反撃


「ゼツ、いつまでオビトにへばりついている。早く左目と九尾を持ってこい」
「マダラ様ガ イル限リ コイツカラ 離レテモ問題ナイ」

黒ゼツは命令通りオビトの体から粘液のように這い出てきた。

マダラに輪廻眼と九喇嘛を奪われる――
今しかないと我愛羅とカカシが突っ込もうとした時だった。

黒ゼツはオビトの体に引き戻されていった。

「ク、クソッ……貴様、マダ!」
「まだだ……マダラ、アンタに話がある」

オビトの意識はまだ微かに残っていて、死にかけの体で途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
ナルトの復活のために九喇嘛の半身を取り戻すことは必須。だからこそ今は突っ込めない。ここぞという時でないと――

皆その場で構えながらオビトとマダラの会話に集中した。

「アンタにとって、オレは何だ?」
「クク……冗談はよせ。今更くだらないことを聞くな。お前はオレにとって他でもない。マダラだ」

この世界を否定し、その思想を胸に無限月読の計画を狙うもの全てがマダラ。オビトはマダラが動けない間に計画を進めるだけの存在でしかない。
尾獣を道具だと言った時と同じくマダラはハッキリと言い切った。

「いいか。六道の広めたチャクラとは本来"繋ぐ"力のことだ。だが人々は心を繋げることをやめて己の武力の為にチャクラを使い始めた。皮肉にも六道の母カグヤと同じ道に戻った訳だ」

「六道仙人の行いは人の矛盾を助長したにすぎん。そして例え心と心を繋げたところで解り合えないのが分かるだけだった」

「この世界はチャクラという力によって無限の苦しみを強いられている。力があるから争いを望み、力がないから全てを失う。オレはそれを乗り越えた新たな世界を造る。忌まわしきチャクラの無い世界をだ」

かつてオビトに話したように、マダラは六道仙人が作ってきたこの世界を地獄だと説いた。全て嘘では無い。マダラが生きてきた中で辿り着いてしまった答えだ。

「来い!お前はマダラだ。オビトでは無い」

「今でもお前は救世主の筈だ」

黒ゼツに取り憑かれたままのオビトはマダラの方へと足を出した。黒ゼツに支配されているからではない、自らの意思で歩いているように見て取れた。

ミナト、カカシ、我愛羅は二人が接触する前に術を仕掛けた。我愛羅の砂で壁を作り、カカシはオビトを神威で移動、ミナトは瞬身でマダラの意表を突き螺旋丸を当てようとした。

だが十尾の人柱力となったマダラの前でそれらは通用しなかった。ミナトは残り一本だった腕を切られ、マダラはミナトの体と螺旋丸付の腕を蹴り飛ばした。その先には我愛羅とカカシがいて、三人とも後方に吹き飛ぶ。

「さあ……」

マダラの顔に笑みが浮かんだ。
悲願が叶うまであと少しだと。
そしてオビトが差し出した右手に自分の右手を合わせようとした。

けれどその手は触れ合うことはなくーー

オビトはマダラの腹に腕を突き入れた。

「貴様、」
「何ノ真似ダ……」
「人を導くものは己の死体を跨がれることはあっても、仲間の死体を跨いだりしないらしい」
「ならそれを確かめるためにまずお前が死体にならねばな」
「オレはもうアンタに跨がれることもない。己の名を騙らせ他人に全て任せることは、仲間に託すこととは違うと今なら分かる」

オビトは左手に六道の錫杖を出した。

「オレはアンタじゃない。今のオレは火影になりたかったうちはオビトだ!」

オビトは一尾と八尾のチャクラをほんの一握りマダラから引っ張り出した。そして後ろに控えるカカシにナルトを時空間へ運ぶように命じた。

カカシはすぐにナルトとサクラを神威で飛ばし、オビト自身も右目の神威で飛ぼうとしたが、それはマダラの攻撃によって防がれた。

「ナルトは運んだ。後はお前が向こうへ飛べばナルトは助かるってことだな」
「ああ、任せろ。今回はオレがメインだ。お前はバックアップだ、カカシ」
「久方ぶりのツーマンセルだな。しくじるなよオビト」

サキはその光景を見て直感した。
二人とももう死ぬつもりだと。

だがそんなの絶対に嫌だと状況に不釣り合いな我儘が脳内を占めた。
なのに行動は起こせなかった。
この二人の"最後の作戦"に入り込むこともしたくなかったのだ。

「オビト、お前に預けたものは全て返してもらう。特に左目がまだ入っていなくてな」
「気になるか?写輪眼は左右揃って本来の力を発揮するもの……そう言ったよな」
「違う。今は写輪眼ではない。輪廻眼だ」
「違う。こっちのことを言ってんだよ」

オビトの右目とカカシの左目、なるほどそういうことかとマダラは求道玉を二つ、二人に向けて放った。
どちらが陽動役をしようが神威の速度は見切っている。同時に攻撃すれば支障はないと。


けれどマダラの予想に反し、カカシとオビトがやったのは二つの神威の同時発動だった。倍のスピードで求道玉が当たるよりも前にオビトは時空間へ飛んでいく。

だが残ったカカシの目の前には求道玉が迫っていた。

サキは二人の作戦が上手くいきオビトが飛んだことを確認して直ぐカカシの前に瞬間移動で飛んだ。そしてカカシの胸ぐらを掴んで、求道玉が当たる前にもう一度瞬間移動しようとした。タイムラグでサキが当たる方が先か、飛べる方が先かの賭けだった。

チリ、と背中で音がする。

(間に合え!)


けれどその賭けの結果が出る前に、サキとカカシの体を何かが掻っ攫っていった。

ドンっと大きな衝撃音と土煙を上げて着地し、サキとカカシの前に緑色の影が現れた。

「大丈夫か、二人とも」
「ガイさん!?」
「、今回ばかりはいい時に来てくれたよ。ガイ」

ガイは嫌な予感がしてこっちの戦場に駆けてきてくれたらしい。カカシは礼を言うと、サキの肩を掴んでクルリと180度回転させ、怪我をしていないか確認した。幸いよく見ないと分からない程度の髪の毛先の消失で済んだ。

「……戦争だから生き死にがあるのは覚悟してる。だけどオレを庇って死ぬのだけはやめて」

カカシの手は震えていた。オビトとリンの時のトラウマを再現するところだった――サキはしまったと顔を曇らせた。
だけどカカシが目の前で死ぬのはこっちだって嫌だ。サキも文句を言いたかったが、ぐっと堪えて飲み込んだ。
そしてカカシの手にそっと自分の手を乗せて、安心させるために口を開く。

「死んだりしませんよ。私は尾獣なので」
「……」

カカシはそれ以上何も言わず、サキが手を離すのと同時に肩を掴んでいた手を外した。

「悪運の強い奴だ」
「ん?誰だアレ」
「うちはマダラです。十尾の人柱力になって姿は変わってますけど」

マダラ一人に対して、こちらはミナトと我愛羅も合流し五人だ。冷静にミナトと我愛羅がガイに戦況を伝える。

「奴には仙術しか効かない。それともう一つ、体術による物理的ダメージ」
「四代目火影の仙術、サキの自然チャクラ、ガイ……アナタの体術しか今は手段がない」
「だけど、その先生は仙術があまり……」

ミナトは仙術を得意としていない上に、両手が消失し印が組めない状態だ。だからここで戦えるのはサキとガイだけ。


***


「ガイさん、あの黒い玉と棒に触れないでくださいね。アレは私でも対応不可です」
「了解だ」

サキはガイの背中へ瞬間移動用のマーキングをして、マダラに突っ込んだ。ガイと互いに隙を埋めるようにマダラに迫り、最終的に第七驚門を開放したガイの昼虎がマダラに当たる。
神樹の方までマダラとガイは吹き飛び、衝撃でガイは砂に埋まって身動きが取れなくなった。サキはすぐに背中につけたマーキングでガイをカカシたちの元に下げる。

「隙ができたな」
「ッ!!」

サキは四方を求道玉に囲まれ、カカシ達とは逆方向に瞬間移動した。だが飛んだ先で体がマダラの方へと吸い寄せらた。ペイン天道と同じ引力だ。

追い打ちをかけるように求道玉はサキに向かって飛んできてくる。速度が桁違いになった上、二回連続で瞬間移動を行ったラグで避難困難だ。
精々自然チャクラの結界を足場に体が引っ張られるのを耐えるしかできない。

(当たる……!)

「うお!?」

突然首根っこを予期せぬ方向に引っ張られ、ズザザザと砂漠をクッションにカカシ達の元に傾れ込んだ。
求道玉に集中していた一瞬に何が起きたのかサキは理解出来なかったが、何はともあれ窮地を脱した。

「けほっ、けほ、いきなり何」
「大丈夫ですか。サキさん!」
「リーさん!?」
「リー、よくやってくれた。テンテンはどうした」
「少し確かめたいことがあるから先に行けと。やっと追いついた途端昼虎が見えて、サキさんがピンチになっていたので」
「助かり、ケホ、ました」
「大丈夫?サキ」
「はい。何とか」

サキは自分の怪我を治し、ガイの折れた肋骨数本と右腕を回復させた。

「すまん、サキ」
「いえ。私こそ詰めが甘かったです」
「頼みの綱の体術もダメとなると、どうする。奴は強すぎる」
「待て、カカシ。まだ体術がダメと決めつけるのは早いぞ。オレ達の青春はまだ色褪せちゃいないよ!望みを捨てるな!」

この状況でもガイは熱血な言葉を吐く。でもそれは決して馬鹿げた世迷言ではなくて。

この後確かに希望になったのだ――

「確かに望むこと全てできる訳じゃない。しかしやるべきことはいつも望んでからでなければ始まらん。お前への挑戦がそうであったように」

「そしてこれは決して強がりではない」

「木ノ葉の碧き猛獣は終わり、紅き猛獣となる時が来たようだ」

サキにはガイが何をしようとしているのか分からなかったが、カカシとミナト、弟子であるリーの反応からして使用者の大きな代償が伴うのは明白だった。

「開!八門遁甲の陣!!」

そう叫んだガイの体から赤い蒸気が湧き出た。
死門を解放した時に見られる血の蒸気というやつだ。
マダラは蔑むようにそれを秋に散り朽ちる枯葉色のようだと形容した。

だがガイはそれに言い返した。
ただ朽ちて終わるのではない。それは新たな青葉の養分となり、青葉が芽吹く新たな春へと繋げる時にこそが青春の最高潮だと――

それは間違いなく"火の意志"だった。


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