回想A


=うちは一族 集落=

マダラは仲間を背負い、集落に戻ってきた。
彼の家に運び、少し経った頃に彼は目を覚ました。

「う、ここは」
「安心しろ。うちはの集落だ」
「そうか。戦はどうなりましたか?千手は?」
「ん、ああ。千手一族は退却した」

まず質問してくる内容が戦のことということは、仲間の記憶は既に消されているということだ。
マダラは男に怪我のことについて質問しようとした。
今日受けた傷を覚えているか、と。
しかし突然唇がひりつきだした。

(話せば口が裂ける。嘘ではないようだ)

マダラは何も言わずに仲間に休むよう言って自分の家に戻った。



=火の国 山間部=

先日の戦いでは、うちは一族が優勢に働いたことで、ある程度山を自由に歩くことが可能であった。
マダラは道のある場所以外にも、草木をかき分けて周辺を調べた。

「結界……これか。微妙に空間が歪んでいる。このまま進むと迷うか」

マダラはようやく見つけた空間の歪みに触れた。
あの女は生死を彷徨う人間しか訪れないと言っていたが、マダラほど強力な瞳力をもつ者には見破ることができた。
この世でただ一人、自分だけがあの女と話し合えるのかもしれない、マダラはそう思い、歪んだ空間に入り込んだ。



=???=

サキは今日も九喇嘛の住む山にいた。
昨日会ったマダラという男を警戒してのことだ。
案の定サキの張った結界に揺らぎが生じた。

「このチャクラ、またあの人だ」
「おい、行かない方がいい。あまり人間と関わるな」

九喇嘛は九本ある尾の一本でサキを引き止めた。

「忠告するだけだよ」

サキは九喇嘛の尻尾を撫でて、また一瞬で消えた。



=火の国 山間部=

マダラは一度結界内に入って、歩くことなく待っていた。必ず来るという確信があった。
マダラが瞬きをしている間に例の女が目の前に現れた。マダラの顔は綻ぶ。反対に女の顔は無表情だった。

「会えたな」
「どうしてまた来たんですか」
「言っただろう。俺はもっとお前を知りたい」
「だからダメなんですって。しつこい男は嫌われますよ」
「名前を教えてくれないか」
「……教えません。帰ってください」

女が指を鳴らすと、マダラは自分の集落に戻っていた。自身どころか他人まで瞬間移動できるとは。
マダラはとても忍術では説明できない不可思議な力を持つ女のことが余計に気になる。
また会いたいと言う思いが募るのだった。



=うちは一族 集落=

マダラは非常に強く、頼りになるリーダーであったが、砕けた会話を自らするような人間ではなかった。
その日は、マダラより数個年下の部下何人かが集会所に集まって噂話をしていた。
マダラもたまたま話途中に集会所に訪れ、気になる単語を耳にした。

「神の住む山?」
「あ!マダラさん!」

マダラが口を挟むと皆振り向いて驚く。
悪いことを話しているわけではないが、焦ったように話していたことをベラベラと語る。

「噂話ですよ。そういう山があるんだっていう。そこに人間が迷い込むと、どんな傷も治って疲れが取れるそうです。でも戻ってくるときには記憶がなくなっていて何も覚えていない。そんな噂です」
「でも嘘とは言い切れないって話してたんです。ほらこの間もあったでしょ。マダラさんが連れ帰ってきたじゃないですか」
「ああ」

マダラはあの空間が噂になっていることを初めて知った。口がひりついてマダラは噂話に混ざることは出来ない。

「どんなところなんだろ。一度でいいから行ってみてえ」と部下が呟いた。
マダラは心の中で同意した。
そして次の日も空間の歪みを探すのだった。




=???=

「どうしてまた来たの?貴方の眼だと入り口が見破られてしまうのが厄介だわ」

女は結界内に入った瞬間にそこにいた。
今日は前もって待ち構えていたのだ。


「お前は神なのか」
「神?」
「仲間がそう言っていた。ここに入った人間は傷が癒えて、だが記憶は無くして出てくると。人間から見ればこの山は曰く付きの名所だ」
「へえ。でも神じゃないです。人間って本当噂好きですよね」
「神ではないなら、、化身とはどう言った存在なんだ」
「……」


女はマダラから目線を外したまま黙っている。


「そんなに困る質問か」
「かなり」
「これは俺の仮説だが、お前は本心では人間と関わりたいと思っている。だから人間を救うし、人間の噂も放っておいている。お前ほど力があれば、本当にリスクを無くしたいなら、噂さえもかき消すはずだ。違うか?」


女は黙り続けている。
今日はすぐに帰されないこともあって、マダラは言葉を続けた。

「俺がお前と人間との架け橋になれないか」


女は目を丸くして、マダラを見つめた。
驚きも感じ取れるが、それ以上に期待している目だった。マダラはその目にやはり仮説は正しいのだと確信する。

「長年生きてきたけど、そんな事言う人は一人もいなかった……」


しばらくして「信じてみてもいいのかもしれない」と女はぼそりと呟いた。
そしてマダラに近づき、手を差し出した。


「……サキ」
「サキ?」
「私の名前」
「そうか。サキか」
「まだ全部は信用できないけど、少しずつ貴方を、人間を見定めていくことにする。このまま隔絶すべきか、心を開くか考える」


マダラはサキの手を取った。
神のような力を持っていても、その手は人間と同じく温かい。
生きているのだ、この世に。同じ世界に。



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