月花に謳う



16




 放課後、指定された時間に多目的教室の前へと来ていた。冬吾と松坂に教室の前まで送ってもらい、香ちゃんに着いたことを知らせるメッセージを送ればもう少し待って欲しいと返信が来た。

 待つのは別にいいんだけど。なんだか騒がしいような?

 扉を一枚隔てた向こう、ざわざわと話し声が聞こえる。どうやら香ちゃんだけじゃないようだ。
 少しして、扉が開いて香ちゃんが出てきた。


「お待たせ、霜野。行こうか」


 すっと差し出される右手に半ば反射的に手を乗せたら流れるようにエスコトートされ、教室の扉をくぐれば親衛隊――正確に言えば俺が愛でているコレクションの子たちばかり、十数人が勢ぞろいして迎えてくれた。


「わ、なにこれ…。嬉しい。でも、どういうこと?」


 久しぶりに間近で見るみんなの姿に自然と頬がゆるむのを抑えられない。傍から見たらさぞ締まりのない顔をしていることだろう。


「みんな、霜野のために集まってくれたんだよ」
「そうですよ!みんな悠璃さんに会えなくて寂しかったんですからね!」


 答えてくれた香と千波に合わせて、他のメンバーも口々にそうだそうだと声を上げる。


「要はみんな、霜野に会えなくて痺れを切らしたんだよ。霜野が構ってくれないから、ね?」
「うっ。でも、みんなを巻き込みたくなかったもの……」
「またそうやって……。でももう僕たちは風紀と協力関係なんだし、関わっちゃってるから、もうあの約束はなしでしょ」
「そ、れはそうだけど……。でもみんなに何かあったら、」
「もうそういうのはいいんです!悠璃さんだけじゃないんですよ、心配なのは!僕たちだって、心配でたまらなくって隊長から風紀に協力するって連絡来たときは嬉しかったんですから!僕たちも悠璃さんの力になれるって」


 呆れたように言い募る香ちゃんと力強く頷く千波ちゃん。その勢いに押されて、つい頷いてしまう。
 他の子たちも同じように穏やかな表情でこちらを見守っている。

 心配をかけてしまった。心配されるだろうと思いはしたが実際にそれを肌で感じて本当のところを分かっていなかったのだと知る。そうだ、皆に危害を及ぶのが怖かった。それは同じだったのに、大丈夫だからと遠ざけてしまった。一線を引いているからとか、遠慮だとかそんなのじゃない。もっと根本的な理屈じゃない、こころのやわい部分をきっと傷つけていた。


「ごめんね、みんな。不安だった…よね?俺、ちゃんと理解できてなかったみたい。これからはみんなのことも頼るから、また一緒にいてくれる?それから助けてもらってもいい…?」


「当たり前でしょ」、「そうです」、「むしろ断るわけがない」と方々から返事が返ってきて、じわりと胸の内から熱いものがこみ上げてきて泣き笑いになってしまった。


「さあ、こっちに来て。テスト前だから長くは借りられなかったんだ。時間は有限だよ」


 雪融けのようの穏やかな微笑を浮かべる香ちゃんに手を引かれて席に着いた。
 それから一時間、皆と他愛ない穏やかな時間を過ごした。曇天のようにくすんでいた気持ちに柔い陽光が差したような暖かな時間だった。




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