生還


=高原=

「サキの方は大丈夫。発熱しててかなり疲弊してるけど、命に別状はない。ただ我愛羅くんは……」

サクラはサキと我愛羅の体を調べた後で首を振った。
全員が分かっていたことだけあって、誰も口を破らない。

「なんで我愛羅が。我愛羅ばっかりが、こんなんで死んだんじゃ、、、風影だぞ。風影になったばっかりだぞ」
「少し落ち着け。うずまきナルト」

ナルトの背後に座るチヨが声をかけると、ナルトは大粒の涙を浮かべて振り返った。

「うるせェーーー!!!!」

同じ人柱力、尾獣に人生を歪ませられた者同士、我愛羅の気持ちを同じく理解できるのはナルトしかいなかった。

「お前ら砂の忍が我愛羅の中に化け物なんか入れなきゃこんなことにはならなかったんだ!お前ら我愛羅が何を思ってたか、少しは聞いたことあるのか!?何が人柱力だ。偉そうに…………そんな言葉作って呼んでんじゃねえ!!」





ナルトの叫びにサキの意識が次第に戻ってくる。

(ナルトの声がする)

(ナルトが悲しんでる。怒ってる……)

(行かなきゃ)

自分の大切な人が苦しんでいるときに何故この体は動かないのか。
サキは守鶴が消えていく光景を思い出し、体に力を込めた。





ナルトは溢れる涙を腕で抑えて、嗚咽混じりの声で呟いた。

「サスケも助けられねえ、我愛羅も助けられねえ。三年も必死に修行して……三年前と何も変わらないじゃねえか」

ナルトの言葉にチヨは立ち上がり、我愛羅の腹に両手を置いた。チヨの手に青いチャクラが広がる。

「な、何をしてんだってばよ!」
「我愛羅くんを生き返らせる……」
「生き返らせる、そんな事本当にできんのか」
「この術はチヨばあ様だけの特別な術」

一緒にサソリと戦ったサクラ、それに白眼をもつネジ、カカシ、ガイの二人は長年の勘からその術に大きなリスクがかかる事を瞬時に理解した。

だが激闘を終えたチヨではチャクラが足りず、青いチャクラは段々と収縮していく。

「くそう、チャクラが足りぬ」
「俺のチャクラ、使ってくれってばよ。それって出来るか、ばあちゃん」
「ワシの手の上にお前の手を重ねろ」





サキは周りの声が聞こえ始めてから、ずっと体を動かそうと力を込めていた。誰かが我愛羅を助けようとしている事がわかるのに動けない自分が恨めしい。

(尾獣を守ることも、友達を守ることも出来なかった。お願いだから動いてよ。今動いてくれ)

(動けよ、このボンクラ!)


ピクリ


***


ナルトの手にもう二つ冷たい手が乗っかった。
ナルトが横を見ると青白い顔をしたサキがいた。話だけ聞こえていたサキは"自分自身のチャクラ"を送り始めた。

「な、、サキ」
「私は大丈夫……我愛羅を助けよう。ありがとう、おばあさん」

サキは恐らくそうだろうという、チヨのリスクを理解した上でお礼を言った。

チヨはサキを見て何も言わず頷いた。
ナルトの他にも自分が人柱力にした我愛羅には友がいたのだと安堵する。

「……ナルト、我愛羅を呼んで」


***


我愛羅が目を覚ました時、最初に視界に入ったのはナルトだった。

「我愛羅」
「ナルト……」
「お前を助けるためにみんな走ってたんだってばよ」

我愛羅が辺りを見渡すと砂隠れの里から駆けつけた忍達が自分を取り囲んでいた。皆我愛羅を慕い、心配し走ってきた者たちだ。

「我愛羅様!大丈夫ですか?」
「ああ」
「世話かけやがって」
「全くだ。心配かけやがる弟じゃんよ」
「なんだお前ら、偉そうに。我愛羅は風影なんだぞ。生意気な口聞くな」

若いクノイチやテマリが我愛羅に駆け寄っては笑顔を溢していた。

その様子を少し離れた位置からサキは座って見ていた。
我愛羅が生き返ってくれて心から嬉しい。
けれど同時に我愛羅の中に守鶴がいないこともサキには分かるのだ。

(守鶴……守れなくてごめんなさい)

万華鏡写輪眼でチャクラ切れを起こしていたカカシは、真ん中の集まりから離れてその場を見ていた。
皆が喜ぶ中、サキが暗い顔をしているのは容易く見つけられた。

(サキ……一尾のことを思っているんだろう)

ワイワイと我愛羅の生還を喜ぶ声が絶えない。
ナルトは我愛羅に「バアちゃんが凄い医療忍術で治してくれた」と恩人のことを告げた。
チヨはサクラに抱えられたまま目を開けない。

「今は疲れて寝ちまってるけど、バアちゃんも里に戻ったら元気に」
「違う……」

ナルトの言葉を遮ったのはカンクロウだった。続けてチヨが行ったのは医療忍術ではなく、自らの命を引き換えにした転生忍術を行った事を教えた。

かつてチヨは傀儡に生命を与える術を先頭に立って研究開発していた。けれどあまりにリスクが大きいことがわかり、封印された術だったのだ。

その禁術を使ってでも、チヨは最期我愛羅に命を託したのだった。それを導いたのは他でもない、我愛羅を思い続けたナルトの力だった。

我愛羅はぎこちなく立ち上がり、安らかに眠るチヨに祈りをあげた。

サキも会って間もない、あまりに早く別れを迎えてしまったチヨのために祈る。

(我愛羅を助けてくださってありがとうございます)


***


祈りが終わった後、悲しみを仕舞い込むために首を振って、サキは立ち上がった。
フラフラと我愛羅の元に駆け寄り、そして手を伸ばす。

「我愛羅……」
「ンな!!なななな!!サキ!?」
「ナルトうるさい!」

我愛羅を抱きしめるサキを見てナルトはどうしようもなく狼狽えた。ナルトだってサキとハグをした事はなかったのだ。
突然のことに動揺しているナルトを何か違う方向に勘違いしているサクラが抑えつけた。

カカシは中忍試験で自分に必死に逆らってきたサキを思い返しながら、サキから人柱力へ向けられる愛の深さに感心する。

「また会えてよかった」
「ああ。チヨばあ様のおかげだ……サキ、熱があるのか」
「このくらい平気……ってごめん!」

サキはバッと回していた手を離した。そして許可なく抱きしめたことについて謝ったが、我愛羅は特に意識しておらず問題ないと言った。
ハグについては本当に気にしていなさそうで、それでも表情にどこか陰りがあった。

サキなりに命を繋いでもらった後ろめたさが有るのかもと我愛羅の気持ちを推察して、彼の顔に触れながら語りかけた。

「我愛羅が風影としてこれから活躍するのをチヨばあ様も里のみんなも期待してる。私もね」
「……お前はいつも、俺を安心させてくれるな」
「当たり前だよ。我愛羅の友達はナルトだけじゃない。私だって我愛羅の友達だもん。早く里に帰ろう。みんな我愛羅の帰りを待ってるよ」
「ああ、そうだな」


***


サキは我愛羅から離れ、カカシの所に助けてくれた礼をしに行く。そこには随分とズタボロのカカシがいて驚いたものだ。

「本当我愛羅くんのこと好きだねえ」
「茶化さないでくださいよ、瀕死のカカシさん」
「目が覚めて早々口が減らないね」
「……照れ隠しですよ。助けていただいて感謝してます」

大衆の前でハグしたことはサキ的に少なからず恥ずかしいらしい。向こうでは我愛羅とナルト、サクラやカンクロウなどと面々が話を続けており、実際三年ぶりに会うナルトをサキはじっと眺めた。

「ナルトも強くなったんですね。少し見ないうちに逞しくなって」
「そうね」

我愛羅を助けるほどにまで成長したナルトがうんと先にいるような気がして、尾獣と人柱力を守るべき自分が何も出来なかったことが悔しかった。

「私は守れなかった……」

「ん?何か言った?」

ボソリと口にした一言はカカシには聞こえなかったみたいだ。
何でもないとサキが口を開こうとしたところ、突然視界がグワンと揺れて座っているカカシに向かって倒れ込んだ。
咄嗟に抱えたものの、チャクラ切れのカカシは支えきれずに二人して後ろに傾れ込んでしまった。

「何をしている!カカシ!」とすぐに熱血系ライバルのガイが直行してきた。ガイはサキを起き上がらせるのを手伝ってくれて、カカシのことも手を引っ張ってくれた。

サキの顔色は酷く悪くて息も荒い。この数十分本当に気合だけで起きていたのだろう。

「おっと。意識が飛んでいるな。ネジにリーよ。サキを持てるか?」
「ああ」
「おす!」

丁度ネジがサキを抱えたため、カカシはネジに頼み事をした。

「ネジくん、サキの今のチャクラ状況を見れるかい?」
「はい……二種類のチャクラが、混濁しています。片方はすごい濃密度で体に留まっていますね」
「そうか。ありがとう」

それからガイに支えられながら砂隠れの里まで戻った。


prev      next
目次



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -