月花に謳う



7




 部屋から出て向かったのは瑞樹がいる部屋だ。


「悠璃?どうしたの、突然?」
「……瑞樹」


 薄暗い部屋のなかで悠璃の顔色は一層蒼白く見えた。瑞樹はすぐにそのことに気付いて悠璃のそばに寄る。


「どうしたの、何もないのに悠璃から訪ねてくるなんて……しかも顔が真っ青だ」
「うん、ちょっと。瑞樹、これ、もらってくれない?」


 口から存外、弱々しい声が出た。瑞樹に手にしていた容器を差し出せば、瑞樹は戸惑いながらも受け取ってくれた。


「これは?」
「歩先輩からもらったの……でも、ちょっと今、食べられそうになくて…」
「ふうん、まあそれはいいけど。預かっとくから明日の朝、食べられそうなら食べにおいで。それよりも」


 瑞樹の手がゆっくり伸びてきて頬を包む。確かめるように首元や額を触られた。


「熱はないみたいだけど。とりあえず部屋へ戻るよ」
「ん」


 瑞樹に手をとられて自室へ戻り、ベッドへ押しこまれた。横になって目を閉じると身体の重さをずっしりと感じて、疲れているのだと思った。


「気分悪いの?」


 ベッド脇に座る瑞樹の声が頭に降ってくる。落ち着いたゆっくりとした声はこちらの心も落ち着けてくれる。ほぅっと息を吐き出しながら答えた。


「ちょっとだけ…」
「夕飯は?」
「サンドイッチ食べたけど……もどした…」
「そっか。他に頭痛があったりは?」


 ふる、と首を振った。頭が重い気がするけれど、頭痛はない。本当に食欲がないだけだ。


「明日、学校は休みなよ」
「大丈夫、行くよ」
「だめ、休みな。俺が連絡する」
「でも、」


 反論するのに合わせて起き上がろうとすれば、瑞樹の手がそれを押しとどめた。優しい、慈愛の滲む苦笑交じりの微笑でこちらを見つめてくるから、心配されているのが分かって居心地が悪いような気がしてくる。本当に瑞樹には昔から心配させてばかりだ。俺が一番沈んでいたとき、親身になってくれたのも彼だった。



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