楽園の孤島


=小舟の上=

敵対する暁の手が及ばないよう人柱力のナルトと尾獣の生まれ変わりであるサキは、雲隠れにあるという孤島に向かっていた。

辺りは霧が濃く不気味な雰囲気だが、ナルトは極秘の生物調査という名目でここに来ているため胸が踊っていた。
それ以外にもう一つ、ナルトがフンフンと鼻歌を歌う理由があった。

「機嫌良さそうだね、どうしたの?」

ヤマトが質問するとナルトは、妙木山にいるデカじいちゃん仙人から予言を受けたのだと語り出した。
ナルトが今一番に成し得たい九尾チャクラのコントロール、楽園の孤島でそれに協力してくれる者に巡り会えると言われたみたいだ。

「へえ、タコがねえ」

ナルトの話を聞き終わってヤマトが呟いた。
その横で水面を観察してただけのサキは、褐色肌のグラサン男と彼の中に封印されている"タコ"を思い出す。

(向かう先にはビーさんがいるはず……予言って凄いんだな)

(よし。ビーさんに会ったらナルトを紹介して、修行つけてもらえるようお願いしてみよう)

そう意気込んで、船の進行方向を見てみると、霧の合間から薄気味悪い島の影が見えた。

「ねえ、もしかしてあの島じゃない?」
「……全然"楽園の孤島"じゃないってばよ」

キーッとか、グオオオとか動物、否猛獣の鳴き声が聞こえるし、針山のように岩が連なっていて死骸も転がっていた。
予言で"楽園の孤島"と聞いていただけあって、ナルトは酷く落胆した。サキも移管先の不気味っぷりに思わず苦笑いを浮かべてしまう。

そんな二人の表情を見て、後ろにいた雲隠れの使いの者は笑いながら答えた。

「木ノ葉の"死の森"みたいなもんです。なに、安全ですよ。生物達はこちらから何もしなければ襲ってきたりしません。ただ一つ…………この海岸に住む」


ガタンッ


男が全部を喋り切る前に小舟が大きく揺れた。舟の淵を掴んで海を覗くと、海面から巨大な吸盤をいくつも付けた足が這い出てきた。その正体は――

「タコの足!さあ、タコ!俺を導いてくれってばよ!」
「待って、ナルト!タコじゃないよ!」
「って、これは、イカだーーーーー!!!」

小舟の上は一気に阿鼻叫喚と化した。
船よりも何十倍も大きな巨大イカの出現で水が跳ね上がって、豪雨のように頭上に降り注ぐ。

「出たぁああーー!!こ、コイツだけには気をつけないとって言おうとした矢先に出たー!!」
「ンな!?」
「何ぃいいーーー!!」

こんな小さな舟、一発でも攻撃されたら沈没コースだ。
イカをなるべく傷つけないように撤退させるにはどうしたらいいかーーサキが答えを出すより早くもう一度大きく船が揺れると、イカの真横から薄赤色の拳が出現し、けたたましい衝撃音が皆の耳に届いた。

「イカはすっこんでろ!以下省略!!」

サキにはあの薄赤色に見覚えがあった。

「あれは……」
「キラービー様!」

巨大イカを一発で倒した巨大タコは急速に収縮し、その中心に褐色肌のキラービーが現れた。背中にタコ足が全て収まると、軽やかに甲板に着地した。

「人に変わった!?」
「タコのオッサン!ありがとだってばよ!」

窮地を助けてもらったナルト達はビーに感謝を述べる。
だが、ビーは出会って早々メモを取り出してうーんと考え込んだ。

ナルトとヤマトが声をかけたのに反応の薄いビーを見てサキは首を傾げた。それで何とか場を取り持とうと駆け足でビーに近寄って、見上げるようにして礼を言った。

「ビーさん、助けてくださってありがとうございます」
「おお、サキじゃねえか!」
「お久しぶりです」

小さな声で「牛鬼もね」と声をかけ、そしてビーの腕を掴んで呆けているナルトとヤマト達の元にビーを引っ張っていった。

「タコのオッサンと知り合いなのか?」
「うん。知り合ったのは最近だけどね。こちら八尾の人柱力のキラービーさん。それでこちらが九尾の人柱力のうずまきナルト。今回この島で一緒に生物調査をするのでよろしくお願いしますね!」
「よろしく頼むってばよ!」
「てばよ……てばヨー……」

ビーはナルトの差し出した手を取らずに何やらぶつぶつ呟いている。どうしたのか聞くとビーは両手を胸の位置まで上げてひらひらと振った。

「オレ様は休暇のためにこの島に来たんだ。生態調査なんか知ったこっちゃねえ」
「へ?」
「任務だか知らんが頑張れよ」
「ちょっ、ちょっとビーさん!?」

ナルトをさくっと紹介して仲良くさせるつもりが、何故か素っ気ない態度を取られてサキは混乱してしまう。ビーはサキ達を置き去りにして、先に船を降りてしまった。

「何で……雷影様に居場所教えたのまだ根に持ってるのかな」
「なあ、サキ。あのオッサンが八尾の人柱力ってマジ?」
「うん。さっき見た通り八尾チャクラを完全にコントロールしてる人だよ。ナルトの力になってくれると思ったんだけど……うまく引き合わせられなくてごめんね」

サキは口を尖らせながら謝った。釈然としない――ビーの人柄の良さは既に知っているからこそ、なんであんなに距離を取るのかが不思議だった。
そんなサキの表情を見て、心配をかけないようにナルトは明るく振る舞った。

「サキが謝ることないってばよ!オレ後でもう一回挨拶してくるから!」
「……うん。じゃあお願いね!」

ナルトのことだから大丈夫だろうと後のことはナルトに任せ、長い船旅を終えて、薄気味悪い孤島に上陸した。


***

***


孤島の中に唯一ある寝泊まり用の建屋で、サキが船酔いでダウンしたガイを回復させてる間、ナルトの方で一悶着あったようだ。

しばらくしてサキがナルトのところに戻ると何故かビーと仲良くなっていた。

ビーに事情を聞いたところ、最初の冷たい態度はナルトの口癖の「だってばよ」が己のラップ魂とマッチしなかったためだと言われた。
サキは見ていなかったけれど、ナルトが先刻のリベンジに来た巨大イカからビーの友人モトイを助け出したことで株が上がったという。

(ええ……ラップ魂……左様ですか)

サキが肩を落としていると、脳内に直接声が届く。
それは牛鬼の声だった。

『オレもビーにはよく振り回される。上手くいってよかったじゃねえか』

……牛鬼の言う通り。
個人的には意味不明な理由に思えてため息をつきたくなるが、何はともあれ誤解が解けたのは喜ばしいことだ。

(ナルトが喜んでるし、まあいいか)

ビーとラップ口調で会話しているナルトを見て、サキは気持ちを切り替えた。そしてナルト達と共に真実の滝という場所に向かった。


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