真実の滝


=真実の滝=

真実の滝とは尾獣チャクラをコントロールするための修行の前段階となる場所だ。
数十メートルほどの高さのある滝で、生い茂る森の中にひっそりと存在している。滝の真ん前には小さな浮島があって、そこに座って目を閉じると、自分の真の姿が見られるらしい。

ナルトはサキがガイを診ている間に一度挑戦したが、自分の底にある闇の部分と上手く向き合えなかった。だから今回は二回目の挑戦。

「大丈夫だ、まあ見てろ」

サキの隣でビーが言う。横目でビーを見ると、自信ありげに笑っていて、サキも釣られて笑う。

「別に心配してませんよ。今のナルトの顔見たら」

二人の期待通り、ナルトは今度こそ自分の裏側、闇のナルトを受け入れた。

「へへ……」
「喜ぶのは早いぜ。バカヤローコノヤロー!」

ビーは水面を歩き、浮島を飛び越えて滝の真ん前で振り返った。両手でリズムを取りながら、ラップ口調で宣言する。

「これから九尾の力のコントロールをやってみるか!今からオレがお前の師匠!覚悟を決めろ、でないと死傷!」
「よっしゃー!!」
「サキも手伝え。お前がいれば九尾も真ん丸。ナルトの修行もすんなり収まる」

サキも頷いて水面を歩こうとしたが、脳内に不機嫌そうな声が響いて足を止めた。

「ビーさん、ごめん。ちょっと用事」
「あ゛ん!?」
「あはは、、私がいなくてもビーさんがいれば十分ですよ」

ぴょいとビーの前までジャンプして拳を突き出し、初めて会った時のように拳を合わせる。ビーならこれで察してくれるだろうと。

「ナルトのことお願いします。用が済んだら合流するので」

ビーはサキの心を読んで納得したらしい。ナルトは頭上にはてなマークを浮かべていたが、ビーが行くぞと言うと大人しくついていった。

サキは、ビーとナルト、それから監督役のヤマトの三人が滝の中に入っていくのを手を振って見送った。
そして目を瞑り、先程脳内に語りかけてきた相手と会話をする。




=精神空間=

黄みがかった檻の中で不機嫌そうに突っ伏している九喇嘛の前に立った。

「……言う通りにしたよ。こんな所で中立を持ち出してくるなんて」
「けっ、お前の鎖を使われちゃフェアじゃないだろうが」

これからナルトが行うのは、チャクラの綱引き――九尾の封印を解き、自由になった九尾チャクラを己のチャクラで引っ張り出し、奪えたチャクラを支配下に置くという命懸けな儀式みたいなものだ。
そんな勝負に紅鎖を持ち出せばナルトの完勝は間違いなしだろう。それでは九喇嘛の言うようにフェアではない。

「でも牛鬼とビーさんも協力するみたいだし、九喇嘛でも厳しいんじゃない?……ナルトのことまだ嫌い?」
「あんなガキを好きになれと?お前と一緒にするな!」

九喇嘛はびったんびったん水面を叩き、怒りを表す。どちらも好きだから、ビーと牛鬼のように仲良くなってくれたら嬉しいことこの上ないけれど、現実はそう簡単に上手くいかない。

「その慎重なところは九喇嘛の長所だよね。九喇嘛は九喇嘛でさ、ナルトのこときちんと見極めてよ。信用できるか否か」
「フン」

九喇嘛の中から見える外の様子から、そろそろナルトが精神空間に入ってきそうだった。
サキは檻の中に入って九喇嘛の眉間の上に乗ると、モフモフの壁に抱きついた。

「あまり怪我しないようにね。終わった頃にまた来るよ」
「お前、ワシが負けると思ってるな」
「えー、だって二人には仲良くしてもらいたいから。友達って良いものだよ」
「けっ、さっさと出てけ」

頭を振られて、サキは檻の外に飛び退いた。
そして九喇嘛に向けて手を振って、現実の世界へ戻っていった。



=真実の滝=

目を開くと雲隠れのモトイが心配そうな顔をして立っていた。

「ああ、目を覚ましたか。数分間動かないから心配したぞ」
「あはは、すみません」

銀色の髪に手を添えて笑って答えた。モトイは問題ないことが分かると用事とはなんだったのかと質問してきた。
九喇嘛の言い分を聞いただけで、本当は用事なんてないのだけれど……サキはドドドとうるさい真実の滝を見て指をさした。

良い機会だ――

「私ももう一人の自分を見ておきたくて」
「そうか。好きに使うと良い」
「あ、モトイさん。ガイさんの様子見てきてもらえませんか。また具合悪くなってないか」
「ああ。一人で大丈夫か?」
「ええ。問題ないですよ」

何が出てくるかは察しがついている。
サキは浮島に座り、また目を閉じた。


***


最初に相手を見た時の感想はああ、やっぱりだった。
真っ白の何もない空間に、銀色の長髪と金色の瞳の女性が立っていた。

「えーっと、貴方が前世の私、でいいのかな」
『ええ。合ってるわ』

ふわりと笑う彼女は同じ顔のはずなのに、使ってる表情筋が違うのか和やかでどこか神々しい。彼女の人生の一端を見てきたけれど、実際に面と向かって会うと緊張してしまう。

『何か悩み事?』
「あー……えっと、」

頭の中には一つだけ質問が浮かんでいた。彼女にしか聞けないことだ。

「……マダラのこと」

この孤島に来る前、サクラに聞かれたこと――うちはマダラを恨んでいるか、うちはマダラを殺せるか。

サキ自身は上手く答えることができなかった件について前世の彼女に伝えると、自分を殺した相手の話にも関わらず彼女の顔は微塵も陰りを見せなかった。

『貴方の意見が定まらないのは、私の後悔が足を引っ張ってるからかもしれない』
「でも私達って別人格でしょう?後悔って……」
『負の感情というのは残りやすいのよ。恐怖心だって引き継いでたでしょう』

そう言われて妙に納得してしまった。記憶を取り戻す前から確かに尾を引いていましたね、写輪眼へのトラウマ、と。

「じゃあ、その後悔について聞いても良い?」
『……焦らしてもしょうがないから単刀直入に言うと、私はマダラのことを助けたい』

彼女は澄んだ瞳でそう言った。
最期に見た彼女はあんなに苦しんで泣いていたのに。自分を裏切って殺した相手を助けたいなんて、前世の自分といえど少し理解に苦しんだ。

「助けるって……あの人を?何から?」
『孤独や闇から。私はマダラのことを愛していたけれど、慎重になりすぎて彼が辛かった時期に寄り添えなかった』

マダラが唯一残っていた弟が死んでしまった時、マダラが柱間と築き上げた木ノ葉隠れの里で居場所を失った時。彼女はマダラから呼ばれない限り、決して自分から結界の外には行かなかった。
愛していたのに、人間と尾獣の線引きに囚われて踏み出せなかった。

サキには最近思い当たる節があった。カカシとの将来を見てなかった自分のことだ。

『マダラを止められなかったのも、尾獣を不自由にさせたのも私のせい。現世の貴方には苦労をかけてごめんなさい』
「……自分に謝られるのは変な感じがする」
『ハハ、じゃあ今度は私が質問するね。"サキ"はマダラをどうしたい?』

彼女の話を聞いて、スーッとわだかまりが消えていく感覚があった。そうか、このマダラに対するモヤモヤは彼女の後悔だったんだ、と。
記憶だけでは追いきれなかった彼女の真意を知って、自分がどうしたいのか答えが出た。

「貴方の後悔は私が晴らす。マダラも助けるよ」
『いいの?』
「私、大切なものは絶対見放さないの主義なの。貴方がいなければ、今の私はいないんだもん。だから前世の記憶も気持ちも大切にしたい」
『……ありがとう。なら、私の代わりに伝えてくれる?彼に__』

金色の瞳が結び合い、気持ちの受け渡しを行う。
多くは語らない彼女の一言一言をサキは大事に仕舞い込んだ。

「分かった。伝えるよ」
『随分強くなったんだ。やっぱり人間って凄いのね』
「うん、私もそう思う」

サキがにこやかに笑うと前世の自分も続けて笑った。それは鏡写しのような光景で、いつの間にかサキの緊張は吹き飛んでいた。

「それじゃ、そろそろ戻るね。多分ナルトと九喇嘛の勝負が終わってるはずだから」
『会いにきてくれたお礼に一つ贈り物をするわ』
「贈り物?」

彼女はサキの心臓部に手を伸ばし、印を結んだ。それは前世の記憶を全て継いでるはずのサキにも身に覚えの無いものだった。

「何の印?」
『浄土で覚えたものだから貴方が知らなくて当然ね』
「浄土!?」

追求しようとすると、彼女はトンとサキの胸を押して後退させた。バランスを取るために一歩後ろに足を出した瞬間、真っ白の空間は消え去り、またうるさい滝の前に戻ってきた。


***

「何の印なんだろう……」

「……まあいいか。きっと良いものだろうから」

独り言を呟き、晴れやかな気持ちで伸びをした。
視界に広がるのは大きな滝と何処までもつづく森。
聞こえてくるのは勢いよく落ちる水音と猛獣たちの鳴き声――

「って、あんな風に約束しちゃったけど、まず戦場に行かないと!どうやって戦場に向かえば良いのよ!」

ここは何処かの孤島。
そして保護拘束対象であることに一度は頷いてしまったのだから、簡単に島を離れるわけにはいかない。

「……ど、どうしよう」



prev      next
目次



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -