纏いオレンジ色に発光している。初めて見る新しいモードにサキは目を輝かせた。
(これが尾獣モード。凄い、ちゃんと九尾チャクラを自分のものにしてる)
ナルトは恐る恐る右手のチャクラを増幅、伸ばしていきブロック状の岩を掴んだ。ビーがやったようにブロックを持ち上げて――
少し力を込めたつもりだったのだろう。
バカッ
岩は簡単に粉砕されてしまった。それは九尾モードの強さを示すだけでなく、その扱いの難しさを知らしめた。
そんなわけでナルトが積み岩に専念してる間に、サキはビーを壁沿いまで引っ張りナルトに聞こえないように状況を伝えた。
「外の状況ですけど、暁がまた来てヤマトさんを人質に。今日にでも開戦する様です。私達はナルトを外に出さないことが最優先事項みたい」
「フン、サキにしてはえらく大人しい動向。もしかして休暇に変更?」
揶揄うようにビーに言われた。
それに対して奥にいるナルトを見ながら答えた。
「まさか。機会を作るんですよ」
「?」
「ここを出る鍵はナルトだと思うんです。私もビーさんも戦争のことは耳に入ってるので、自分から動いたら反逆行為になっちゃいます」
「ハハ、違いねえ。だからナルトの修行任せてきたのか?」
「ナルトは元々仙人モードっていう感知に優れた術を持ってます。それに尾獣チャクラモードも感知が得意みたいだから気づかせるのはそんなに難しくない」
「それよりも尾獣玉――もし戦場に行くなら相手はマダラと尾獣達になるのでナルトにも覚えてもらわないと。あまり時間はないけど、ナルトの成長スピードなら何とかなるはず」
「戦う気満々だな。つーかサキも尾獣玉は打てんのか?」
「もちろん。尾はなくたって尾獣ですよ。私」
ニッと歯を見せて笑うと、ビーも口角を上げた。
「なら次の修行は二人体制だな。そっちのが"早い"」
「ビーさんこそ、もう休暇はいいんですか?」
「そろそろ外の空気が恋しいからな」
やっぱりこの人は優しい人だ。
話している間にもナルトは岩を壊さずに掴み上げることが出来るようになっていた。ナルトの成長速度はやはり凄い。このままのペースなら数時間以内に積み木の訓練は終わりそうだ。
(頑張れ、ナルト)
ナルトの修行中、安全のために土影オオノキの能力によって島亀は本部の後方に移動させられた。
完全に人柱力たちを守る陣形だが、これから戦場に行くのであればサキ達にとっても好都合な位置だ。
外はじきに開戦になる――――
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