卒業試験


=アカデミー=

学校に入ってやれ四年。サキは卒業試験を受けることになった。通常十二歳でアカデミーは卒業となる、もうそんな歳になっていた。

「今年の卒業試験は分身の術だ。俺とミズキ先生で審査員をするから、みんなはいつも通り実力を発揮してくれ」
「「はい!!」」

隣の席に座ってるナルトは顔を曇らせた。
ナルトは分身の術が一番苦手だからだ。

「ナルト、本番はもう少し先だし一緒に練習しよう。頑張ろう。ね!」
「おー、、」

今回こそ合格してやると意気込んでたナルトはかなり消沈している。サキは苦笑いをして窓の外を見た。

(この里に来てもう四年。学校も卒業の年だ。けど九尾を自由にする方法も、鎖の術も一切進んでないんだよな……)




=地下演習場=

半年前の話だ。地下演習場でユサとヒラといつも通りの修行をしていた時のこと。

「鎖の術、あれから一回も使えないけど術のイメージはあるんだよね」

ヒラは進捗がない現状に、あの事件で現れたという赤い鎖を幻扱いしていた。

「あるよ!こんなに毎日鎖を触ってるんだから!夢にだって見る鎖中毒だよ!」

実物を見てない人間からすれば、三年も訓練して微塵も進歩がないのだから諦める時期だろう。サキも意識を手放しながら使った術のことなんてよく覚えおらず、手当たり次第試しているが兆しも見えやしない。

「印でもあれば良かったのにな」
「もはや忍術って呼べるかも分からないもんね。もしかしたら仙術ってやつかもねー」
「仙術って?」
「サキちゃんは忍の祖って知ってる?」
「忍のソ?」
「六道仙人の話だよ。学校じゃ習わないっけ?チャクラの真理を解き明かした、忍術の元となった忍宗の開祖である伝説の僧侶。その人が使っていたとされる仙人の技が仙術って呼ばれてるんだ」
「へー、相変わらずヒラは物知りだね」
「仙術を使える奴なんてもうこの世に何人いるか分からない。コイツの術が仙術なわけない」
「だよねー、言ってみただけ」
「あーーもう!いつか出来るようになるから!変わらずのサポートよろしくお願いします!」

で躍起になったけど、それから半年経った今も進捗はなかった。




=アカデミー=

卒業試験の結果、サキは合格、ナルトは不合格となった。校舎の外で合格した生徒とその親が笑い合っており、ナルトはそこから離れた木に繋がれたブランコに座っていた。

サキは生徒と親をかき分けてナルトのところに向かった。けれどナルトは顔を上げず、目を合わせてくれない。いつもの強気な態度は全く見えず、落ち込んでいるのがヒシヒシと伝わってきた。

「ナルト、一緒に家帰ろうよ」
「……今日は先に帰ってくれってばよ」
「うん……ねえナルト」

サキはナルトの足元にしゃがんで、ナルトの右手をそっと両手で包んだ。それで驚いたナルトとようやく目が合う。

(泣きそうな目、そりゃ一人だけ不合格なんじゃ辛いよね)

「諦めないで。ナルトなら火影になれるから」
「それ本気で言ってんのかよ」

少しイラついた声でナルトが口に出す。
だけどサキは明るく、得意げな顔をしてやった。

「信じてるよ。ナルトが自信を無くしたって、私がその分信じる。ナルトは凄い忍になる。絶対なれる!」
「……」
「じゃあ先に帰るから。夕飯多めに作っておくからお腹空いてたら部屋にきてね」

サキがナルトから離れて校舎の方に戻ると、親同士がナルトの悪口を言っているのが耳に入った。その対象の中にはサキも含まれていた。まだ薄らと狐憑きの噂は残っていたのだ。

サキは聞かなかったふりをして教室に荷物を取りに行った。


***


その晩、家で鎖を触っていると玄関の戸が叩かれた。

ナルトだと期待して扉を開けると立っていたのはひっ迫した顔のユサだった。

「今すぐ来い。火影様が呼んでる」




=火影執務室=

ユサが案内した先は火影室だった。
入室してすぐ三代目がサキに紫色の水晶を見せた。その水晶にはよく見慣れた橙色の影、うずまきナルトが映っていた。

「何ですか?これ」
「ミズキがナルトを唆し、禁術が記された封印の書を持ち出させたのだ。そしてイルカはじめ多くの忍がナルトを追っていたのだが……」

ナルトは封印の書なる大きな巻物を持って木の上を移動している。
その表情からは今まで見たことがないくらいの怒り、焦り、悲しみが見て取れる。色んな負の感情が混濁しているみたいで何でこんな状況になったのかと三代目を見つめた。

「ミズキがナルトに九尾のことをばらした」
「は、、え!?」
「今ナルトは何故自分が里から忌み嫌われてきたかを知ったところだ」

ナルトがこんなにも取り乱すはずだーー今はもうこの里の全てが敵に見えてるのだろう。

「私は何をすれば良いですか」
「このまま封印の書を持って逃げられでもすれば、封印が解ける可能性もある」
「でも報告してる通り鎖の術はまだ使えないんですが」
「知っておる。だから九尾と対話してほしい。出てくるな、と」
「……効くかな」
「うだうだ言ってないで今やれる事をやれ!」
「痛でっ、わかりました」

サキはユサにぶたれると、執務室の端にある椅子に静かに腰掛けた。三代目はサキと水晶の中のナルトを黙って見守る。

そうしてサキはそっと目を閉じた。




=精神空間=

ことのあらましを現在進行形でナルトの中から覗いている九尾は、突然精神空間にやってきたサキが「封印が解けても体から出ないで」と言ってきたので鬼の形相でキレた。

「余計な世話だ!馬鹿野郎!!」
「檻さえ開けば!チャンスさえあれば出たがるくせに!」
「当たり前だろうが!!」
「とにかくナルトの精神が乱れてる間はここにいさせてもらうからね」
「勝手にしろ!!」

サキは檻の前であぐら座りをして、九尾は拗ねて背を向けた。

「ナルト、九尾の存在を知ったってさ」
「知っておるわ」
「そうだよね。中にいるから知ってて当然か。ねえ、九尾から見える現実の風景ってどんな感じなの?」
「……見せてやろう」

九尾は尻尾を檻の隙間から出して、サキの体を掴んだ。そしてサキの頭の中に映像が流れ込んでくる。


***


傷だらけのイルカが大木にもたれかかり、彼の前に武器を持ったミズキ立っている状況だ。その近くでナルトは巻物を持って隠れていた。
次第に音声も聞こえてくる。

『ーーけどナルトは違う。アイツは、この俺が認めた優秀な生徒だ。努力家で一途で、不器用で、誰からも認めてもらえなくて、アイツは人の心の苦しみを知っている。アイツは化け狐なんかじゃない。アイツは木ノ葉の里のうずまきナルトだ』
『めでてえ野郎だな。イルカ、お前を後回しにするって言ったけどやめだ。さっさと死ね!!』

ナルトはイルカの言葉に涙して、木の影から出て行き、風魔手裏剣を構えたミズキを影から襲って吹き飛ばした。

『イルカ先生に手出すな。殺すぞ!』

『影分身の術!!』

ミズキを中心に何百人ものナルトの分身が現れた。子供でも集まれば強力な力だ。結果としてナルトの大軍勢はミズキをボコ殴りし気絶させた。

「ナルト凄い……ねえ、見た?九尾!」
「ワシのチャクラがあってこそだ」
「うん。九尾はナルトの力の源だね!」
「チッ、こんなガキに利用されるなんてまっぴらだ。呑気な事言ってないで早く封印解けるようにしろ!!」

九尾は尻尾の力を込め、サキの体は締めつけられた。

「もう少し力加減考えてよ!痛いってば!」
「お前弛んできてるぞ。人間に干渉しすぎたって碌なことは起きん」
「何その言い方。人間嫌いにも程があるでしょう。私だって人間なのに」
「……」
「はあ、尾獣と人が仲良くすることってそんなにダメなのかな」
「無理だ」
「でも私と九尾は仲良くできてるよ」
「……お前は、お前は勝手にここに来たんだろうが」

九尾は尻尾を離し、檻の中へ引っ込めた。そして「そろそろ戻れ」と九尾が不機嫌そうに言うので、仕方なく首を縦に振った。

「あ、九尾。九尾は化け狐じゃなくてイケメン狐だよ」
「あ゛ああ!?」
「またね」





=火影執務室=

目を覚ました時には、三代目に呼び出された理由となった事件は解決していた。わざわざ呼び出されたサキだったが、三代目に九尾といつもどう会ってるのか見せただけになってしまった。

でも無事に事件が片付いたのだから、イルカには感謝しなければならない。

「イルカ先生がナルトの担任で良かったです」
「見ていたのか」
「九尾のいる精神空間はナルトの中ですからね。その水晶みたいに見てました」
「全く、凄い力だのう」
「……他の人はどうして九尾に会えないんでしょうか。九尾と話してくれたら化け物じゃないって分かるはずなんです」

火影でもナルトでも、ユサでもヒラでも九尾に会えない。
事情を知っても誰も九尾と触れ合えない。あの心優しいイルカ先生でも九尾のことは化け狐と言った。

「サキ……」
「九尾はずっと狭い檻の中で一人なんです。自由にしてあげたい。でもまだ証明できていないから……だからナルトが九尾の存在を知ったなら、せめて二人が仲良くなればいいなと思いました」
「仲良く、か。それは……難しそうなことだの」

ヒルゼンは亡き四代目火影を思ってそう言った。
サキはヒルゼンの顔色を伺いながら「そのために私がいる…」と口にした。

「人と尾獣の中間に立つ、ですよね」
「頼もしくなったのう、サキ」
「もう忍ですからね」
「ああ、そのことなんだがなーー」



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