転機


=木ノ葉の里 中央病院=

りんごを押しつけ合う平和な光景。
病室の窓からカツンと音がして、二人で窓の外を見ると自来也がニヤニヤと笑みを浮かべながら立っていた。

「仲がいいのお」
「自来也さん!」
「サキももう回復したのか?」
「はい。さっき」
「今日は暁のことについて聞きに来たんだが、話せそうか」

サキの顔が急に陰り、カカシは「話したくない?」と優しげな声で尋ねた。サキは首を振って、自来也とカカシの顔を見つめた。

「暁の目的は知っての通り尾獣です。集めた尾獣は巨大な木像に封じ込められてました。なので暁の手のもので新たな人柱力を作るということでは無さそうです」
「木像か、どんなものだった」
「顔があって鎖に巻かれた手がこう、、」

サキは実際に見た木造のように、両手を前に突き出した。

「何のために封印しているかまでは分かりません。私は我愛羅の中の一尾が封印されている間、ずっとその木像に取り込まれて裏チャクラを練っていたみたいで、殆ど意識がありませんでした」
「やっぱり。ネジくんが救出後のサキを見て二種類のチャクラが混濁していると言っていたよ」
「……暁としては、裏チャクラを木像に送り込む事で何か都合が良かったんでしょうね。昔、イタチと鬼鮫に捕まった時、あの人たちは私のことを"心臓"だと言ったんです。当時は暁の言う"心臓"の意味が分からなかったけど、今回ようやくその意味が分かりました」

自来也もカカシも意味を察したようで嫌な顔をする。

「私はあの木像の"心臓"なんだって」
「……」
「その木像が何か調べなければならんな。他には何か気づいた事はないか?」

サキは悩んでいた。自分の前世のことを言うか言わないかを。
尾獣のために、人柱力のために、木ノ葉のために……皆にとって最善の道がどれか分からなかった。

自分が尾獣の生まれ変わりであること自体、サキには記憶のないことだ。真実だと言える根拠が乏しい。でも曖昧な情報だからといってずっと明かさなくていいのか。
二度も暁に狙われ、里に迷惑をかけたのにーー

(ダメだ、守りたいものが多すぎる)

(こんなの一人じゃ背負いきれない)


「……サキ、一人で抱え込まないでいいんだよ」

俯くサキに向かってカカシがそう言った。
自分の心が読んだのかとサキは驚いたが、その言葉がスーッと心の中で溶けて、頭の中のモヤモヤが薄れていった感覚があった。

「あ、、えっと…」
「大丈夫。俺たちは同じ里の仲間だ」

(仲間……)

サキは心の中で九尾に謝った。

(ごめん。前世の記憶は戻ってないけど、人に話すよ)

「……九尾には言うなって言われてたんですけど、隠し続けれるものじゃないし、隠す事で迷惑をかけそうなので二人と火影様には伝えます」
「ナルトにはいいの?」
「ナルトは……九尾に口止めされている件ので、九尾と話してからにします。じゃないと喧嘩になりそうなので」

サキは一呼吸おいてゆっくり口を開く。

「その――私は尾獣の生まれ変わりです」
「「ハア!?」」

病室に大声が鳴り響いた。
突然のカミングアウトに自来也もカカシも言葉を失う。
そりゃそうだよなとサキはその間に補足説明をしていく。

「九尾曰く尾のない人型の尾獣が存在したみたいです。それがどんな存在だったかは分からないです。前世の記憶はないし、九尾は教えてくれないので」
「……生まれ変わりか。確かに尾獣は死ねば復活すると聞くが。だがサキは人型尾獣というわけではなく人間だろう。歳だって順当にとっておるしのう」
「はい。完全な尾獣ではないみたいです。遺伝したのは裏チャクラと紅鎖を扱える事、尾獣と話せる事くらいで」
「そうか……話してくれてありがとうのう。木像についてはワシの方でも探っておく。暁の目的もこれで分かるはずだ。綱手への報告はどうする?病院から出られないならワシから言っておくか」
「いえ。これから外出許可をもらって自分で話します」

自来也は頷き、また窓から出ていくのをサキは見送った。カカシはずっと黙ったままで、サキのすり下ろしたりんごを見つめていた。

自来也は有益な情報として受け取ったのに対し、カカシは長年サキと一緒にいて、サキの気持ちまで推測してしまっていたのだ。

「いつから生まれ変わりだって知ったの?」
「砂に木ノ葉を襲撃されたあの時ですね……守鶴、一尾から前世のことを聞いて。尾獣を自由にしたい気持ちは変わらずあったので隠してきました。すみません」
「謝ることじゃないでしょ。大事な秘密を打ち明けてくれてありがとう。不安でいっぱいだったんでしょう」
「……はい」

今自分がどんな顔をしているのか分からなかったが、恐らく不安で堪らない顔をしてたのだろう。
カカシは気遣うように笑いかけてくれた。

「カカシさん、私のこと怖くないですか?その、尾獣の生まれ変わりって知って」
「怖くないよ。俺はサキがどういう子かよく知ってるから」
「あ、、ありがとう、ございます」

怖くない、それだけの言葉がとても嬉しかった。
ずっと隠して後ろめたかったことだけあって、目が熱くなる。
サキは大きく深呼吸を繰り返し、自分用に剥いたりんごを食べてから、綱手の元へ向かった。

(とにかく何か行動していかないと)

(尾獣を取り戻すんだーー)


***


火影執務室に向かう廊下で、サキの姿を目で追う人影があった。それは木ノ葉の里を裏から支える組織の一員。

「ダンゾウ様に報告しなくては」


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