柘榴石:逆鱗
放課後、生徒会室に琥珀は書類の確認に来ていた。急ぎではないから、進捗と必要な資料の確認だけだ。
生徒会室には総一と琥珀だけ。副会長もいたが、今は先生のところへ遣いに出ていて不在だ。
「二条、何か急ぎの書類はあったかな」
「……ないな。会計での期限内の書類はもう提出されているし。強いて言えば後輩の指導をしてやってくれ」
問いかければ、執務机の上の書類の束を探って確認する。会計としての仕事がきっちりと終了していることを確認した二条は何とも言い難い表情になる。この前、仕事をしろと言われたからちょっとした意趣返しのつもりだった。
「今の時期なら大丈夫でしょ」
「まあ、そうなんだが。木附、親衛隊の方はどうなってるんだ?」
「それについては翡翠が黙っていたみたいだけどね。嫌がらせはされているみたい。まあサイが協力してくれるっていうから、大事にはならないと思うけどね」
「……風紀副委員長か」
二条は渋面を隠しもしない。それは知り合った後輩を慮ってなのか、琥珀の対応が甘いことへ対する苦言を飲みこんだからなのか。はたまた風紀副委員長、通称白い悪魔に対しての不快感か。琥珀はそれを見て薄く笑み刷く。いずれでも構わない。
「気を付けるにこしたことはない、そう言いたいのだろうけど。もうすぐ俺の親衛隊は解散させるよ」
「は?」
「翡翠に危害を加えた者を赦すわけにはいかない」
「解散させるって、それは……そっちの方が面倒ごとになるんじゃないのか」
「そうかもね」
「かもね、ってお前…」
彼が言いたいことも一理あるのだろう。けれど、それ以上に赦すことができない。
俺の大切で大事な唯一を傷つけたのだから。逆鱗を踏んだこと、思い知ればいい。