はたけカカシ


=木の葉の里 河原沿い=

サキは、はたけカカシに対するイライラを小石を蹴り飛ばすことで発散しながらアパートに向かっていた。

(何あの目つき、気に入らない)

狐憑きの噂が三代目によって禁じられてから、サキは周りから畏怖の目で見られることが増えた。あの子は危ない、呪われているなどと、遠くから見られるようになってしまったが、自分のしたことを考えれば仕方がないと思っていた。

けどはたけカカシは違う。これは何だ、何を隠しているのだ、とどこまでも底を覗く目だ。

サキはどんな人間かーー
記憶がなく自分のことさえあやふやなサキにとっては一番癇に障る人間だった。

「おーい、サキさん」
「げ」
「さっきはごめんね。お詫びにご飯でもどう?なんでも奢るよ」
「結構です。別に怒ってないです」
「そう。怒ってないなら蒸し返すけど、なんで狐憑きって呼ばれてるの?噂じゃなくて本人から聞きたいなあ」
「……火影様から口止めされているので言えません」
「火影様?」
「これから予定があるので失礼します」

サキは踵を返し実技試験の時より速く走って逃げた。意志の堅そうな顔を見て、カカシはそれ以上追うことはしなかった。




=地下演習場=

編入試験を終えた日の夜、サキは地下演習場に来ていた。結果の報告とはたけカカシへの愚痴をユサとヒラに言いに。

「はたけカカシさん、あの人何なんなの。口止めされてるはずでしょう!なのにあんなにズケズケと!!」
「カカシさんかー、目敏いねえ」
「あの人苦手」
「まあ、サキちゃんは実際怪しいものだから仕方がないよ」
「……」

ぐうの音も出ない正論だ。はたけカカシは忍としてサキが里の脅威でないか、何者なのか気にしているだけだ。上官に逆らっているが。

「拗ねているサキちゃんにニュースがあります。アカデミー編入が決定しそうなので、今後は僕とユサと二人体制で例の鎖の術の習得修行に入ります」
「それから戦えるように鍛える」
「え、戦えるように?」

三代目火影と話した晩、そんな話をしたか記憶を辿るが、そんな話をした覚えはなかった。正しく忍術を学べと話していただけなのに。

「サキが帰った後、火影様と三人で話したことがある。九尾を抑える鎖の術、そして九尾と対話できる能力、それらが他里に知られれば狙われる対象になるのではないかと」
「……それって他里にも尾獣が散らばってるから?」
「他里のことも九尾に聞いたの?」
「うん」

ユサとヒラは顔を見合わせた。やはり九尾とサキが精神空間で話し合っているということが不思議みたいだった。

「九尾と話せるってことは他里の尾獣とも話せる可能性があるし、鎖の術も有効だと思う。尾獣と友好関係を築けている里なんてない。だから君は貴重なんだ」

ヒラの言葉を聞いて、サキはその場に頭を抱えてしゃがみ込んだ。
九尾と話せること、当たり前のようにサキがしていたことは特別な力だと、それは人間にとって使い道がある反面危険なのだと気付かされて複雑な気持ちになった。

何か重いものがずっしり乗っかったように感じる。
それが、力を持つものの"責任"ということに気づくのは先のことだ。

サキが頭を抱える傍らでヒラはユサの小腹を突いていた。傷つけちゃったから何かフォローして、という意思表示だ。
ユサはヒラを煩わしいといった顔で睨みつけた。

(フォローって、そういうのはお前の役目だろう)
(たまには良いじゃん!)

ユサは内心ため息をついて、頭をかいた。彼は気の利いたことを言うのは苦手だった。だがいつもヒラに頼りっぱなしな自覚もあり、とりあえず頑張ることにした。

(自分の愛用品が突然起爆スイッチだって言われるようなもんか。いや、そういう事でもないのか。よく分からねえ)

「サキ……」とユサが名前を呼ぶと、サキは勢いよく顔を上げて立ち上がった。
さっきまでの落ち込みは何だったのかというほどに、吹っ切れた顔をしていた。

「特別な力かはよく分からないけど……自分の身を守るためにも、戦えるようにならないといけないんだね。分かった。強くなる。じゃなきゃ尾獣を自由にできないもんね」
「サキちゃんのソレ、やっぱり本気なんだね」
「うん」
「君のことは段々と理解してきたけど、正直その考えについてはあまり肯定できないかな」
「うん。それでもいい。どんなに時間がかかっても、誰に否定されても私絶対に諦めないからね」
「……そう。じゃあいつかサキちゃんに絆される日が来るのかな」
「ふふ、まあ期待しててよ」

サキの輝く瞳を見て、ユサはデカデカとため息をついた。人がせっかく励まそうとしたのに元気じゃねえかと。

けれど自分達が面倒を見ることになった女の子が想像より前向きで逞しいのは、ほんの少しだけ嬉しいことだった。
無愛想なユサの顔が少しだけ緩んでいるのを同期のヒラは見逃していなかった。




=火影執務室=

翌日カカシは三代目に呼び出された。昨日の今日だ。理由は本人もよく分かっている。

「カカシよ。呼び出された理由がわかるか」
「はい。ですが三代目。今隠したっていつか必ずバレると思います」
「分かっておる。だが今は困る。本人がまだ自分の力を理解できていないうちに周りが騒ぐものではない」
「……分かりました」

ユサとヒラから三代目に報告が上がり、この日を境にカカシはサキを監視することをやめたのだった。


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