翠雨 | ナノ


翠 雨  


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柘榴石:遭遇



 数日後、唐突に声をかけられて驚いた。
 弾むような、どこか無邪気な声。それは階段の踊り場からきらきらと降り注ぐ穏やかな陽光とは反対に、どこか不穏さを孕んで降って来た。


「みーつけた」


 廊下から頭上をそっと見上げた。すると思ったよりずっと高い位置にあったグレイの瞳とかち合う。逆光で変に光って見えて、反射的に後退ろうとしても身体が動かず、息が詰まる。彼は上の階段へ続く手すりに体を預け、頬杖をついて、こちらを悠然と見下ろしていた。一瞬呆けるも、すぐに脳が情報を引っ張り出す。


「風紀、副委員長……」


 色素の薄い髪と瞳、一見して細身の体躯は華奢と呼べなくもないけれど――外見からすれば天使のような少年であっても、その実際は風紀一の検挙率を誇る武闘派だ。別名、白い悪魔。岸本彩伽。
 僕の声に少年の口端がニィッとつり上がる。背筋に悪寒が走った。どこかで警鐘が鳴っている。


「そうだよ。知っててくれたんだ?」
「……僕になにかご用でしょうか」
「まあまあ、そんなに警戒しないでよ。御影翡翠くん?」
「……」
「オレさあ、この間琥珀に聞いたんだよ。そのピアスの宝石ってホンモノって?そしたらさあ、なんて言ったと思う?エメラルドじゃなくって翡翠だって。」
「……なにが言いたいんですか?」
「琥珀のお気に入り。きみ、あれでしょ。今、親衛隊に散々いびられてるっていう琥珀の恋人っていう噂の……そう、きみの旧姓は木附だね?」


 どくり、と心臓が嫌な音を立てる。何で、その言い方じゃ、まるで――…。


「それを知ってどうしますか。僕か琥珀を脅しますか。」
「いんや、何もしないよ?」


 即答。


「ただあの琥珀がさ、君を囲い始めたって聞いて興味もって調べただけだよ。そしたらさ、旧姓が一緒なワケだしィ?びっくりするよねえ。でもそれだけだよ。琥珀だって一応、友人だから何かするつもりはないよ。むしろ何かあったら助けてもいい」


 もうこの人はきっと分かっているのだ。僕と琥珀が本当は兄弟だってことを。




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