アカデミー
=アカデミー 教室=
「さて今日からみんなと一緒に勉強する仲間が増える。入ってきてくれ」
イルカの合図でサキは教室の扉を開けた。
階段状になっている学習机、右側の中段あたりにナルトがいた。相変わらずのゴーグルをして、ニコニコ笑ってる。
「四ヶ月前に木ノ葉の里に来たサキだ。忍術のことも里のこともまだよく知らないだろうから、みんな仲良くしてくれよ」
「よろしくお願いします!」
「席はーー」
「先生!先生!俺の横空いてる!」
「じゃあナルトの横でいいか?」
「はい!」
元気に返事をして、ナルトの隣の席についた。今日からサキも入学、ナルトと一緒のアカデミー生活がスタートした。
***
サキが編入して数ヶ月、座学も実技もそこそこ良い成績を納めていた。教室ではナルトといる時間が多いけれど、積極的に他の生徒に話しかけており、クラスメイトとも仲良くやっている。
「ねえサキ、今日の帰り団子屋行こうよ」
「うん、行く!」
山中イノは気が強くて元気な女の子。クラスの中で最初に仲良くなった女の子だ。
「あ、ヒナタも誘っていい?」
「ヒナタ?仲良かったっけ」
「うん。この間教科書見せてくれた。お礼に何か奢る約束してたんだ。ヒナター!団子屋一緒に行こうよ」
「え!うん、、良いのかな?」
「勿論!」
日向ヒナタは反対に気弱で恥ずかしがり屋の女の子。ナルトが座学をサボる日は適当に席に座るサキだが、たまたま教科書を忘れた日隣に座ってたのがヒナタで、そこで初めて会話したのだ。
三人で団子を食べていると、イノがうちはサスケの話をし始めた。イノの意中の男の子だ。
「二人は好きな人いないの?」
「んー」
「えっと、、えっと」
ヒナタは隣で顔を真っ赤にする。ヒナタの好きな人はナルトなのだ。よくナルトの側にいるサキはヒナタの視線に気づいていた。
(まだヒナタは好きって言えないかな。陰ながら応援してるよ!ヒナタ)
無理に言わせるわけにもいかないので、イノが食いつくよう自分の話を適当に盛る。
「私年上の方が好きだなー」
「え!意外、、ってこともないか。忍の誰かとか?それとも学校の先輩?関わることなんてあったっけ?」
「特定の人はまだいないけど。えーっと、イルカ先生とかカッコいいと思う」
「えー!そりゃ優しいけどさ。かなり年上ね。サキのストライクゾーン広くない?」
「ストライクゾーン……って何?」
「対象範囲が広いって意味!」
「へえ」
「あのナルトとも仲良いしさー。家隣同士なんだっけ?」
「うん。ナルトは悪戯ばっかりするけど、話しかけてみたら楽しい良いやつだよ」
「物好きー」
サキはヒナタに笑いかけ、ヒナタも照れながら笑い返してくれた。
「逆に嫌いなタイプとかいるの?」
嫌いなタイプ、と言われて真っ先に思い浮かべたのは、はたけカカシだった。
(そういえば最近見てないな。平和でいいけど)
「あー、白髪のほうき頭」
「何そのピンポイントな人物」
「ふふ、よーし!忍になったら、超エリート忍者と付き合ってやる!」
「私もサスケくんゲットするぞー!」
イノとサキが二人で騒いでいるとヒナタの後ろから桃色の髪の女の子近づいてきた。
「こんの、イノブタ!!サスケくんはあんたのじゃないわよ!」
「あーら、サクラ。奇遇ねえ。話割って入ってこないでくれる!?」
「お母さんから買い物頼まれたのよ。混ざってほしくなかったらそんな大きな声で騒がないでくれる!?」
イノと喧嘩しているのは春野サクラ。彼女もクラスメイトで、実は結構勝気な性格だけど、教師と好きな人の前では猫被るユニークな女の子だ。サクラが好きなのもイノと同じうちはサスケだった。
「あはは、喧嘩長引きそうだから、私たち先に帰ろうか」
「うん」
サキはヒナタとこっそり団子屋から出た。
「サキちゃん、さっきの話だけど、その、私の好きな人」
「ナルト?」
「、、ぅん」
「ヒナタが話しかけてくれたらナルト嬉しいと思うよ。もし話しかけづらいなら引っ張っていってもいいし」
「ううん、私……頑張るね!」
「分かった。困ったことがあったら協力するからね」
「ありがとう、サキちゃん」
=アカデミー 演習場=
編入してから二年が経った。
今日の実技訓練は手裏剣。一年前金網の外から見ていたあの授業も、編入してからは何度も何度もやっている。
それに地下演習場でも。
「十枚中六枚、ギリギリ補習回避だー良かった」
「えー!サキ六枚も当たったのかよ!」
「うん。ナルトは?」
「三枚」
「あらら、補習だね……」
「チクショー!!」
ナルトが補習のためイルカから説明を受けている間、合格した生徒は先に教室に戻ることになった。
(ナルト大丈夫かな……)
振り返ると後ろを歩いてたうちはサスケと目が合った。
(うわ、ユサよりも顰めっ面。怖、、)
この年、うちは一族ではサスケ以外が全員殺されるという凄惨な事件が起きた。うちは一族は木ノ葉のエリートで名を馳せた一族であったのに。
サスケはしばらく学校を休んで、数週間で復帰した。ただでさえクールで無口なサスケだったけど、それ以降は目に憤りが染まっていてクールというよりも怖くて関わりづらかった。
(干渉しない方がいいか、、)
避けようと思った瞬間だった。
「お前、なんでワザと的から外しているんだ」
突然サスケの方からサキに話しかけてきた。予想外の行動にサキは間抜けな声を出した。
「へ?」
「明らかにトチリ方が初心者のじゃねーんだよ。担任も気づいてるのに注意しない。理由があるんだろ」
「何もないよ。本当に」
「座学はともかく、実技に関してはお前もトップの実力だ。次の組手の授業、相手は俺だ。俺は一番強くなる必要がある。本気でやれ」
普段無口なサスケがこうも真剣に話してくるなんて……その本気の目に思わず「分かった」と言ってしまったのだった。
=アカデミー 演習場=
「いっけー!サキ!サスケなんてボコボコにしちまえ」
「サスケくん頑張ってーー」
「サキちゃん、頑張って……」
(いや、観客の方が盛り上がるって何さ)
「ルールはいつも通り武器はクナイ一本のみ。忍術は授業で習ったもののみ使用可能だ」
イルカの合図でサキとサスケはお互い動き出した。サスケは走りながら印を結んでいる。
(分身の術か変わり身の術か、どっちにしろさせるか)
サキは印が結び終えられる前に一本しかないクナイを投げた。サスケはそれを避けるために印を途中かけにしてしまい、避けた先にサキの蹴りが飛んでくる。
それを腕でガードし、今度はサスケがクナイを構えた。クナイが数秒間のうちに幾つも弧を描く。サキは後方に下がりながらスレスレのところで避けた。
(危ない!本気にしたって殺す気か)
サキは後方に下がりながら先ほど投げたクナイの位置を測る。丁度演習場の木に刺さってくれていた。
サスケが真っ直ぐサキの体を刺しにくると、サキは先ほどのサスケより速く印を結んだ。
(変わり身の術!)
カンッ
サスケのクナイが丸太に刺さり、軽快な音がした。変わり身の移動先、クナイの刺さっていた木の下にサキは移動していた。そしてクナイを引き抜き、サスケと距離をとって向かい合った。
「二人ともやるな」
「チクショー!サスケなんてボコボコにするってばよー!サキー!!」
「あはは、ナルト。これ授業だよ」
「……チッ」
「サキって前まであんなに強かったっけ?」
「うーん」
生徒たちの中からサスケといい勝負をするサキの実力に疑問の声が上がってきた。
(やば、早く終わらせないと)
サキはまたサスケに突っ込んだ。
サスケのことが好きな女の子達から一際大きな声援が上がった。高い音を立ててクナイ同士が何度もぶつかり合う。
二人ともクナイを使い、攻撃防御を流れるように行なっていった。
ビュン ビュンッ
突然、視界の端から複数の手裏剣が飛んできた。
クナイを一本しか使ってはいけないルールだから、これを投げたのはサスケでもサキでもない。では誰が。
飛んでいく手裏剣と合わせて、イルカの怒号が演習場に響いた。
「ナルト!!!何してるんだ!!」
(ナルト!?)
サキはナルトの方に視線を送ってしまい、手裏剣を弾くための初動が遅れた。近づいてくる手裏剣を受ける覚悟で構えたが、サスケが投げられた全ての手裏剣をサキの分も弾き飛ばした。
「邪魔しやがって」
サスケは再びサキに狙いをつけたが、サキの意識はまだナルトの方へ向いていた。
だから気づいた。弾いた手裏剣がナルトのいる方向に飛んでいることに。
サスケのクナイがサキへ向かってきていたが、サキはそのクナイを防ぐことなく左手で受け止め、右手のクナイを飛んでいる手裏剣を狙って放った。
キンッ グサッ
手裏剣とクナイが当たり、地面に突き刺さる。
そしてクナイを受け止めた左手には鋭い痛みと熱が走った。
「お前!!」
「ーーッッ、いったああああ!!!」
「サキ、大丈夫か!?誰か今すぐ救急箱を」
「……ッ大丈夫ですよ。叫んだけど見た目ほど深くない。サスケがすぐに止めてくれたから」
「ナルト!!放課後職員室に来い!全員教室に戻ってろ」
演習場にはサキとサスケ、治療に専念するイルカと、事の発端を作ったナルトだけになった。
包帯で傷口を圧迫され、うっと唸る。
治療が粗方終わりイルカから保健室に行くように言われて立ち上がると、サスケがサキの胸ぐらを掴んだ。
「なんで避けなかった。なんで勝負を捨てた!本気でやれって言っただろうが!」
「おい、やめないかサスケ」
「テメェも邪魔しやがって!!」
サスケがナルトに怒りを向けようとするのをサキは間に入って止めた。
「サスケのいう本気と私の本気は発揮するところが違う。サスケは一番強い忍を目指してるみたいだけど、私は別に一番でなくたっていい」
「何だそれ、お前は何を目指してるんだよ」
「…………世界平和?」
「はあ?」
サキ以外からすれば意味の分からない解答にピリピリと張り詰めていた空気が変わった。
「ナルトも応援は嬉しいけど、ルールは守らなきゃダメ。ちゃんとイルカ先生に怒られて」
「う、、ごめん」
サキはそのままヘラヘラと笑って、仏頂面のサスケを教室まで引っ張ったのだった。
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