翠雨 | ナノ


翠 雨  


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柘榴石:2



「何が望みですか」


 ニコニコと愛想よく笑っていた彩伽が小さく息を吐く。


「やっぱり、こうして話してみると実感するなあ。キミ、琥珀と似てるよ。疑り深くて、こっちを肯定しつつも冷静に考えてるんでしょ?琥珀と最初に会ったときもそうだったよ。読めない目をするんだ」


 図星だった。彼の言うことが本当なのか吟味する一方で、彼を利用できるかもしれない、と頭の隅で打算が働いていた。
 彩伽が一歩、また一歩とゆっくり階段を下りてくる。微笑を湛えて、勿体ぶるようにこちらに近付いて来る姿はまるで咎人を裁く執行人。見つめるこちらは断罪を執行されるのを待つ罪人のような心地だった。
 彼がピタリと目の前で立ち止まる。後退りしたい気持ちでいっぱいだったけれど、本能がそれを引き留める。このまま背を向ければそれこそ捕えられそうだ。踏ん張り、威圧的な彩伽を前に背筋を伸ばした。


「身長、同じくらいかと思ったけどオレの方が少し高いね」


 品定めをするような視線には嫌気がさす。


「オレ、面白いこと好きなんだよ。キミたちのことを禁忌だって咎める気はないけど、そう知らないやつらがどう動くのか、キミらがどうするのかが愉しみなんだ。少しくらいは味方してもいいけど、オレの立場的に中立だからさ、贔屓はできないんだけど」


 随分と都合のいい人だ。


「つまり、こういうことですか。貴方は僕たちのことを黙っていてくれる。偏って味方するわけじゃない。けれど、もしものときは少し手を貸してくれる、と」
「いいよ、それで合ってる。制裁を未然に防いだりはできないけど、ピンチになったらヒーローみたいに助けてあげる」


 彩伽が灰色の目を細める。


「冗談だよ。確約はしてあげられないけど、協力はしてあげる。」
「風紀の仕事とどう違いますか」
「風紀だって百パーセント防げるわけじゃない。それのオレの力で限りなく百パーにしてあげる。あと聴取についても免除しようか。きかれたら困るんでしょ。なんて答えるの?恋人?それとも先輩と後輩?もしくは――」


 兄と弟?

 白い悪魔が耳元で囁く。
 本当に厄介なひとだ。言った通り、愉しんでいるんだ。


「ま、キミが拒否しても勝手にやらせてもらうんだけどさ」


 愉快犯を謳う彼は先ほど言ったようになまじ権力を持ち併せているから質が悪い。


「じゃあ、貴方の好きにしてください。僕に拒否権はないんでしょう?」
「いいね、その感じ。琥珀もだけどキミも僕の好みだな〜。もし何かあっても不利にはならないようにしてあげるよ」
「それはどうもありがとうございます」


 なんともいえない複雑な心境なんだけれども。このひとに好かれるのが厄介な気がしてならないのは気のせいではない。後で琥珀にも相談してみよう。


「それじゃあね、翡翠くん」


 ひら、と手を振って鼻歌を歌いながら彼は去って行った。嵐みたいなひとだったな…。



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