月花に謳う



17




 コレクションの子たちのおかげで穏やかに過ごせた週末。休みが明けていよいよテスト期間だ。
 問題はテスト期間二日目に起こった。初日から転校生も大人しくテストは受けていたし、生徒会も同様だろう。一応、転校生に狙われないように松坂と一緒にいるか、早々に教室を立ち去るようにしていたのだが問題は思わぬ方向からやって来た。
 帰り際、校舎を出ようとしたところで、鋭い声に呼び止められた。冬吾は別の友人と帰り、松坂も何やら用事があるようで代わりを寄越すということで校舎の入り口で待機ということになっていて一人だった。


「お前が霜野悠璃だろ。ちょっと付き合えよ」


 嫌な予感がして振り向けば、小柄な生徒とまあまあ体格のいい生徒の混じった七人ほどがいた。直観で分かった。俺にちょっかいをかけていた親衛隊だ。いつも逃げ回っていたので対面するのは初めてだ。
 表情からこちらのことをよく思っていないのがよく判る。はあ、とため息を吐き出して電話をかけることにした。


「おい、なんだよ!無視するのか」
「あ、もしもし。――あ、そうなの。じゃあ、そっちの方が話が早いかも。今、目の前にいるよ。分かった、うん、待ってるね。」


 怒りの表情で見てくる生徒を冷たい視線で一瞥して。悠璃は校舎入り口のガラスドアにもたれた。これで背後を取られる心配はない。


「そっちこそ、なんの用事ですか。要件ならここで伺います」
「いいから、ついて来なよ。お前には分からせなくちゃいけないんだから」


 テスト終わりの校舎入り口ということで、何人かがチラチラをこちらを見て通り過ぎていく。関わり合いになりたくないのか、声を掛ける者はいないがそれとなく様子を窺っている生徒もいるようだ。この状況で手出ししてくるほど考えなしな連中じゃないといいのだが。


「言えないような要件ってことですか?そんな大層なことを仕出かした記憶はないんですが」
「この、生意気な!」


 暗に後ろめたいのはそちらだろうと揶揄すれば、わなわなと体を震わせる小柄な少年が物凄い形相で睨みつけてくる。短気だなあ。
 最近は必ず誰かといるから、こんな目立つ場所でしか話しかけてこれなかったんだろうけど。浅はかなのか、我慢がきかなかったのか。

 つらつらと思考しつつ、目の前でキャンキャン吠える生徒たちを前に悠璃は待つ。

 やがて、十数人ほどの生徒の集団と風紀の記章を付けた生徒がその背後からそっと近づいて来ているのを見留て口端を吊り上げる。周りもそれに気づき始める。
そして場が一瞬の静寂を支配し、何事かと振り向いた連中の表情がサッと変わった。


「やはり君たちだったか。マークしといて良かった。大人しく拘束されるんだね」


 切り裂くように鋭い、冷気を纏う声音。発したのは無表情の香ちゃんだった。
 さきほど連絡したのは香ちゃんだ。ちょうど松坂たちの交代要員で来る手筈になったということだったし、親衛隊なら彼の管轄だしちょうど良かった。

 香ちゃんは親衛隊対象には興味がないけど、前任者から組織の統制力を買われて今の地位にいる。親衛隊という組織改革に関しては妥協も容赦もしない。親衛隊のことは香ちゃんが片を付けるから、ここ一年ほどは風紀も親衛隊関連の取り締まりが減って楽になったと聞く。制裁は最重要の取り締まり事項で、香ちゃんは隊内で目を光らせているから、見当はついていたんだろう。



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