救済


マダラとガイの戦いの影響は凄まじく、周りにいるサキ達も立っているのがやっとだった。
あんな戦い方、人間の域を越えている――サキはそう感じた。

「ガイさんの技、あんなの続けて大丈夫なんですか」
「死門を解放した人間は必ず死ぬ。リミットは死門のチャクラが消えるまでだ」
「んな、何で止めッ、」

何で止めなかったのか、そう喚こうとしてサキはぐっと堪えた。
なぜならこれを選択したのは他でもなくガイだったからだ。マダラが命を削らなければ勝てない相手だとガイ自身が判断したからとった行動だ。この場に残されたメンバーに非はない。

「、、でも」
「サキさん、覚悟を持った男を前に哀れみや悲しみは侮辱になります!ガイ先生を信じてください!」
「……オレ達はガイのサポートだ。聞いてくれ」

リーの言葉も、ミナトの言葉も受け止めきれなかった。ミナトの作戦は耳に入ってこなくて、サキは一人別のことを思考していた。

ミナトの話が終わって全員が立ち位置に向かおうとすると、サキはカカシの袖を引っ張った。

「……カカシさん、私を時空間に飛ばしてください」
「な、作戦聞いてた?オレ達はガイのフォローを」
「魔像の欠片を入れればもしかしたら死なずに済むかもしれない!それに時空間にいるオビトさんだっていつ力尽きるか分からない!」

カカシはサキのこの顔を久しぶりに見た。
誰かを救うためになりふり構わない必死な表情を。

「ガイさんは私達のために、未来のために死と引き換えという覚悟を持ってマダラと戦ってる……けど、その裏でガイさんの命が救えるように足掻くことをガイさんに対する裏切りだとは思いません!救えるかもしれない……行かせてください」

ミナトも我愛羅もリーもそれを聞いて驚いた。
今は戦争中、それも敵は強大でこちらの戦力も限られている。それでも決して死を必然としないその姿勢に――

カカシはミナトに強い視線を送った。サキを行かせてやりたいという意思を込めて。それを汲み取ったミナトは頷き、カカシは安心した表情でもう一度サキの顔を見た。

「分かった。頼んだよ、サキ」
「はい!」


***


神威で飛ばされた先は、夜みたいに暗くて高さ違いの白い石柱が幾つも立ち並ぶような場所だった。
オビトとカカシの万華鏡写輪眼が作り出した時空間、静かでひんやりとしていて頭を冷やすには丁度いい。

「お前、」
「サキ!?何でここに」
「すみません、理由は後で。ナルトの方は?」
「ナルトなら大丈夫。九尾は中に入れたわ。今は目を覚ますのを待ってるところ」

血色の戻っているナルトの顔を見てサキは安堵した。これなら安心してやるべき事を行える。

「二人ともありがとう。まず魔像の回収をしてくるからここで待ってて」

サキはすぐに隣の石柱に飛んでいってしまった。何のことかさっぱり分からないサクラはオビトに意見を求めたが、オビトは何も言わなかった。
一分もしないうちにサキは結界で囲んだ魔像の右腕を持って帰ってきて、サクラは余計に混乱した。

「それ……え、何?現実の方はどうなってるの」
「ごめん、手動かしながら説明するね」

サキは結界に手をついて魔像に自然チャクラを送りながら、現状とここに来た理由を話し始めた。

「今、ガイさんとマダラが戦ってる。ガイさんは死門を解放させて、命を落とすのと引き換えにあのマダラと対等に渡り合ってる」

「死門のチャクラが消えたらガイさんは確実に死ぬ。だからチャクラを途絶えさせないように魔像が必要なの。魔像を体内に入れれば私が間接的にチャクラを供給できるから」

「例え本人が死を覚悟してても、救える可能性があるのなら実行しない手はない。オビトさん、貴方もそうです。絶対死なせたりしない。一人につき魔像の腕一本分、それが人一人救うための魔像の必要量だから」

サキが話しているうちに魔像の腕から木の枝が伸びて、サキの意志に応えるようにもう一本の腕を形取っていった。

「その前に確認する……お前はオレに生きて今までのことを償って欲しいと言ったな。本当にその理由でわざわざ敵だったオレを助けるのか」

オビトはサキの邪魔にならないよう淡々と声をかけた。手を離せないため、目線だけ動かしてオビトを見るサキ。サクラもサキが敵だったオビトの命を救おうとしてるとは思わず呆然としていた。

「……もう一つ理由を挙げるなら、カカシさんの友人である貴方に死んでほしくないから」
「……」
「仲間が死ぬことの痛みは私も知っているので、」

サキは目を瞑って十一班の仲間だったユサとヒラのことを思い出す。自分を庇って亡くなっていった二人のことを。

「心のどこかで実は生きててまた会えるんじゃないかって、受け入れたつもりでも時々考えちゃうんです。だからどんな形であれ、死んだと思ってた仲間が生きてたのなら、残された側からしたらこの上ない奇跡です」

「離れていた分これから共に生きていきたい。罪があるなら一緒に背負ってでも側にいたい。カカシさんならそう思ってると思ったんです……それがオビトさんを死なせたくないもう一つの理由です」

サキはまたオビトを見た。
オビトは気まずそうな顔をして、小さな声で「なら礼は言わない」と呟いた。
だからサキはそっと頷いた。これは私の我儘なんだからと。

魔像の成長が終わり、サキはそれを二分して直径五センチ程の小さな球体に圧縮した。

「……心臓に突き入れるのか」
「そんな嫌な方法とりませんよ。体内といっても肌で十分なので、術式が浮かぶくらいにします。オビトさん達を人間の体から逸脱させたくないですしね」

サキはオビトを寝かせて、心臓の位置に魔像の欠片を置いた。そして施錠するようにゆっくりとその上で手を回す。

ガチャリ

体の中で施錠音が聞こえた気がした。
オビトが視線を下げると、胸の辺りに白い花模様の呪印がうっすら浮かび上がっていた。

「蓮の花か?」
「あ……すみません。センスがなかったですね」

サキはもう一つの球体を握りしめながら困ったようにそう言った。そして試運転のようにオビトにチャクラを送る。

「……大丈夫だ。チャクラなら伝達されてる」
「良かった」

サキがホッと息をついたその後ろでムクリと黄色の影が起き上がった。そのチャクラの変化にサキは身震いした。姿は変わらないのに、その内に六道の力を感じたからだ。

「ここは、」
「ナルト!!」

第一声はサクラだった。
サクラから今までのことを聞いたナルトは立ち上がり、オビトに自分を現実に飛ばすように頼んだ。
オビトは当然頷き、続けてサキの方を見た。

「サキ、お前もだ」
「でも、まだ黒ゼツが」
「お前でもこの黒ゼツを取り除くには時間がかかる。早く行かないとガイは手遅れになるぞ」
「……分かりました」
「サクラちゃんは?」
「サクラには頼みたいことがある。少しの間借りるぞ」

ナルトとサキは神威によりまた空間の歪みに吸収されていく。サキはぎゅっと目を瞑って、ガイとみんなの無事を祈った。その横でナルトは小さく呟いた。

「大丈夫」


***


ガイの最後の技"夜ガイ"を喰らってなおマダラは死んでいなかった。

「ハハハ、死ぬところだったぞ……此奴め」

マダラはギリギリの戦いに高揚しているが、もうガイに意識はない。その身体は死門を開いた代償に右の足指から徐々に灰になっていった。
マダラは己の身を回復させながら楽しませてくれた礼だと言って、朽ちていくガイに向かって求道玉を放った。


だがそれはナルトによって蹴り返された。

そしてその後方でサキがガイの横にしゃがみ、手に握りしめていた魔像の欠片を赤く今にも崩れそうな体の上に置く。

「消えないで……」

右手をかざしてゆっくりと回す。

(まさか、アイツ)

マダラはサキのやろうとしている事が分かって求道玉を棒状に変化させた。けれど投げるより前にナルトが攻撃してきたのだった。

(コイツ、力が急に伸びている)

サキの邪魔をする余裕もなく、マダラは防戦一方になる。そしてナルトの仙法・熔遁螺旋手裏剣を正面から受け神樹の幹に押し込まれた。
その威力により神樹は上下真っ二つに切れて、マダラは神樹の反対側まで吹き飛んだ。

そこは丁度神樹の根の上。そこでマダラは奇妙な声を聞いた。

――ワレヲトリコメ

――シンジュヲ ジュウビヲ スベテ トリコメ


「そうか。神樹そのものが……全てを一つにする時が来た」

マダラは倒れていく神樹に飛びつき、声に従ってそれを身体に取り込んだ。


***


倒れてくる神樹の下敷きになる前に、サキはガイの体を担いで我愛羅とリーのいる場所へと後退した。同時にナルトもその場所まで下がってきてくれる。

「ガイ先生!!」

恩師の体が残っていることにリーは大きな声を出した。サキはゆっくりとガイを地面に寝かせて、ボロボロの体を回復させていく。

「大丈夫。ちゃんと生きてる」
「本当に、助かったんですか!?」
「うん。もう心配いらないよ」
「ッ、ありがとうございます!サキさん!!」

泣いて感謝するリーを見て、サキは助けられて良かったと笑った。

「サキはガイ先生の回復、ゲジマユと我愛羅は二人を守ってくれ」

マダラに一人で挑もうとするナルトにサキは一瞬ハッとしたが、今の自分ではマダラ相手に及びもしないことを分かっている。足手纏いにはなりたくない。
一緒に戦えないなら……とサキは今ナルトのために何ができるか考えた。

「ナルト、手出して」
「ん?」
「私だけ渡せてなかったから」

サキはナルトの手を取って、自分のチャクラを流し込んだ。六道仙人により力を託され、六道仙術を開花したナルトになら自然チャクラをそのまま渡せる。

「ありがとう。これでサキとも一緒にアイツと戦えるってばよ!」

ナルトはサキの手を握り返してニカッと笑った。
マダラ相手に力が足りない……そう密かに落ち込むサキの心をナルトの笑顔が救ってくれた。

サキは戦いに行くナルトの背を見ながら小さく呟いた。

「ありがとう」


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