月花に謳う



15




 香ちゃんから連絡がきたのは唐突だった。今日の放課後の予定を確認するメッセージ。しかも1時間くらい時間がかかる旨が記されている。
 土日が明けたらいよいよテストが始まる。今日、俺が空いてないと言えばテスト真っ最中に、ということになっただろうから本当に急だ。いつもこういうことは事前に言ってくれることの多い香ちゃんには珍しい。
 それにしても1時間もかけてすることって何だろ?
 教室移動の途中、歩きながら携帯の画面を見て首を傾げていたからか、隣を歩く冬吾がこちらを窺ってくる。


「悠璃?どうした?」
「うん、ちょっと。放課後に用事ができた。冬吾は先に帰っていいよ?」
「なんだ、用事って。転校生絡みか?」
「ううん、その心配は大丈夫。香ちゃんからちょっと時間が欲しいって」


 香ちゃん、と言ったところで思い当たったのか苦笑された。俺が愛でるものにとことん甘いのを知っているからなんだろう。


「行くのか?」
「行かないという選択はないかな」
「……だろうなあ」


 香ちゃんには了承のメッセージを送れば、すぐに場所と集合時間の返答がくる。時間は指定した時間かそれ以降に来てくれると助かると書いてあるのが気になる。早く着いたら駄目な待ち合わせって何だろ?


「松坂にも言っとけよ」
「ちゃんと言うよ。というか、俺を場所まで送ってもらって帰ることになるのかな?」
「おー、じゃあ俺も悠璃のこと見送ってから帰るわ」
「うん。歩先輩にもよろしくね」


 近くをクラスメイトと話す松坂も捕まえて事情を説明する。それなら、ということで了承をしてくれた。

 保健室での一件から数日が経っている。メッセージのやりとりはしていたが、直接会うのは数日ぶりだ。
 会えるのは単純に嬉しい。

 じんわりと滲むような微笑を浮かる悠璃。最近少ない自然な笑みを見ることのできた冬吾もまた微笑ましく友人を見るのだった。



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