回想B


=???=

マダラと手を取って数ヶ月。
戦場に行く日以外、マダラはなるべく時間を作っては山に訪れては結界内に入った。

「そう頻繁に会いに来て、仲間とかに怪しまれてませんか」
「問題ない。サキに信用される方法について考えていたんだが、俺が人間の世界のことを教えよう」

マダラはサキの金色の目を覗き込んだ。

「目が輝いたな。お前口では色々いうが人間のことが気になってしょうがないんだな」


サキは顔を逸らし目を瞑る。
目は口ほどに物を言うとはまさにこの事だった。
そっぽを向くサキの横で、マダラは弟や仲間のこと、他の一族や五大国のことを話し始めた。
それ以外にも食べ物の話や草花の話をした。
サキは早々に話にのめり込み、興味深そうに相槌を打ちながら聞いていた。

(人間のことは嫌いじゃないと言っていたが、むしろ好きなのではないか)


***

時間も過ぎてマダラは集落に戻らなくてはならない時間になった。帰り際、サキはマダラにあるものを渡した。

「鈴のように見えるが?」
「音は鳴らないけどね。それ、会いたい時に念じながら振ってください。こっちから返答はしませんけど。マダラの声は私に届くので、日時、場所全て指定してもらって大丈夫」
「……!!」
「次からは結界の外で会いましょう。私が外に出ますから」



=火の国 河川=

うちは一族の集落から少し離れた森の中に、大きな滝があり、その下降には川が流れていた。
最初の頃は山の中で会っていたが、気分を変えて別の場所を指定してみたのだった。

「待ったか?」
「ううん。いつもと違う風景を楽しんでた」
「ここに来る途中に花畑があったが行ってみないか?」
「うん。行きたい」


マダラが案内したのは、シロツメクサの花畑だった。
マダラは花畑の中心にサキを引っ張って座らせた。
静かで気持ちのいい風が吹いている。

「綺麗だね。ここ」
「見かけた時、お前に似合うだろうなと思った。白が似合う」

マダラは一輪茎を千切って、サキの髪に当てがった。銀色の髪に白い花、統一感があって美しい。
花冠でも作れば似合うだろうが、あいにくマダラに作り方は分からなかった。

「マダラって花が好きなの?草花の話をたまにしてくれる」
「……好きというより、女はそういう話が好きだと思っていた」
「フフ、私のこと喜ばせたくて話題選んでたんだ。ありがとう。私自然は結構好きなんだ」

出会って半月、サキが初めて自分のことを話してくれた。マダラはそれが嬉しくて、次は別の花畑に連れて行くことを約束した。


***

しかし、次に訪れた花畑にはもう花がなかった。
戦の後らしく、綺麗とは程遠い。

「戦中だから仕方がないね」
「すまない」
「マダラが謝ることじゃないよ」

サキとマダラはすぐ近くの木陰に座った。
サキは戦場となったこの場所を見ながら、マダラに質問する。

「マダラは何のために戦っているの?」
「一族を守るためだ。死んでしまった兄弟のためにもな」
「兄弟って弟が一人いたよね」
「もともとは五人兄弟の長男だ。みな戦で死んでしまった」
「そうだったんだ。辛いことを思い出させてしまったならごめんなさい」
「大丈夫だ……」


マダラは幼い頃に千手一族に殺された弟達のことを思い返した。そして同時に仲の良かった友のことも思い出す。

「幼い頃はこの戦乱の世を終わらせたいと夢見ていた。だが戦を止めるには、敵の腹のうちを見て、自らも見せるしかない。そんな事はできないと、とうにその夢を諦めてしまった」
「……一度憎しみが生まれたら、それを忘れて相手を信じるのは難しいよね。よく分かるよ」


まさかサキが同意するとは思わず、マダラは顔色を窺った。彼女ならかつての友、柱間のように手が届かない夢でも語るのかと思ったのだが。


「サキはどんな世界を望んでいるんだ」

サキは暫し考えた。
答えて良いのか。こんな事を勝手に。仲間に相談もしないでいいのか、と。

「まだ答えられるほどの信用は得てないか。良いんだ、忘れてくれ」

マダラが立ちあがろうとすると裾が掴まれていて、弱々しい反発にまた座り直す。
サキの手は震えており、葛藤しているのが分かった。
マダラは黙って隣にいた。


「六道仙人はね、私たちのことを"尾獣"って呼んでいたの」
「ビジュウ?」
「尾を持つ獣で"尾獣"。私に尻尾はないけどね。六道仙人は死ぬ前に尾獣と人間の共生を望んだ。私は彼の夢を引き継いでるの」
「六道仙人の夢?」
「本当は隠れて暮らすことなんてしたくない。姿形が違っても心のあるもの同士、いつか分かり合えると信じてる。私の夢は貴方達人間と尾獣が平和な世界で生きていくことだよ」

サキは力みながら笑顔を作ってみせた。
声が震えていて、本心を語ることの恐れを物語っていた。今マダラを信じて、勇気を出して話してくれていることが分かる。

「でも仲間は私と考えが違ってて、反対されてばかりなんだ。あの子達の中には憎しみがある。実際人に襲われることが多かったのは、私じゃなくてあの子達だったから」

「難しいよね、分かり合うって」


マダラはサキを抱きしめた。
お互い胸の内に痛みがある。
それを慰め合うようにサキもマダラに手を回した。


「マダラ、もっと信じたい……貴方のことだけじゃない。人間をもっと信じたい」


マダラは何も言わずに腕の力を強めた。
そしてサキの夢を叶えてやりたいと思った。
そのためにはやはり戦乱の世を終わらせる必要がある。千手一族に勝つ必要が――


「サキ」

優しく耳元で言われた名前に、サキの耳が熱を帯びる。ゆっくりと近づいてくる顔を避ける事はできなかった。

マダラとサキの唇が重なり合った。
サキは顔を赤くして、離れていく唇から目を離すことができなかった。

「好きだ」
「な、、え?」
「分からないならもう一度言ってやろう。愛している」

マダラはサキの頬に優しく触れて、もう一度キスをする。サキは固まったままで、複雑な顔をしていた。

初めて好きだと言ってもらった。それはとても嬉しいことだ。けれどサキは尾獣で、マダラは人間だ。

「人と尾獣の間に愛情が芽生えるはずはない、か?」
「……」

首を横に振って、マダラを見つめた。

「私も…………貴方を、愛したい」


金色の瞳から涙が流れる。
その涙を掬って、マダラはもう一度耳元で囁いた。

「綺麗だ、サキ」



prev      next
目次



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -