緩やかな前進


=木ノ葉の里 第3演習場=

カカシは第3演習場に訪れていた。
ここは第七班の教え子と、かつてカカシのチームメイトが鈴取り合戦をした思い出の場所。そして任務中に殉職した者達の慰霊碑がある場所だ。

木陰ですでに何周もしているイチャイチャバイオレンスを読んでいると、ページの端に影が入り込んだ。少し視線をずらすと小さめの女性靴が捉えられた。

「カカシさん」
「どうしたの、サキ」

本を閉じて顔を上げると、濃紺色の髪の毛がゆらゆらと揺れていた。

「今日修行の日です」

頬を膨らませてサキがそう言った。以前嫌い合ってた頃のピリピリとした不機嫌顔ではなく、ぷくりと愛らしさのある怒り方。
自分にそんな顔を向けてくれるようになったのが何だか嬉しくてカカシはごめんねと謝りながら立ち上がった。

「目が笑ってます。全然反省してないでしょ」
「そんな事ないよ」

彼女と修行を始めてもう一年になる。
サキは前回の中忍試験を合格し、今は上忍を目指している最中だった。
サキが中忍になったことで外出禁止命令も解除されて、更に綱手の計らいでカカシと同じ任務にあたることが多かった。

ナルトが自来也と修行の旅にでて、サクラも綱手の弟子になってしまい……カカシは割とサキの修行に熱を入れてくれていた。
ただ約束をよく忘れるのが玉に瑕だった。

「あとニ年のうちに上忍になれると思いますか」
「なれるよ。俺が見てるんだから」
「……カカシさんってこういう時頼もしいですよね。ユサとヒラだったら私次第だって言いますよ、絶対」

ユサとヒラとは相変わらず連絡が取れていないようだ。どこに潜っているのか、はたまた……
でもサキは生きていると信じて疑わなかった。
そのためカカシは余計なことを言わないように言葉を選ぶ。

「よし!早く上忍になって、二人が帰ってきたら驚かせてやりますよ」
「うん。サキならできるよ」
「じゃあ、今日も修行よろしくお願いします!」


***


二年後、サキは言葉通り上忍になった。
三年間一度も裏チャクラを暴走させず、数々の任務を的確にこなした成果だった。
昇進決定の書類を嬉しそうに握りしめて、サキはカカシに礼を言う。

「カカシさんのおかげです。ありがとうございます!」
「サキが頑張った成果だよ。おめでとう。何かお祝いしないとね」

そう言って、カカシはサキを里のはずれにある懐石料理店に連れて行った。

「こんな高そうなところ連れてきてもらっていいんですか」
「今日くらいね。ナルトやサクラには秘密にしてね。サキだけ特別ね」
「えー、いつかポロッと言っちゃいそうだな」

サキは初めての高級店に多少狼狽えつつも、何が出てくるんだろうという期待で目を輝かせていた。
木造りの扉を開けると、上等な着物を着た女将が出迎えてくれた。

店内の照明は少し暗めで、四人席、二人席と広めに間隔を開けたテーブル席が複数ある他、調理場が覗けるカウンター席があった。あと二階に続く階段もあって、そちらは団体客用みたいだ。

「ご予約の席はこちらになります」
「はい、ありがとうございます」

サキは通された席を見てポカンと口を開けた。
それは入り口からはぱっと見存在しなかった壁に面したカウンター席だったのだ。

「え?あの、」
「ここしか席なかったのよ」
「嘘だ。他の席空いてるの見えなかったんですか。大体この席どの層に向けた席なんですか。お洒落な絵飾ってありますけど壁って……」
「一人で食事を楽しみたい人用?」
「今日は二人ですけど!?」
「文句言う子には奢ってあげないよ」
「うぐぐ、、、」

サキはカカシの顔をキッと睨んだ。
そしてすましたカカシの顔を見て気づいた。

「もしかしてマスクの下見られたくないんですか」

カカシは何も言わないで席に座る。肯定と取れる行動にサキは微妙に納得がいかず、とりあえず席に座ってから横を向いてやった。
じーっと端正な横顔を見ていると、カカシが「これ以上こっち向いてるとキスするからね」と釘を刺した。

ガタン

サキは速攻で正面に向き直った。

「うわー、変な本読みすぎですよ。超セクハラ発言です」
「冗談だよ。サキだって隠し事くらいあるでしょう。それと一緒」

(隠し事……そういえばカカシさんにも誰にも前世が尾獣だって話はしてないんだよな)

サキは自分のことを顧みて仕方ないと諦める。

「分かりました。じゃあ見ません」
「聞き分けがいいね。良い子良い子」
「子供扱いして。今日からカカシさんと同じ上忍なんですからね」
「そうね。期待してるよ」

それから一度たりとも横を見ずにサキは懐石料理を食べ尽くした。これまで食べたことのなかった味と美味しさにまさに胃袋を掴まれて、帰る頃にはカカシの素顔のことなんて忘れていた。




=木ノ葉の里 火影執務室=

上忍になってから一ヶ月。
サキに大きな任務が舞い込んできた。


「砂への遠征ですか!?」
「ああ。同盟国として技術や生活様式、教育機関を見て、里に有益な情報を持ち帰ってくる任務だ。当然砂からも使者が来る。交換留学みたいなもんだ」
「是非やらせてください!」
「よろしい。それから新しい風影への謁見もあるだろう。無礼のないように」
「はい!!」


綱手の粋な働きかけに感謝し、サキは笑顔で執務室を出て行った。綱手とシズネはクスリと笑い合う。


「サキ、喜んでいましたね」
「ああ。それだけ新しい風影に会えるのが嬉しいんだろうな」
「しかし良かったのですか。カカシさんを同行させなくて」
「アイツももう上忍になったんだ。いつまでもカカシ頼りじゃ困るしな。それにもう直ぐアイツらが帰ってくる頃合いだと思ってな」
「……ハ!」
「その時、カカシには相手を頼むつもりだ」


綱手はニヤリと笑って、火影室の中から見える晴天の空を見つめた。




=木ノ葉の里 正門=

砂の里への出発前に同期達に挨拶をして回る。本当はカカシにも挨拶したかったが家の場所を知らないため諦めた。

最後に見張りのイズモとコテツに挨拶をして、サキは意気揚々と門を越えよう足を出す。
すると地に足が触れる前に突然背後で木の葉が舞った。


「サキ」
「うわ!いきなり背後に現れるのやめてくださいよ」
「気をつけてね」
「……見送り来てくれたんですか?わざわざ?」
「そう、見送り。初の単独長期任務だしね」
「大丈夫ですよ。同盟国相手だし、戦いに行く任務じゃないですから」


サキは自信満々に笑った。それに砂隠れの里に行けることを心から喜んでいるし、カカシは流石に過保護だったかなと思い直した。


「失礼のないように。我愛羅くん絡みだと前が見えなくなるでしょう」
「そういう意味、、我愛羅も風影になったんだから失礼なんてしませんよ。それじゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃい」


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