無限月読


神樹を取り込んだマダラの前に、六道仙術を開花させたナルトと輪廻眼を開眼させたサスケが立ちはだかる。彼らの手にはそれぞれ六道仙人から託された封印術式が刻まれていた。

「これが最後の闘いだ!オレの力とお前らの力……どっちが上か決着をつけてくれよう!」

そう意気込んだマダラは、先手を取って仙法・陰遁雷派を仕掛けた。そして立て続けに仙法と輪廻眼の能力を放っていく。

だが、それは同じ力を持ったナルトとサスケを完封するに至らなかった。ナルトとサスケは試行錯誤しながら六道仙人に与えられた力で着実にマダラを追い詰めていく。

(今のコイツらはただのガキではない……すぐにでも両目を揃えるとするか)

マダラは戦闘を後回しにして、左目の輪廻眼の回収を優先することにした。二人の意表をついて、ある方向に猛スピードで飛んでいく。

「急げサスケ!マダラの先にはカカシ先生がいる!」
「分かってる」

弾丸のように飛ぶマダラをサスケは追いかけた。
だが、あと少しのところで間に合わない――

「その左目貰うぞ」

カカシが振り向くと左目に強烈な痛みが走り、一気に熱くなって大量の血が溢れた。何が起きたのか……何とか開ける右目で現実を確認すると、追いついたサスケがマダラを真っ二つに斬ったところだった。

だがマダラは上半身と下半身が分かれたにも関わらず、奪った万華鏡写輪眼を左目に入れて上半身だけで神威を行った。

(まずい、向こうにはまだオビトとサクラが……!)


***


時空間の方ではサクラがオビトの左目にクナイを向けて震えているところだった。
オビトがサクラに頼んだのは、輪廻眼の処分――サキに命を繋いでもらったものの、黒ゼツの支配からは逃れられなかったオビトはサクラに目を潰すように頼んでいた。

「早くしろ」
「分かってる……!」

オビトはサクラを急かした。
カタカタと震えるクナイが左目に近づいてきて、オビトは一層目を見開いた。だが視界の端が不自然に歪み始めた。

「させん!!」

マダラの声と共に求道玉を形態変化させた黒い棒が飛んできた。狙いはオビトではなく、輪廻眼を潰そうとするサクラの方。

オビトは直ぐに右目の万華鏡写輪眼でサクラを現実空間へと飛ばした。的を失った棒は白い石柱へと刺さる。

そしてマダラは動けないオビトの首を持って、無理やり立ち上がらせた。

「アイツめ、やはりお前にも魔像の欠片を与えていたか」
「、カハッ……ッぐ」

薄らと浮かぶ白い花にマダラは目を細めた。かつて自分と見た花をあしらうとは……懐かしむように見つめた後、容赦なくオビトの心臓に右手を突き刺した。

「うあ゛ッ!!」
「心臓に仕込んでいた呪印札が消えているな。どうやって取った。己を傷つけることは出来なかったはずだ」
「カカシに貫かせた。オレが十尾の人柱力になるにはアレが邪魔だったからな。死ぬかもしれない賭けだっが、オレはアンタの思い通りにならないのさ……」

オビトの言い分にマダラは我慢できない笑いが込み上がる。そして思い通り、いや期待以上だったとオビトに返した。
オビトに仕組んだ"操り人形"にする呪印札は何もオビトだけに仕込んだわけではない。

「何の因果か。"二人とも"全く同じやり方で排除するとは面白い」
「――リン」

マダラは全ての種明かしをする。オビトにとって、この計画に関わる原因となった神無毘橋の戦い――アレは自分がオビトを堕とすために仕組んだのだと。

そして、マダラは右手の力を強めた。
オビトは苦しそうに、悔しそうに声を上げる。

「返してもらうぞ。その左目を……」


***


マダラはオビトを連れて、現実の世界へと戻る。
そこにはナルト、サスケ、サクラ、カカシら第七班が待ち構えていたが、もはや戦いなどはどうだってよかった。

マダラは輪墓の陽動を残し、地爆天星で一帯の地形を崩す。そして自らは上空へと飛翔し、ナルト達に向けて数多の隕石を降らせた。

上空の隕石と地上のマダラの影、ナルトとサスケは互いに分担して危機を乗り切るために動いた。
その間にもマダラは計画遂行のために、月へと近づく。

(あの石碑の内容によれば、輪廻の力を持つ者が月に近づきし時、無限の夢を叶えるための月に映せし眼が開く……)

マダラは己の額金を外し、赤い月を真っ直ぐに見つめる。
そしてゆっくりと額に第三の眼が開眼していった――
それは輪廻眼と写輪眼の両方の力を持つ赤い瞳だった。

(世を照らせ……)

(無限月読!)

満月に輪廻写輪眼が映る。
そしてそれは世界を包み込む強い白光を放った。

「今一つとなるのだ!」





夜だったにも関わらず、昼間のように世界が明るくなった。あまりの眩しさにサキは目を覆ったが、数秒後違和感に気づく。

マダラが無限月読を発動したのは明らかだった。
現に隣にいる我愛羅、リー、回復していたガイの目も輪廻眼となって、月を直視して固まっていた。
それなのに自分は動けたのだ。

(何で……?)

心当たりがあるとすれば、もう人間ではなくなったからか……自分の存在が十尾、神樹の"心臓"だからか。

どちらにせよ今できることを考えるしかない。
サキはナルト達のチャクラを探し、それがサスケの須佐能乎の中にあることを感知した。

(ナルトたち、第七班は無事……それから、穢土転生体の火影たちも)

サキは感知範囲をさらに広げ、戦場以外にも意識を向ける。もうこの世界には自分たちしか動けるものは残っていなかった。

マダラはチャクラを一つにするために、神・樹界降誕を発動させた。地面を割って現れた樹界から樹皮が伸び、無限月読にかかった人間を一人残らず包み込んだ。

サキの隣にいた我愛羅たちも繭のように木に吊り下げる。

「これが、無限月読……」

サキが感知を止めると、上空からマダラが降りてきた。サキが動いていることに意外そうな顔をして――

「何だ。繭から取り出してやろうと思ったが、神樹の一部であるお前には効かなかったのか。つくづくお前はオレを驚かせるな」
「マダラ、、」

こんな世界にしておいて、サキだけは繭から出すつもりだったというマダラの言い分が理解できなかった。

マダラはサキに歩み寄りながら続けてこう言った。

「あと残った蟲どもを片付ければこの世界はお前とオレの二人だけになる。尾獣はオレの中で傷つかずに生き、人間達は皆争いのない夢の中……」

「お前が望んだ、人間と尾獣が平和に生きていける世界だ」

マダラの言葉を聞いた瞬間、サキの頭は真っ白になった。

近づいてくるマダラが満足げに笑って、サキの身体を抱きしめた。恐怖とは別に身体の震えが止まらなかった。

否定と軽蔑の言葉ばかりが頭をよぎって、考えがまとまらない。でも違う。そうじゃないんだ――
サキは力の入らない右手で何とかマダラの胸板を叩いた。

一度叩くのが精一杯ですうっと下に落ちていく右手。下を向くサキに、マダラは眉を顰めた。

「やはりお前とも分かり合えないか……」
「まだ、何も言ってない」
「なら何故泣く」

小刻みに揺れる肩が鬱陶しかった。マダラは腕を離し、サキの顔を掴んで無理やり自分の方を向かせた。
金色の瞳からポロポロと涙が流れて、マダラの手を伝う。

「言いたいことがあるならはっきり言ったらどうだ」
「……ッ、泣きたくなるよ、当たり前じゃない、、こんな世界が見たくてマダラに大事な夢を語ったんじゃない!!」

サキは心からそう叫んだ。
マダラは一瞬目を細め、サキを突き放した。もういい、と言いたげに。

「そこで見ていろ。どうせだ。お前は一番最後に始末する」

そして、マダラはナルト達のいる場所へと向かった。

次第に光が弱まっていく。
一人取り残されたサキは、膝から崩れ落ちた。ぐっと拳を握って、地面に叩きつける。

後悔、悲しみ、喪失感、焦燥感……負の感情が痛いくらい頭の中で渦巻いて、そして一つの感情に行き着いた。

「……最後とか、分かり合えないとか、好き勝手言って」

「"ご立派な輪廻眼"を開眼させたって、何にも見えてないのはそっちじゃない」

「自分はずっと闇の中で、、這い出てこようともしないじゃない!!」

サキは力一杯地面を殴りつけた。殴った箇所から複数の方向に亀裂が走り、地面が割れていく。
そしてゆっくりと立ち上がった。

「ふざけんな」


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